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243.魔法少女vs勇者


 このイベントの最終目的地である部屋の扉からこんなウィンドウが出現した。


『三人の守護者を倒せ』


 ミサキはさっき必死で登ってきた長い長い階段を、今度は転がり落ちるようにして駆け下りていく。

 それと同時にチャットメニューを開きチーム全員に向けたボイスチャットをかける。


「みんな聞いて! この塔のどこかにいる敵チームを三人倒さないと頂上の扉が開かないみたい!」


 通話の向こうから「えっ?」というような困惑の声が次々に聞こえてくる。


「今わたしも急いで戻ってる。一緒に探してできるだけ早く見つけないと――――」


『あの、ミサキさん』 


「何?」


『ちょっと遅かったかもです』『……はいっ……ちょっと今喋ってる余裕がなくて……』『ごめんミサキちゃん、切るね……』


「…………え?」


 口々に届く声がどういう意味なのか分からない。

 だが、かすかに聞こえる金属音が耳を打つ。

 これはまず間違いなく戦闘の音だ。


『だから……もう戦ってるんですっ!』


 代表して叫んだのはラブリカだ。

 そう、彼女らはすでにチームベータと会敵しているのだ。

 



 時間は少し巻き戻る。

 それぞれが別のワープゾーンを取った後、全身ピンクのツインテ魔法少女ラブリカはと言うと。


「ひいひい……何回ワープすればいいんですかあこれ……」


 円形に光る床を踏むとワープしまた景色が変わる……と言いたいところだが無機質な狭い部屋が続くばかりで本当に移動しているのかわからない。マップを開いても塔内部までは対応していないらしく、もしかすると同じ部屋をぐるぐる回っているだけなのではないか? という疑念が頭を離れない。


 ひたすら続く部屋はだいたい5メートル四方くらいの広さで、ワープ床は自分が入ってきたものを除けば、あとは2つ。

 どちらかを踏んで次の部屋に移動することになるが、どちらを踏んでも広がるのは同じ景色ばかりでうんざりする。

 かなり問題のあるマップ構造ではなかろうか。クローズドで開かれたイベントだからまだいいものの、一般向けに開催されたら非難轟々間違いなしだ。


 戻ろうにも選んできたワープゾーンなどいちいち覚えていない。

 他のみんなはどういう状況なのだろう、まさか自分と同じようなことになっているんじゃないだろうか。

 そう考えて通話を掛けることを検討していた時だった。


「おや?」


 ワープ何十回目のことだっただろうか。

 目の前にあるのは明らかに装飾が豪華でサイズの大きいワープゾーン。

 おそらくこの先に何かがある。偶然正しい道を選んでいたのか、それともワープを繰り返せば自動的にここへ飛ばされることになっているのかはわからないが、とにかく。


「よし、行ってみよー!」


 何が待ち受けているとしてもこのワープ地獄から抜け出せるのなら何でもいい。

 ラブリカは意気揚々と光る床に足を踏み入れ――――


「やあ、君か!」


 朗々とした声に出迎えられた。

 

「わー……」


 あまりの爽やかさにそんな声が漏れる。

 なんとまぶしい笑顔だろうか、と目をわずかに眇めながらもこの部屋を見渡してみる。


 広さはかなりのものだ。

 アリーナの戦場に比べればまだ小さい方と言えるが、それでも直径数十メートルは下らないだろう。

 弧を描いている天井から全体の形状がドーム型だということがわかる。

 

「自己紹介がまだだったね。僕はカムイ・凪。みんなからはカンナギと呼ばれている」


 うやうやしく胸に手を当て、カンナギはそう挨拶した。

 まるで舞台に上がっているように堂に入った動作だ。


「あ、はい。私はラブリカです」


 実は体育会系のラブリカは年上が相手ということで素直に一礼。

 頭を上げながらちらりと背後を確認すると、通ってきたワープゾーンは光を失っている。

 

「あのー、もしかして戻れない感じですか?」


「そうみたいだね。補足しておくと一方通行になってるだけだから向こうからは通れるよ」


 なるほど、と頷くが状況は変わらない。

 退路は塞がれ、見たところ別のワープゾーンも見当たらない。

 そこから導かれる答えはただひとつ。


「僕らを倒さなければ最後の扉は開かないことになっている」


「戦うしかないってことですか」


「呑み込みがいいね。そういうことさ」


 カンナギはおもむろに長剣を取り出す。

 豪奢な装飾に彩られた、聖騎士の剣といった様相だ。

 

 ラブリカもまた自分の武器を手のうちに出現させる。

 マリス騒動のあとフランから送られたステッキ――名を《クリフォドラ・ブルーミア》。

 以前倒した――正確には相打ちにした――植物のドラゴンから得た素材を使って作られた武器だ。ピンクを基調にし、色とりどりの花の意匠が込められている。


(…………フランさん)


 なんだかんだお世話になっていると思う。

 ミサキの隣にいつもいるから個人的には好ましくないが、それさえなければ……と思う時はたびたびあった。

 だが、このフランを復活させるためのイベントにすんなり参加してしまっている時点で自白してしまっているようなものだ。

 本当は彼女のことを憎からず思っていたということを。


 ミサキからあの男のことはある程度聞いている。とても憎らしそうに話してくれた。

 クラスは『勇者』。スペシャルクラスとしては珍しくハイスタンダードな性能を持っている。

 遠近隙が無くスキルが揃っており、そしてプレイヤー自身の実力も相当に高いという。


 強敵だ。

 何しろミサキが一度敗北を喫した相手。

 

「さあ、さっそくやろうか。悪いが僕もあまり余裕が無くてね」 


 すい、と剣を上げて身体の前で構える。

 その動作だけでラブリカにもわかる。それがあまりにも洗練された所作だということが。

 

(隙が無い……)


 ラブリカも強くステッキを握りしめると、カンナギは薄く笑う。


「準備はできたみたいだね。では――始めるよ」


 一瞬のことだった。

 ラブリカに見えたのはカンナギの右腕が光を放ったところだけ。

 その直後、空中を一直線に駆け抜けた閃光がラブリカへと着弾し、稲妻を伴う大爆発を巻き起こした。


「【ボルテック・ピアース】、そのサイレントスキル。僕だってこれでも成長しているんだ。あの子に負けっぱなしなのは嫌だからね」


 以前のカンナギは、発動宣言なしにスキルを発動するテクニックであるサイレントスキルを使えなかった。

 それがミサキに負けた原因のひとつではあったのだが……あれから目に見えないところで鍛錬を重ね、唯一と言ってもいい弱点を克服してしまった。

 もうもうと上がる白煙を眺め、カンナギは静かに目を細める。


(これくらいで倒れてしまうようなら意味がないが、さて…………)


 白い幕が上がる。

 そこには――樹木で形成された円盤の盾が鎮座していた。

 

「危なかった……!」


 安堵するラブリカが軽くステッキを振ると、樹木の盾はぼろぼろと崩れ落ちる。

 これまでになかった技だ。ラブリカもまた新たな力を手に入れていた。


「……いいね! それでこそ僕が全力を出す価値がある!」


「そういうキャラ、今どき流行りませんよ!」


 対峙する勇者と魔法少女。

 全てが異なる二人だったが、この瞬間に限っては――強く想う誰かのために戦うという目的は同じだった。


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