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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
第三章 いろんなプレイヤー、いろんなわたしたち
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26.暗く冷たい嵐の航海


 以前複数人がかりで容赦なく殺した相手――そんな奴と何をどう話せばいいのだろうか。

 

「あの、エルダ……さん」


「……なんだよ」


「いえ…………」


 傍らを歩くシオは何かを言おうとして、すぐに口を閉ざす。

 コツコツとブーツが地面を叩く音だけがダンジョンに響き渡り静寂を強調していた。


 クッッッッソ気まずい。

 何なんだよこの状況。


 以前のアタシは『弱そうなやつ=獲物』って行動原理で動いてたから他人と接することになんにも気にすることは無かったけど、今はそうじゃない――少なくともこの瞬間は。

 つーかなんでこいつ着いて来てんの? 逃げるだろふつう。


「……お前さ、なんで逃げねーの」


「え?」


「前にアタシに殺されて、なのになんで一緒に歩いてんだって言ってんだよ」


 いや違うだろ。

 そんなことが言いたいんじゃない。もっと先に言うべきことがあるのに、なんでアタシの口は勝手に動く?

 くそ、わかんねー。ギルドの奴らとはPKっていう繋がりしか持ってなかったし、それ以外のプレイヤーはビビッて近づいてこなかったからどう他人と接していいのか全くわかんねー。

 周りに誰も居なかったら頭抱えて転がりたいくらいだ――なんて煩悶していると、


「私、これが初めてのダンジョン挑戦だったのです。前みたいに最初から躓きたくなくて……だから帰りません」


「…………」


 俯きながらではあったが、彼女の目線は定まっていた。

 胸が少し痛む。シオの『最初』を台無しにしたのは他ならぬアタシだ。そしてそれを救ったのがミサキ。

 本当に嫌になる。自分がしたことの結果を、嫌というほど見せつけられている。

 あいつは勝って、アタシは負けて。そんな構図がずっと変わらないまま。


 認めるよ。

 アタシはずっとイライラしていた。

 あいつに負けたせいじゃない。あいつに負けたことによってアタシの姿を見つめなおすことになったせいだ。

 改めて省みたアタシの姿は少し歪で――それがまた、アタシのイラつきを加速させた。

 こんなのがアタシかって思っちまった。

 だから少しだけでも変わりたいと思ったんだ。


 強くなろうと思ったのはそのため。

 少しでもあのミサキに近づきたかった。屈託なく勝負に勤しむあいつに、アタシは憧れたんだ。

 

「あの時……騙して悪かった」


「え……」


「あの時、ログインしたてで何もわからなかったお前に、初心者を助けるなんて言って騙してごめん」


 顔は合わせられないし、頭を下げるでもない。

 シオの反対側を見たままの不格好な謝罪。これが今のアタシの精いっぱいだった。


「殺したことは、謝らないのですね」


「……ああ」


 その点に関してはアタシは悪いと思っていない。そういうゲームだし、それが許されている世界だから。

 自分が悪くないと思ってることについては謝るつもりはない。


 ただ、手段が悪かった。

 一時だとしても他人が預けてくれた信頼を踏みにじる行為だった。

 アタシはもう、そんなことはしたくない。


「許しません」


「……だよな」


「ごめんなさいって謝って、それで許して、また仲良くしてねってなんの衒いもなく出来るのは、仲のいい友達同士だけだと思うのです」 


 それは少し違う、と思った。

 例え友人の間にも確執が残ることだってある。表面上は解決したような素振りで、裏ではずっとその暗闇を抱え続けていることなんていくらでもある。

 

 でもシオの言うことは正しい。

 アタシは加害者で、シオは被害者。ただそれだけの関係だ。

 加害者が謝って、被害者が許して――それで終わりなんて、そんなの被害者は損しかない。いや損得で語るのはおかしいかもしれないが、だけどそれでは被害者が失うばかりだ。


 取り返しのつかないことだらけだ。

 起こした行動も、放った言葉も――一度自分の手を離れれば、二度と帰って来ない。


 それにしてもこいつおどおどしてる割には結構はっきり言うな。

 怖くないのだろうか、アタシが。


「エルダさんはどうしてあんなことをしていたのですか?」


「最初は相手を倒すのが気持ちよかった。でもいつからか歪んできて……」


「今は?」


「わかんねー。ギルドも無くなって、PK(趣味)も辞めて、それなのになんでまだ見苦しくしがみついてるんだって、いつも思ってる」


 マジで何が楽しくてこんなゲームしてるんだって思うよ。ミサキに勝つためなんて目標を掲げてはいるけどいつそれが叶うかもわからない。

 強さの問題じゃなくて、アタシがあいつを避けているからだ。あいつがトーナメントに精力的に参加しているのはわかっている。でもアタシはあいつが戦っているところを見たことがない。


 たぶん怖いんだろう。

 今のアタシとミサキの差を知るのが。

 縮まっているのか、それとも――――


「……私も」


「ん?」


「私もこのゲームをしている理由はよくわかりません。いえ、理由があるにはあるのですが……こうしてわざわざダンジョンに潜ったりする必要はないのですよ、本当は」


 シオはそこで初めてアタシを見た。

 視線がぶつかる。気持ちがわかるなんて言えねーけど、何か通じるものがあるのかもしれない。

 

「弱いままは嫌だなって。もう少し強くなればこのゲームを楽しめるかもしれないですし……自分の身も守れるでしょうし」


「耳がいてーよ」


「だからこのダンジョンに来たのです。調べたら難易度もあまり高くないようですし、ボスを倒せるくらいになれたらなって」


 そんなことを話していると、いつの間にかボス部屋についていた。目の前には巨大な岩の扉が鎮座していて、まるでアタシたちを見下ろしているかのようだった。


「エルダさんはどうしてこのダンジョンに?」


「憂さ晴らし……のはずだったんだけどな。今は少し違う」


「……?」


 首を傾げるシオに、アタシは答えない。

 こんなことは口にすることじゃない。

 

 シオの『最初』を踏みにじったアタシが、今度はこいつの新しい『最初』を見届ける。

 それがアタシのけじめのつけ方だ。

 独りよがりだし、意味は無い。こんなことが償いになんてなるはずがない。


 だけど、まあ、そうしたい気分だったんだ。

 そうしないといけないような気がした、それだけだ。


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