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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
最終章 わたしたちは
294/325

294.がんばれネクロマンサー


 塔の五階にたどり着いたミサキたちを迎えたのは、大量のモンスターだった。

 

「ここに来て……っ!」


 円形の広場にひしめくのはどれも見たことのある多種多様なモンスター。スライムにゴーレム、リザードマンに狼……その数はざっと見て50に達しようとしている。

 対してこちらは6人。モンスター相手ならと思いたいところだが、それぞれが極めて高レベルで厄介な雑魚モンスター。雑魚という形式を躊躇ってしまうくらいには強敵ぞろいだ。

 全員でかかれば負けはしないだろう。

 しかしその場合の損失は決して小さくないものになる。最悪こちらの人数が減ってしまうことだって考えられる。

 数とは力。こちらがどれだけ強かろうが大勢で向かってこられたら苦戦は必至だ。

 

 どうすればいい。

 正面から戦って数を減らし中央の扉へ誰かが入るか。

 それとも無理やりに突破するか。

 どちらにしてもリスクは免れない。

 

 いっそ配置されたのがマリスだったら――と思わずミサキは歯噛みする。

 そうなればこちらもミサキとフランがマリスの力を使い、圧倒的なパワーで蹴散らすことも可能だった。

 おそらくはそうさせないため通常のモンスターを配置したのだろう。


 迷っている間に――数秒後にはモンスターたちが階段の終わり口に立ちすくむこちらに気づき一斉に襲い掛かってくる。

 どうすればいい。

 そう思っているのはミサキ以外も同じだった。


 ゴスロリチャイナのネクロマンサー、ライラックを除いては。


「【軍屍・渇亡】!」


 床に突き立てた棺桶が勢いよく開くとそこから黒い瘴気が雪崩のような勢いで溢れ出す。


「ら、ライラ……!」


 姉のリコリスが面食らった様子で振り向く。

 ライラックは躊躇いがちに頷きを返すと、


「こ、ここは……ライラが抑えます。みなさんは先に行って……!」


 ライラックが発動した【軍屍・渇亡】は、瘴気から大量の亡者を召喚するスキル。

 今も視界の内では溢れ出した黒霧から次々に這いだした亡者たちがモンスターの大軍に掴みかかっている。

 数を減らすことまではできないだろうが、アンデッドだけあってすぐには倒れないし振りほどけない。

 少しの間ではあるが、実質的に無力化したと言ってもいい。


「わかった! ライラ、気を付けて!」


「ごめんなさい、任せたわ!」


 ミサキとフランが駆け出し、ルキとフェリの双子もぺこりと会釈して後を追う。

 亡者とモンスターがひしめき合う中を走り抜け、しかしリコリスだけが動けなかった。


「行って、お姉ちゃん……」


「……わかった」


 猶予は無い。

 リコリスは躊躇いながらも走り出し、妹の姿を振り返りつつ走って行く。

 

「よ、よし、あとは……!」 


 懸命に広場を突っ切ると部屋中央の扉に飛びつく。

 表示されたウィンドウには『定員 1/2 できれば来ないでほしいな……』と書かれている。

 そうは言っても入らないわけにはいかない。


「そうだ、ついでに……【禍骨(かこつ)】」


 抱えた棺桶から骨型のミサイルを大量に吐き出し、モンスターの内何割かを吹っ飛ばしておく。

 もしかしたら後から登ってくる他のプレイヤーもいるかもしれない。

 限りなく低い確率だろうが……念のため。


 ミサイルは小型だが威力は高く、大軍の数をある程度減らし他のモンスターにも削りを入れることができた。


「……と、とりあえずこれでいいかな……よし……!」


 ライラックは意を決して扉を開き、その向こうの光へと足を踏み入れる。




 鬱蒼とした森。

 遠くで響く不気味な鳥の声。

 怨嗟のごとく吹き抜ける風の音。

 ライラックはいつのまにか墓地に立っていた。


 規則正しく立ち並ぶ墓石はそのうち何割かが砕けてしまっている。

 墓荒らしか、それとも戦地にでもなったのか――ここがゲームの世界である以上はそういったデザインでしかないのはわかっているが、リアルでは女子中学生のライラックにとってはかなり物々しい場所だった。

 墓場というロケーションはネクロマンサーにとってホームグラウンドと言っても良いかもしれないが、ライラック本人としては普通に怖いだけだ。

 仮に目的が無ければ今すぐ回れ右していただろう。亡者を操る彼女ではあるが、特にホラー耐性が高いわけではない。


 だが、目的はある。あるのだ。

 ここにいるであろう”ボス”を倒して道を拓かねば――――


「ぎゃーーーーーーーーっ!!」

 

「きゃああああ!!」


 突然飛んできた悲鳴に思わず飛び上がる。

 比喩ではなく本当に足の裏が数ミリ地面と離れ離れになった。


 ライラックが泣きそうになりながら悲鳴の方向に目をやると、暗がりからこれまた暗い色をしたクラシカルなメイド服に身を包んだ女性がぬっと姿を現した。

 メイド服を着てはいるが、いまいちメイドに見えないのは纏った陰鬱な雰囲気と曲がった背のせいだろうか。

 何故か向こうも泣きそうで、卑屈な笑い声を漏らしている。


「へ、へへ……ごめんねえ、大きい声出しちゃって……ほらここって薄暗くて怖いでしょう? だからびっくりしちゃって……」


 目が泳ぎすぎて一切視線が合わない。

 ライラックもかなりコミュニケーションを不得手とする少女だが、自分より一回り以上年上の女性がこうなっていると逆に落ち着いてしまう。


「はあ、ほんとに来るなんて……嫌だなあ戦うの」


「た、戦うのが嫌なら……もうこんなことはやめませんか」


 ライラックの絞り出すような声は、そのもの勇気を振り絞って投げかけられたものだった。

 戦わなくていいなら戦いたくはない。

 今すぐこんなイベントなんて中断して、全部おしまいになってくれれば一番だ。


 しかしメイドは首を横に振る。


「そ、そうは……いかないよ。私たちには目的があるもの」


「目的……?」


 そう言えば彼らの詳細な目的はわからないままだった。

 この世界に大量のプレイヤーを閉じ込め、マリスを放ち、それで一体どうなるというのか。

 ただ人々を苦しめたいだけならまだ筋は通らなくもないが……(倫理的には通らないとは言え)。


「し……死んだ人を蘇らせる。それが私たちパステーション社の目的だよ」

 

 口にしたメイドはガコン! とどこからともなく巨大な十字架を取り出した。

 物々しい見た目はある意味墓場に似合っていなくもないが、メイド服にはミスマッチだ。


「わ、私の名前はあだ……あ、アドマイヤ。イリーガルは『堂々巡り(トレーニングモード)』……」


「ライラック、です」


 ライラックもまた、十字架と同程度の大きさを持つ棺桶を構える。

 死人の蘇生。それは奇しくもネクロマンサーの専売特許だった。


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