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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
第六章 錬金術士はにんきもの
96/325

96.引かれた幕のそのあとで


 奮闘の結果、なんとかマリスたちを撃破することができた。

 今まで戦ってきた個体と比べるとかなり弱く、大して苦労はしなかった。

 二足歩行のオオサンショウウオのような姿の彼らだが、動きは緩慢、敵意も薄く、夢遊病者のようにふらふらと歩いたかと思えば思い出したように攻撃してくる。そんな彼らの様子にミサキとフランは困惑しながら対処に当たった。

 

 運のいいことに、マリスにされた彼らをプレイヤーを除いて犠牲者は出なかった。

 出現した時点で観客たちが慌てて逃げ出したことや、マリスの攻撃性が低かったことも手伝っているのだろう。

 しかしそうなると、あの黒い男はいったい何のためにこんなことをしでかしたのだろうか。

 

 大勢のプレイヤーがいる時、場所を狙ったのはわかる。

 しかしマリスを使ってプレイヤーたちを倒そうとしていたとも思えない。あのマリスたちは弱すぎるし、そもそもミサキとフランというマリスに対する銀の弾丸が揃っている場でわざわざそんなことをするだろうか。

 あの弱さが想定外だったというならまだいい。だがもしも――――


「……サキ。ミサキ、ちょっと聞いてる?」


「ごめんちょっと考え事してるから」


「聞いてるんじゃないふてぶてしいわねっ!」


 思考を止めて顔を上げると、こちらを覗き込む綺麗な顔が見えた。

 腰に手を当てて頬を膨らませているのはミサキの相棒、フランである。


 結局あれからカンナギとの決闘はうやむやになってしまった。

 マリスが発生した時、戦おうとした彼に早く逃げろと言ったのが最後、会ってもいない。昨日の今日だから仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 それにしても存外素直に聞いてくれたものだと思う。彼の性格なら戦うと言って譲らないと思っていたのに――きっとカンナギは、あの局面において自分がいても役に立たないことを理解したのだろう。


 できないことをできないと割り切ることは、きっと思っているより難しくて、それでも彼は潔く引いた。

 カンナギはおそらく何でもできる人間ではないのだろう。初対面の時だってひとりでボスに挑んで初見殺しされそうになっていた。

 自分だけでできることには限界があることを知っている、そういう人間なのだ。


「…………そういうところが嫌いなんだけど」


「なんか言った?」


「カンナギのこと! まったく、わたしがどれだけ気にしてたと思ってんの」


 あの男と出会ってから振り回されてばかりだった。

 右往左往して、じたばたして、本当にみっともない。

 結局カンナギと半分勢いで戦って、負けそうにまでなって。

 ずっと頭に血が昇っていたのだと自覚する。


 あのマリスをばらまいた黒い男が勝負を中断したことは腹立たしいが、そのおかげと言っていいのか少なからず頭は冷えた。


「で、結局どうするの。あの人のギルド入るの?」


「入らないわよ?」


「はああああああ!?」


 思わずソファから立ち上がる。

 声と挙動に驚いたのかビクつくフランだったが、すぐに落ち着き気まずそうに頬をかく。ミサキがこういう反応をすることはある程度予想していたのだろう。


「なっ、だ、んん……!?」


 なんで早く言わないんだ。

 だったらなんで最初からはっきり断らなかった。

 それならわたしが戦った意味って。


 そんな言葉があとからあとからあふれ出て喉で渋滞を起こす。

 

「…………もともとはギルドに入るつもりなんてさらさら無かったの。でもあいつがあたしの要望は全部叶えてくれるって言うじゃない? だったらこき使ってやるのが得でしょう?」


「ええ…………」


 むごい。

 ミサキからすればカンナギは気に入らない存在だが、それでも不憫だ。

 好意を利用されている……。


「素材の調達なり設備の向上なりしてくれるなら得だと思ってたんだけどね。でも勧誘を断ることにしたのは……よく考えたらさすがに酷いと思ったのが理由の二割」


「少ないよ。もっと気にしてあげてよ」


「あとの八割は、まあ、あなたのためよ」


「わたし?」


「そうよ。レアな素材が手に入りやすくなったらもっといい装備だって作れるでしょう? だからカンナギの勧誘に乗るのもアリかなと思ったの。でも、」


 そこで一度言葉を切り、フランはにやぁっと嫌な笑みを浮かべた。

 あ、これは弄ろうとしてくるときの顔だ、とミサキは渋面を作る。


「『わたしと一緒にいて』」


「うぐ」


「『あいつのギルドなんかに入らないで』」


「うぐぐ……」


「『わたしの隣に居てくれるっていったじゃん』」


「もうやめて!」


 ノックアウト。ソファに頭から突っ込みぐりぐりとうずまる。

 こんなに恥ずかしい想いをしたのは初めてだったかもしれない。

 勢いでそんなことを言ってんじゃないよ過去のわたし、と自分自身を呪う。

 

「そんなこと言われたら……ね。ギルドに入る気なんてなくなるわよ」


「……いいの?」


「いいの。……あたしね、友達ってものがいないの。住んでたところには同年代の子がいなかったし、遠出もあまりしなかったし。だから友達なんてできなかった」


 少しだけ寂しそうに俯くフラン。

 ……学校には行かなかったのだろうか。

 見る限り同年代のフランは学校に通っているはずだが……本当に謎が多い子だ。


 でもそんなことはどうでもいいな、とも思う。

 今そこにいる相棒がミサキにとっては全てだ。


「だからその、ミサキがあんなふうに言ってくれてびっくりしたのよ。そこまで好かれてるとは思わなかったし、友達ってものに慣れてなくて……でも、嬉しかった」


 誰かが投げかけた、自分への想いに戸惑う。

 それはミサキにも覚えのある感情だった。

 喜びと驚きの入り混じった心地よい照れくささを、きっとフランも味わっている。

 

 フランとの付き合いはまだ短いものだが、思い返せばいくらでも思い出が溢れ出す。

 それくらい濃い時間を共に過ごしてしたということだ。


「きっと、私にとってあなたは無くてはならない存在なのね」


「わたしも。フランがいないと楽しくないよ」


 大真面目に見つめ合って、それが何だかくすぐったくて、どちらからともなく笑いだす。

 ああ、楽しい。本当に飽きない。ずっとこの時間が続けばいいのに。

 そんな想いが胸いっぱいに満たされる。


 いろいろと振り回されて右往左往して、思い出せば顔が熱くなってくるほど恥ずかしいが、それも悪くないと思える。

 こんな時間を守るために――マリスを根絶しなければ。

 そんな決意を、ミサキは新たにした。


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