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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
第五章 ルール無用の残虐レース
74/325

74.翔翼、炎を断つ


 両腕に二本、そして空中に浮遊する四本の刀。

 合わせて六刀を携えたスズリに対し、クルエドロップは冷ややかに双眸(そうぼう)を細める。


「…………ふーん」 

  

 運営側の人間である彼女は、このゲームにおいてマスクデータとなっている仕様もある程度把握している。


 六刀流とまでなればスズリのクラスは十中八九『極剣』だ。その固有特性は剣カテゴリ武器の複数同時装備。

 とは言えクラスチェンジ初期は四本までという制限がついている。そこから戦いを重ね、クラス熟練度を積むことで装備可能数があがっていくというシステムになっていると聞いた。

 おそらく装備していた四刀がクルエドロップにまとめて破壊されたタイミングと、六刀流が解放されたタイミングがほぼ同時だった。そして装備が空白になったことにより、持っていた剣が自動で装備された――というのが、今しがた起きた現象の正体なのだろう。


 ……つまりスズリは余分に何本も剣を所持していたということになるが。


「なんかおかしな人やねえ。そんなに剣が好きで、たくさん剣持ってて、でも特定の剣に思い入れがないなんて。弁慶じゃあるまいし、そんなに持っててもええことないで」


「……………………」


「うちはこの刀が好きや。《チギリザクロ》……かわいい錬金術士さんにオーダーメイドしてもろたこの子はうちにぴったりハマってる。あんたはどうなん?」


「私の剣は」


 その言葉を遮るように風を切って接近したクルエドロップの凶刃――しかし眉一つ動かさず、スズリは両手の二刀で受け止める。

 色素の薄いスズリの瞳が剣越しにクルエドロップのそれを捉える。

 もう揺らがない。


「この『スズリ』が――私自身が他ならぬ私の剣だ」


「…………嘘つきのハリボテ自慢。のぼせあがらんといてくれる?」


 力任せに刀を振るい振り払うクルエドロップ。

 互いに距離が離れ、睨みあい――そこに小さな影が差す。

 咄嗟に見上げると、落下してくる少女が一人。

 自身を砕き割らんと迫るその拳を、クルエドロップは素早く後ろにステップ回避した。

 

「あっぶないなあ!」


「わたしを忘れないでね!」


 間髪入れず、ミサキはその拳を大地へと叩き込む。

 するとひび割れた道路は容易く砕け、大量の破片が空中へと舞い上がった。


「だあああっ!」


 その破片を、ミサキは渾身の回し蹴りでまとめて吹き飛ばす。散弾銃のごとく飛び散る無数の石つぶてがクルエドロップを襲う。


 素手であるミサキはその時点でハンデを負っている。リーチにスキル――それ以外にも武器を持っている大多数に劣る部分は多々あるが、だからこそ彼女は勝つためになんでも使う。

 味方だろうが、その場にあるオブジェクトだろうが、地形だろうが。

 

 特に今回は相手が相手だ。自分に匹敵するプレイヤースキルの持ち主――いや、おそらく自分以上の実力者。だからこそ自分の力だけで勝つことは難しい。


 だからクルエドロップを倒すためにはスズリとの協力が必要不可欠だ。

 共闘は今回が初めての二人、阿吽の呼吸というわけにはいかないだろう。

 だからこそ瞬間瞬間で相手の行動から意志を読み取り、都度合わせていく必要がある。


「こんなもん効かんて」


 クルエドロップは飛んできた石つぶてのことごとくを切り落としていく。

 驚嘆に値する刀捌きだが――それは明確な隙だ。

 

 すでにミサキは懐に入りこんでいる。


「いつの間に…………っ」


「小さいから紛れるのも得意なんだよ、ねッ!」


 アスファルトの弾幕に隠れ、限りなく低くした体勢から放たれたアッパーがクルエドロップの顎を撃ち抜いた。

 初めてのダメージ――だが喜んでいる余裕は無い。

 仰け反ったクルエドロップに対し、攻撃の手を緩める理由はない。


「【飛旋(ひせん)・鬼神楽】!」 


 スキル発動の宣言に、クルエドロップは反射的に視線を巡らせる。

 すると左前方、空中から――二本の剣が合わさって高速回転し、まるで丸鋸のような姿となって空を飛んでいるのが見えた。

 

(軌道は大きく旋回してこっちへ……当たったらヤバそうや――違う!)


 釣られそうになった意識を目の前に引き戻す。

 ダンッ! と力強い踏み込みと共にミサキが拳を握りしめ、その後方からはスズリが残り四本の剣を携え接近してきている。

 波状攻撃……少しずつだが確実に彼女たちの連携が噛みあってきている。


 ゼロコンマレベルの一瞬で、クルエドロップは優先度を割り振っていく。


(予想される被ダメージはあの嘘つきちゃん本体が一番――攻撃の始動が早いんはミサキちゃん――でもこっちに対応してたらあの丸鋸を食らいかねんしそしたら嘘つきちゃんが――ああもう!)


 珍しく焦りを見せたクルエドロップは腰だめに刀を構え、


「【煉獄・大千本(だいせんぼん)】!」


 一気に振り抜いた。

 途端、クルエドロップの全面180度を完全にカバーする超広範囲の大火炎が炸裂した。

 この戦闘が始まった直後披露した大技――まるで大きく開いた赤い花びらのような紅焔が広い交差点を根こそぎ舐め尽くしていく。

 

 あの状況で回避など不可能。

 飛んできた丸鋸も、ミサキもスズリも消し飛ばした。


「――――な」


 はずだった。

 突如として紅焔が八つ裂きにされ、現れたのは四刀を持ったスズリ。

 

(…………なんで!? さっきまですぐそこにいたのはミサキちゃんのはず――じゃああの子はいったいどこに)


 混乱しつつもスズリへの対応を優先しようとする。

 だが、


「技後硬直……っ」


 刀を振り抜いたままろくに身体が動かない。

 大技にはそれ相応のリスクがあり、イベント用スキルと言えども例外ではない。


 いや、むしろ彼女の使っているスキルはイベントの関門で使用されることを前提にデザインされた、いわゆる『敵専用技』だ。つまりプレイヤーたちに対処されるため、派手なスキルを何とかやり過ごし、その隙に攻撃するというプレイングを想定されているのだろう。


「隙だらけだ!」


 四刀がクルエドロップへと襲い掛かり、連なる斬撃が胴体を何重にも切り裂いた。

 武器を多く装備できるということは、そのまま攻撃力の大幅な上昇に繋がる。それだけではなく、その武器にパッシブスキルが付いているならそれもまた多く積めるということになり、これまた火力アップにつながる。

 唯一の難点といえば多刀の扱いが非常に難しいということだが、今のところ問題はないようだ。今まで羞恥の克服にトーナメントへ精力的に参加していたこと――豊富な実戦経験が今の彼女を支えている。


「…………はっ! けっこうやるやん嘘つきちゃん!」


 大量のHPが一気に削られてしまったことに内心動揺しつつも、クルエドロップは返す刀で攻撃を終えたばかりのスズリの首を狙う。

 だが、刀の軌道がどこからか飛んできた剣によって変えられた。


「忘れないでって言ったよね!」


 上。

 身長の何倍にも跳びあがったと思われるミサキが投擲後の体勢で勝ち誇る。


 おそらく獄炎を大ジャンプで回避し、丸鋸になっていた剣を回収したのだ、とクルエドロップは判断した。

 そしてその二本の剣のうち一本をスズリを狙う刀へと向かって投げつけた。


「スキルというのはただ撃てばいいものじゃない。使った後のことまで予測しなければ自分の命を脅かすものにだってなりうるんだ」


 ミサキが投げ、刀を弾いた後あらぬ方向へと飛んでいこうとしていた剣がスズリのコントロール下に置かれ、主の元へと舞い戻る。

 これで両手に二本、空中に三本――五刀流。


「これで最後だ――【五行羽々斬(ごぎょうはばきり)】」

 

 五方向から放たれた純白の翼のごとき斬撃は、クルエドロップを容赦なく切り裂き、真っ白な羽根を舞い散らした。

 

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