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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
最終章 わたしたちは
274/325

274.”アストラル・アリーナ”


 運営の会見を目にしようと電脳世界へと集まったプレイヤー、総勢13051人。

 彼らはいつの間にかログアウトを封じられていた。おそらくは今日ログインしたその瞬間から。

 そして現実世界への帰還を封じられたプレイヤーたちに向かって運営は――――


「さて、現在この世界にログインしておられる13051人のユーザー様方には――これからとあるイベントに参加していただきます」


 プロデューサーの哀神は良く通る声でそう宣言した。

 大衆へにわかにどよめきが広がる。

 

 大勢のプレイヤーたちをゲーム内に閉じ込めたこのタイミングでイベント?

 ミサキの中で悪い予感が膨れ上がっていく。

 そしてプレイヤーたちにとってもそれは同じだろう。まるで過沸騰を起こした液体のように、一石を投じるだけでパニックに陥ってしまう。


 運営がマリスを作り、この世界に流していた。

 この閉鎖空間に置かれたことで、その事実が突如として足元から這い上がってきたかのようだった。


「イベント名は――”アストラル・アリーナ”。イベントエリアはこの世界全てです。内容を説明させていただきますと……」


 哀神が指を鳴らすとその手の内に小さなカプセルが現れる。

 カプセルは透明で、中に黒い液体が入っているのが見えた。間違いなくマリスだ。

 進入禁止区域にかぶりついていた数人はそれを見て慌てて後ずさる。


「これよりこの世界にマリスを放流し続けます。皆様ご存知だとは思われますが、彼らには攻撃が一切通じません」 


「ふ……ふざけんな!」


 人ごみの中から筋骨隆々の男性プレイヤーが前に出る。

 その声も表情も怒りに満ちていたが、それと同じくらいの恐怖が含まれていた。


「なにがイベントだ、そんなもん一方的な虐殺じゃねーか!」


 彼に同調したのか周囲のプレイヤーもまた声を上げる。

 しかし哀神がカプセルを軽く降ると、それだけで沈静化した。


「ごもっともなご意見です。もちろんユーザー様方にもクリア条件を設定しております」


 こちらをご覧ください、と手を挙げるとホログラムモニターの映像が切り替わる。

 そこに映っていたのは巨大な建造物。

 

「あれって……!」


 ミサキは思わず目を見張る。

 それは以前フランを復活させるために極秘で開催されたイベント『クライムネスト』で使用された黒鉄の塔だった。


(まさかあのイベントってこの時のための試運転だったの……!?)


 不自然だとは思っていた。

 あれだけ小規模なイベントに大掛かりすぎるとは――違和感はあったはずなのに。

 その時はフランを復活させることで頭がいっぱいだったから。


「クリア条件は二つ。ボス用のアバターを授けられたわれわれ『アストラル・アリーナ』運営チームがこの塔で皆様を待ち受けさせていただきますので、全員の撃破に成功すればプレイヤー側の勝利となります。つまり皆様には大量のマリスを掻い潜りながら塔に突入し、攻略していただくという形になりますね」


 ……イベントと言いながら。

 そこにはプレイヤー側のメリットがまるで存在していなかった。

 これまでのような参加し、結果を残せば報酬がもらえるなどという真っ当なものでは決してない。

 クリアできなければそのままマリスの餌食になる。ただ生存を勝ち取るために戦えと哀神は言っているのだ。

 

 だが引っかかることがある。


「……塔なんてどこにあるんだよ!」


 絞り出すように誰かが声を上げた。彼もまた、マリスがいつ放されるか気が気でないのだろう。

 そう、あのイベントで使用したエリアは閉鎖されている――いや、削除されたとミサキは聞いた。

 しかしそれを口にしたのは哀神だ。何でもない報告の最中だったがそう言っていた。

 だがここに来るとそれは嘘とまでは言わずとも間違いだったと判断するほかないかもしれない。


 それを証明するかのような地響きが少しずつ大きくなっていく。

 注意深くしていなければ感知できなかった程度の規模から、今やこの場の全員がうろたえるほどの。


「塔なら――こちらに」  


 直後、哀神を始めとした運営チーム全員が消失する。

 その空白に驚く間もなく”それ”は現れた。

 地響きは突き上げるような振動に変わる。

 広場が、いや街全体が揺れている。


 そしてもぬけの殻になった進入禁止区域を押し開くようにして、それは現れた。


「うわあああああああっ!!」

 

 地面を突き破り出現した塔に、中心近くにいた者たちが吹き飛ばされる。

 それだけで致死量のダメージを受けたのか、空中でいくつものアバターが砕け散る。

 タウン内でダメージを受けているという異常事態が霞むほどの現象だった。


 大地が割れ、人々は逃げまどう。

 それを見下ろすミサキの目の前で巨大な黒鉄の塔はなおも地上に姿を晒していく。

 

 今度こそ恐慌状態になった街に、強くエコーのかかった声が響き渡る。


『申し訳ありません、もうひとつのクリア条件を説明し忘れていました』


 それと同時、空中に複数のホログラムモニターが表示される。

 そこにはミサキとフランの顔写真が並べられていた。


『皆様のアイテムストレージには安全に調整されたマリス・シードを配らせていただきました。その力を使い、ここに映っている二人を倒せばこれもまたイベントクリアと相成ります。さらにどちらかのキルに成功した方は無条件にログアウトしていただく権利が与えられます』


「――――え」


 一瞬何を言っているのかわからなかった。

 プレイヤーたちで協力して塔を攻略する……それだけでなくミサキとフランを倒すことでもクリアとなる。

 

「な、なに言ってるのアイツ……!!」 


 動揺するフランの声が隣から聞こえる。

 反してミサキは言葉を失っていた。


 ピンポイントで自分たちを標的にするとは――確かにマリスに対抗できるのはミサキとフランだけだ。

 これまでも二人は身を削って戦ってきた。

 それが目障りだったということだろうか。


 考えてみれば簡単な話だ。マリスの主が運営だったのなら、彼らにとって一番の障害は誰なのか考えるまでも無い。

 自分たちは手を下さずにプレイヤーたちに狩らせる。ああ、呆れかえるほどわかりやすく、そして悪辣な手だ。


 黒い雨が降り始める。

 いや、雨ではない。それはひとつひとつがマリスを内包するカプセル――マリス・シードだ。

 悪意の種は地面に落ちると割れて黒い粘液を溢れさせると次々に形を成し、見覚えのある人型のワラスボのような姿に変わった。


 絶望的な状況。

 これだけの数、二人で捌ききるのは困難だ。

 しかもマリスを倒してもクリアには一切繋がらない。

 

「…………それでも」


 それでも。

 きっとみんなは協力してくれるはずだ。

 10000人以上もいるなら力を合わせればきっとクリアできる――だが。


「……………………っ」

 

 そんな希望を断ち切るように向けられたのは無数の視線。

 広場の全員が……いや、もしかしたら今この世界にいるすべてのプレイヤーが。

 

 ミサキとフランに敵意の籠った眼差しを向けていた。


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