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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
第三章 いろんなプレイヤー、いろんなわたしたち
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25.巡り巡って回遊船

 

 ひたすらに剣を振った。

 雑魚相手に。ボス相手に。道行くほかのプレイヤー相手に。

 素振りなんてこともした。1日数百回――幸いこの世界では疲労しない。ひたすらに型を自分の身体に覚え込ませる。

 

 ミサキとかいうガキの強さはステータスとか装備とかそういうものからはかけ離れている場所にある。速いとかそういうのは問題じゃない。それを使いこなすあいつ自体が強いんだ。あれだけ自由自在に動き回れるようになるまでどれだけの努力を重ねたんだろう。

 それは想像するしかない。だがあいつに追いつくためにはアタシ自身も同じように研鑽を積む必要があると思った。

 

 自分でも何やってんだって思うよ。

 でもやらずにはいられなかった。ムカつくやつの顔がよぎって仕方なかった。

 きっとあいつに勝つまでやめられないんだろうな、と思う。やってられない、本当に。


「あー疲れた。いま何時……うげ、もうこんな時間か」


 今日は学年主任(アホ)がいつもより絡んで来たり、お局様のアタシに対する陰口を偶然聞いてしまったり、そういうイライラが募ったからかはわからないけど職場に財布を忘れたりなど災難だった。きっと厄日だ。

 そんな嫌な気持ちを振り切るためにゲームに没頭していたらもう23時だ。この世界は日の巡りが早いから時間の感覚が狂いやすい。草原を見下ろす太陽がうっとうしくなってくる。

 明日も仕事だしここらで切り上げた方がいいということはわかっている。

 なのにまだイライラは収まらない。ダンジョンのひとつでもクリアしてこないと気が済まない。


 マップを確認する。

 おあつらえ向きにこのすぐ近くにダンジョンがある。正直言って今のアタシにとっちゃ物足りないが、まあストレス発散用の木偶にはちょうどいいだろう。





 ときおり落ちてくる水滴が等間隔に音を奏でる。

 あたりの岩壁はごつごつしておりあちこちに苔が生えている。燭台などの明かりの類は一切ないのに内部は薄暗い程度で留まっている。これはゲームならではだろう。

 今回挑むのは洞窟型のダンジョンだ。一口にダンジョンと言っても様々なパターンがある。内部構造は入った瞬間ランダムに生成されるので、同じダンジョンであっても毎回違った道順を通ることになる。


「よく見えねー、眼鏡……は、無いんだった」


 洞窟タイプはボス部屋まで長いが雑魚敵は少ないという特徴がある。とにかく視界が悪いこともあって稼ぎをするプレイヤーたちにはあまり好かれていない。

 暗視スキル【クリアライト】を使えばマシにはなるが習得に必要なスキルポイントが妙に多いのがネックである。アタシも取ってない。

 だからよく目を凝らして進むことになるのだが……。


「な、なんなのですかあなたたちは! 通してください!」


 おや、とどこからか聞こえた声にアタシは反応する。

 先客がいたのか。声の聞こえてきた方角からあたりを付け、すぐ近くの横道を覗き込む。

 はたしてそこに声の主はいた。

 袋小路にいたのは女性プレイヤーが4人。ひとりは追い詰められ、3人が詰め寄っている形。3人の方が武器を出していることからおそらくは今まさにPKが行われるところなのだろう。偶然鉢合わせた弱そうなやつをダンジョン攻略のついでに狩ってやろう――そういうことだろうか。


「まあまあいーじゃん。これもなんかの縁ってことでさ、あたしらの経験値になってくれない?」


 うわあマジかよ。

 あんな感じのことアタシ言ったことあるわ。はたから見るとこんなに――ああ。


 本当に腹立たしい。

 別に考えが変わったわけじゃない。PK否定派ってわけじゃない。やりたい奴は勝手にやればいいし、やられた奴らに同情もしない。

 でもあんなのを目の当りにしたら。

 昔の自分が映ってるホームビデオを見せられてるようで――恥ずかしくて仕方ない。


「どけよてめーら」


 だから。

 気づけばアタシはその場に乱入してしまっていた。


「あん? なんだよ邪魔すんじゃ……ってええ!?」


「え、エルダ……? 『P・K』のリーダー……!」


「そいつはアタシの獲物なんだよ。邪魔すんじゃねー」


 PK側の3人を睨みつける。

 まだアタシの名前はそこそこ恐れられているらしい。同業者の間ならなおさらだろう。


「PKやめたんじゃ……」


「は? んなわけねーだろが。どかねーならお前らから先に食っちまうけど……それでいいか?」


「よくないですごめんなさいーっ!!」


 情けない悲鳴を残して3人組は走り去っていった。

 あまり視界に入れたくない類の連中だったから助かった。

 思わずため息をつく。こんなトラブルに見舞われるなんて本当に厄日かもしれない。


「あー、お前もう行っていいぞ。PKはしねーからさっさと出てけ」


 道の奥、身体を縮こまらせているその女に声をかける。

 薄暗くてよく見えないが髪は短く小柄。おそらくまだ幼い少女だろう。

 ただ最初に聞いた悲鳴はどこかで聞いたことがあったような……。


「あ、え――エルダさん……?」


「お前……」 


 顔を上げたそいつは知ってるやつだった。

 何しろあたしが最後にPKした奴だ。覚えていて当然だ。

 

 シオ。

 ミサキとかいうやつにアタシが負けるきっかけを作ったプレイヤーがそこにいた。

 

 ……本当に、今日は厄日らしい。 


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