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249.暗路4:LAST DRAGON


 暗く何もない世界に浮かび上がる光の舞台。

 その上で二つの影が戦っている。

 片方は消しゴムで消したように真っ白な輪郭だけを持つ雪男。

 もう片方は、魔女じみた装束を身に纏った記憶喪失の錬金術士、フラン。


 まっさらの状態で目覚めたフランは、自分が誰かもわからないまま歩き始めた。

 どこまでも続きそうな暗路を歩むたびに、敵が現れた。

 それらと戦うたびに記憶と力を取り戻していった。


 まだ思い出せないことばかりだ。

 しかしフランはこれで充分だとも考えていた。

 自分に相棒がいたこと。その名がミサキであること。そして、自分は彼女にもう一度会わなければならないこと。

 それだけ覚えていれば充分だと。

 

「はあっ!」 


 唸りながら飛びかかってくる純白の雪男に対しすれ違いざまに赤い刀身を持つ長剣を振りぬく。

 本体の斬撃に遅れて銀色の流体が生じると、刃となって雪男を切り刻む。

 だがそれでも堪えた様子はない。全身真っ白なので表情が読み取れないのだ。


「タフね……だったらこれで!」


 繰り出したのは連続突き。

 それにより針のような流銀がいくつも空中に配置されると、一斉に飛び出した。

 しかし弾丸のような速度で放たれた銀の針は、雪男が作り出した氷の障壁に防がれる。


(こんなちまちました攻撃じゃ駄目……か。だけど近づくのはさすがに怖い)


 そう考えて、ふと笑みがこぼれる。

 

「は――何を日和ったことを」


 だん! と勢いよく床を蹴って飛ぶと頭上から剣を叩きつける。

 だがその刃は阻まれる。氷を纏って防御力を強化した腕にがーどされている。


「あたしの行く手を塞ぐやつは全部倒して先に行く! こんなところで立ち止まってられないのよ!」


 赤い刃から染みだすようにして流銀が溢れ出し、刀身を覆う。

 銀色のコーティングで、剣自体が巨大化していく。

 流銀の真髄は変幻自在。使用者の――フランの想像力次第で如何様にもその姿を出力を変化させる。

 それが彼女の作り出した剣、《錬金剣ファントム・ラピス》の力。

 相棒の助けになりたいという願いを源流に生み出された銀色に輝く想いの結晶。


「ぶった切る!」


 力任せに振り下ろす銀の剣が防御に使われていた雪男の左腕を切断する。

 叫び声をあげる雪男。それを見て、こんな不確かな存在にも痛みや苦しみはあるのね、とぼんやり想う。

 しかしそれで攻め手が止まるわけも無く。


「これで――おしまい」


 一閃。

 一文字を描いた銀の剣閃が雪男の胴体を両断する。

 巨体はぴたりと動きを止めたかと思うと、ずるりとその上半身を滑り落とし、床に溶けて消えていった。


「はぁ…………」 


 敵を倒したことで光を失った床に剣を突き刺し思わず深く息をつく。

 本音を言うと座り込みたいが、そうするとしばらく動けなくなりそうだった。

 生々しい痛みに疲労感。慣れない感覚だ。


 まるでマリスとの戦いのような――と、そこまで考えてふと気づく。


「……マリス」


 その存在について思い出した。

 確か……白瀬と言っただろうか。あの黒幕が生み出し、そして世界にばらまいた悪辣なウィルス。

 人の感情を増幅しその身体ごと塗り替え異形の化け物へと変えてしまうもの。


 自分たちはそれらと戦っていた。

 そして勝った。


「勝った、のよね?」


 やはりまだ記憶が曖昧だ……と首をひねった瞬間、再び床が光を放つ。 

 今までと同じパターンなら、また敵が現れ戦闘が始まるはずだ。

 

「休む暇もない……」


 床の中心、フランの前に黒い水たまりのようなものが生じる。

 それは渦を巻き、少しずつ盛り上がって――――


「ちょっとデカすぎないかしら」


 先ほどの雪男も大柄だったが、今回はその倍以上はある。

 真っ黒な鱗に覆われた体躯。雄々しい翼。一対の角に、ずらりと並んだ牙。

 それは西洋のドラゴンだった。

 フランはまだ記憶を取り戻せていないが、ミサキと初めて共に戦ったボスと、色以外は同じ外見。


 錬金剣を床から引き抜き構える。

 何となくわかる。

 これが最後の相手だと。 




 

 双子の片割れ、ルキは最初見た時からずっとフランに憧れていた。

 綺麗で目が離せなくて、鮮烈で――いつも一緒にいるミサキも魅力的だったが、ルキはよりフランに惹かれた。

 妹のフェリも同じように彼女たちに憧れていたようだったが、きっとそれよりも強く。


 もし会えたらどんな話をしよう。 

 もし戦えたら勝てるだろうか。勝ちたい。

 もし仲良くなれたら。

 もしリアルで会うなんてことができたら。


 そんな妄想を毎晩ベッドの上で膨らませていた。

 モニターの向こう。スクリーンショットの向こう。記事の向こうにいる彼女への想いを募らせながら――そして。

 

 そんな想像は粉々に打ち砕かれた。


 憧れの存在が……フランが人間ではなかった。

 電脳生命体だとかなんとか言っていたがそんなことはろくに耳に入らず、ただその事実だけがぐるぐるとルキの頭の中を駆け巡っていた。

 塔の中、ゆるいカーブを描く通路をひた走ると暇になった頭が嫌なことばかり考えてしまう。

  

 ショックだった。

 人間と変わらないとかもう一度話してみないと分からないとか、そんなことを言われても。


 ――――結局のところ、作り物なんでしょ?


 そんな声が消えてくれない。

 そんなことを思ってしまう自分も嫌だった。


 考えるだけで心臓が嫌な鼓動を立てる。

 この作戦が成功して、例えフランともう一度邂逅できたとして。

 以前と同じようには、もう絶対に接することができない。

 どうしたって余計な考えが頭をよぎるだろう。


「――――……あ」

 

 そうして走っていると、通路の突き当りに着く。

 そこには淡く輝くワープゾーンが設置されていた。

 振り返ってみるも考え事をしていたからどれだけ走ってきたのかわからない。

 引き返すのは無し。なら入ってみるしかない。


「フェリちゃん……」


 チームが分かれて少しほっとした。

 フランの正体もそうだが、それがきっかけで彼女と喧嘩しっぱなしなのも辛かったからだ。

 むしろ本当に苦しんでいるのはそのことかもしれない。


 ずっと一緒だった。片時も離れたことがないと言ってもいいかもしれない。

 そんな存在と距離ができてしまったのは思いのほかショックで、両親にも心配をかけてしまっている。

 それこそ半身が欠けるほどの辛さだ。


 だが下を向いてばかりもいられない。

 このイベントに参加したのは、なによりフランを復活させるため。そして、そうすればまたフェリと話せるようになるかもしれないという望みを叶えるためだった。

 だから、進まなければ。


 意を決してワープゾーンを踏むと光が強さを増し、直後景色が変わる。

 ドーム型のだだっ広い部屋。

 そしてそこにいたのは、


「ルキ……」


「フェリ、ちゃん」


 よりによって。

 フランの復活を待たずして、喧嘩中の双子は邂逅した。  


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