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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
最終章 わたしたちは
297/325

297.相似性フォスフォロス


 塔から見下ろすホームタウンでは今もまだ激しい戦闘が繰り広げられている。

 盾役のくま、ガンナーの翡翠、斬撃武器使いのカーマがマリスの大軍から他のプレイヤーたちを守っていた。

 

「みなさん、中央広場へー! あそこは逃げ道が多くて開けているから奇襲もされにくいですよー! 広場周辺のマリスはひとまず掃討したので安全です、急いで避難を!」


 パニックを起こして逃げ惑う人々へ声を張り上げつつ、襲い掛かる小悪魔のようなマリスの眉間へ銃弾を撃ちこむ。

 幸いと言っていいのか、現在タウンで暴れるマリスたちの強さはさほどでもない。攻撃をまともに食らえば即死しかねないほどの凶悪な攻撃力を誇るものの耐久力はかなり低く、しっかり攻撃を当てることさえできればあっけなく倒せてしまう。

 それに体感ではあるが、マリスの数が追加される頻度が減少している。

 最初こそ恐ろしいくらいの数が投下されたものの、このペースで狩り続ければいつかは撲滅できるだろう。


 運営から配布された簡易版のマリスの力も現状は問題なく機能している。

 いつ暴走するかという不安もあるが――心の奥底へと押しとどめる。

 別れるとき、ミサキが言っていた。マリスの力を扱う時はメンタルを下に向けてはならないと。

 そうしないと飲まれやすくなってしまうかもしれないと。


「はああっ!」


 翡翠はぐるりとコマのように回転し、周囲のマリスへと銃弾をばら撒く。

 ひたすらに数を減らす。そして安全な場所を広げる。

 ひとりでも多く助けてみせる。きっとミサキもそれを望んでいるはずだ。


 周囲の敵がいなくなり、とりあえず一息くらいはつけそうだ。

 翡翠はゆっくりと空を見上げる。視線の先には豆粒のように遠ざかった塔が鎮座していた。


「気を付けて……ミサキ(沙月)さん」


 どうか無事で。

 翡翠が望むのはただそれだけだった。

 





 やっとの想いでミサキたちは6階にたどり着いた。

 前の5階と違い、今度は敵が配置されていないらしい。

 思わず胸を撫で下ろし、だだっ広い部屋中央の扉へと近づいていく。

 

(きっついな……)


 ひたすら塔を登って行けばいいと思っていたが、同じ景色が延々続くせいで今自分がどこにいるのか頻繁に抜け落ちそうになる。

 精神が削られているのを感じる。それはミサキだけではないようで、ここにいる全員の顔色は暗い。

 あとどれくらい登ればいいのだろう。どんな敵が待ち受けているのだろう――そんな不安が腹の中に居座って心を圧迫してくるのだ。


 このイベントが――このゲームの名を冠したイベント、『アストラル・アリーナ』が開始してからどれくらいの時間が経っただろう。

 何時間も経過したような気がするし、一時間も経っていないような気もする。

 時間を確認するのも何となく避けていた。無駄に焦りたくない。


 最初と比べて人数もかなり減ってしまった。

 ミサキ、フラン、リコリス、ルキにフェリの5人。これ以上戦力を削られては最後に待ち受ける何者かとの戦闘が心もとない。

 だがそんな不安を出してはならない。沈めばいくらでも沈んでいける。今はそんな状況なのだから。

 

「ほらみんな、なにしょぼくれた顔してんの! たぶんもうちょっとで最上階だよ、がんばろー!」


 努めて明るい声を上げ、拳を突き上げたミサキに、フランはにやっと意地の悪い笑みを浮かべた。


「頑張っちゃって。あなたそういう役あんまり向いてないわよ」


「頑張ってるとか言わないでよ!? いやその通りなんだけどもうちょっとこう……温かい目で見てくれたってさあ……」 


 くすくすとフランたちから笑い声が上がる。

 思っていたのとは違う形だが、少し空気は和らいだらしい。

 こっそり息をついたミサキは踵を返し、扉のホログラムを確認する。


『定員 2/4 これで最後だ。気合入ったコンビで来いよな!』


 最後。

 この文言が正しければこの上――7階が最上階だ。

 そしてこれまでとは違う表記。


「つまり――向こうは二人。こちらも二人で入らなければならないということか」


 ミサキの後ろから確認したリコリスが口元に手を当てる。

 二対二。つまりはタッグバトルだ。

 おそらく待ち受けているのは生半可な二人ではないだろう。


 だが、


「……私たちが」「行くよっ!」


 手を挙げたのはルキとフェリの双子だった。

 確かにこの二人なら。以前タッグトーナメントでミサキとフランを追い詰めに追い詰めたこの二人なら適任かもしれない。

 しかしここに至って気づいてしまう。彼女たちがまだ子どもだということを。

 こんな戦いに巻き込んで良かったのか――目を逸らしていた事実に今さら気づいてしまう。

 そんなミサキのためらいを双子は感じ取ったようで、


「……あのね、ミサキちゃん。私たち感謝してるの」「そーだよ!」


「感謝?」


 うん、と示し合わせたようなぴったりさで双子は首を縦に振る。

 

「前に私たちが仲直りする手助けをしてくれたでしょう?」「うんうん、おかげでまたこうして一緒にいられるんだもんね!」


 元通りになったことを証明するかのように双子は頬をくっつけた。

 その表情に、衒いは一切含まれていない。


「だから恩返ししたいの。このゲームでなら私たちも力になれる」「私たち二人ならどんな相手にだって勝てるんだから」


「……そっか。そうだね」


 子どもと言うならミサキだってまだ高校生だ。

 そんな理由で今さら止められたって納得できないだろう。

 それに、ミサキも任せてみたくなった。この二人の強さは身を持って知っているから。

 

「よし、じゃあ勝ってきて!」 


「「うん!」」


 ぴったり揃った返事と共に、双子は扉をくぐり光の中へと消えた。

 それを見送った後、リコリスは小さくため息をついた


「……すごい子たちだな」


「そうね。将来が楽しみだわ」


 これで残り三人になった。

 ミサキ。フラン。リコリス。

 次の階が最後だ。

 ミサキたちは頷き合うと、バリアが剥がれた階段へと走る。





 ルキとフェリがたどり着いたのは鍾乳洞の中にできた、だだっ広い空洞のような場所だった。

 天井からは無数の鍾乳石が垂れ下がり、その中のいくつかは地面にまで到達してしまったせいか石柱となっている。

 火のついた燭台がそこかしこにあるおかげで充分な視界が確保されているが、物々しい雰囲気までは打ち消せない。

 ぐるりと見渡してみるも出口らしきものはどこにも無かった。

 石柱の林立する閉鎖空間。それが双子を待ち受けていた戦場だった。


「お前らが俺たちの相手かァ? ちっせえなあ大丈夫かよ!」


「うるさいぞカゲロウ。洞窟の中だとお前の声が響きまくって耳障りだ」


 空洞の奥。

 柱の影から現れたのは粗暴そうな赤褐色のツンツン頭と、シャープな眼鏡をかけた線の細い男の二人だった。

 ルキとフェリは思わず身構える。

 この二人はそれぞれ『炎パイア』と『ハイドレイン』というギルドのリーダーだ。

 対峙するだけでわかる。この二人は強い。ギルドの長を務めるだけの実力はある。

 

「……さて。俺らは上司みたくたいそうな目的はねえ。ただ面白そうだからここにいる」


「僕は違うぞ。お前の目付け役を買って出ただけだ」


「はっ、そんなこと言いながら期待してたくせによ。どんなやつらが来るのか……ってさ」


「そんなわけないだろう。だいたいお前はいつも……」


 言い争いを始めるカゲロウと時雨。

 そんな気の抜けた振る舞いを見た双子は視線を交わし、頷く。


「やあっ!」「だあぁーっ!」


 ルキの射る光の矢とフェリの振り回すハルバードが襲い掛かる。

 だが、


「まあ慌てんなよ」


「僕たちがじっくり相手をしてやる。楽しませてくれよ」


 振り下ろしたハルバードはカゲロウの巨斧に止められ。

 矢は時雨の青い長剣に弾き飛ばされた。

 こちらの攻撃が完全に捌かれる。見くびっていたわけではないが、やはり強い。


 しかし。

 そんな状況にありながら、双子は衒いのない笑みを浮かべた。


「……いいよ。目いっぱい楽しませてあげる」「だけど勝つのは――私たちだよ!」 

  

 憧れた人の道を拓くため。

 天使と悪魔の双子は力強く啖呵を切った。


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