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182.鬼と遊んで鬼を倒す


「ルールは簡単! 森林エリア内を逃げ回るこのミサキを、先に倒した方の勝ちだ」


 良く通る声で宣言する赤褐色のツンツン頭……ギルド『炎パイア』のリーダー、カゲロウは快活に笑う。

 ダンジョンの入場権を争う戦いに巻き込まれてしまったミサキは辟易しあたりをぐるりと見回す。

 

(面倒なことになったなあ……)


 他人の争いに首を突っ込んだことが原因とは言え、この巻き込まれ方には文句のひとつも言いたい気分になる。

 しかし関わったのはやはり自分なのでしぶしぶ覚悟を決めた。

 鬼ごっこなんて何年ぶりだろうか。小学生の時は運動神経にものを言わせて無双していた記憶がある。


「…………なるほどな。理解した。それで制限時間は?」


「無いぜ」


「え?」


「決着がつかなきゃ明日でも明後日でも何度でもやる!」


「嘘でしょ……」


「ふん、いいだろう」


「この人さっきからいいだろうしか言ってなくない!?」


 このクールで神経質っぽい時雨という男、カゲロウと仲が悪いと見せかけて先ほどから提案を受け入れすぎではないだろうか。本当は仲がいいのかもしれない、などと益体もないことを考えてしまう。


 それにしても、適当に逃げ切って仲裁して……という決着を考えていたのにこれでは計画倒れだ。

 どうせ自分には追いつけないだろうとタカをくくっていたのが良くなかったのか。

 背後でフランが呆れている気配を感じる。あまり見ないでほしい。


「あのー、フラン。ごめんね、ちょっとかかりそうだから先帰っててくれる?」


「……はいはい、ほどほどにね」 


「こんど埋め合わせするから」


 微妙な笑みを見せたフランはひらひらと手を振り、ホームタウンへと転送された。

 せっかくの息抜きだったのに悪いことをしたな……と若干落ち込む。


「よし、そろそろ始めるぞ。準備はいいか?」


「僕たちは10秒待ってから探し始め――」


「ちょっと待って。いっこ聞いてもいい?」


「ん?」


 別プランを考えた。

 

「わたしが反撃するのはアリ?」


「もちろんいいぜ。そうでないと面白くないからな」


「ああ。このエリアから出ない限りは何をしてもいい」


「そっか。りょうかい」


 それならいくらでもやりようはある。

 この勝負を、勝負にならなくする方法がひとつある。


「じゃあいくぜ。気張って逃げろよ――よーい、ドン!」


 その声を合図に全速力で走り出す。

 想像以上の速さを間近で目撃した一同は目を丸くしていた。


「おお……マジかよ。追い付けっかな」


「ふん、怖気づいたのか? だったら今回は僕の勝ちだな」


「なんだとお!? お前なんかに俺が負けるわけ――――」


 などとまたしても小競り合いを始めた二人を振り返ることなく、ミサキはぐんぐんと距離を離していく。

 鬼ごっこ開始まで、あと5秒。





 鬼ごっこ開始から五分。

 カゲロウは自分の提案を後悔し始めていた。


「参ったぜ……こんな広い森で手がかりも無しに見つけらんねーぞ」


 ざく、と雑草を踏みしめ歩くも、似たような景色がひたすら続くばかり。

 森林エリアは地形に特徴が無く、マップを見ずに歩けばあっという間に迷子になることで有名だ。

 ひたすらに木、木、木。等間隔で並ぶ木々に違いを見出すのは不可能に近い。


 時雨とは開始してすぐに別れた。

 カゲロウはミサキの去った方向をまっすぐ追いかけようとしたのだが、時雨は何か考えがあるようで別方向へと消えて行った。


 まあ勝負の時までベタベタするのもおかしいので、深く考えずに自分の道を行くことにしたのだが……。


「くそー、これなら時雨についてった方が良かったかもな」


 後悔を口にしつつ長期戦を覚悟した、その時だった。

 頭の上からかすかに何かが擦れるような音がして、


「ん? 今何か聞こえ――――」


 ドン!! ととてつもない衝撃が脳天を襲った。

 カゲロウはぐらりとよろけるも、持ち前の耐久力で踏みとどまる。

 それを見た影……今しがた重い一撃を喰らわせてきた”それ”は素早く飛び退り距離を取った。


「うーわ、倒れないんだ」


「いつつ……おいお前、ルールわかってねえのか?」


「わかってるよ」


 そう、言われなくてもわかっている。

 この勝負を終わらせる方法は、


「わたしが二人とも倒して終わりにする。そしたらこの鬼ごっこも終わりでいいよね?」


 そう、二人ではミサキには敵わないと証明できればこの勝負も成立せず無効試合になる。

 カゲロウに負けず劣らず脳筋なアイデアだが、これが確実だと考えたのだ。


 ――――と、ここまでが建前。

 本音を言ってしまうと、カゲロウと時雨が強そうだったのでちょっと戦ってみたかったというのが大部分だった。


「……いいねお前! 予想外に俺好みだし探す手間は省けたし、最高だぜ!」


 豪快に笑うカゲロウは大ぶりな赤い斧を取り出した。

 あれの一撃をまともに喰らえば簡単に真っ二つになってしまうだろう。

 最悪即死、よくて瀕死だろうか。


 それでいい。

 それくらいでなければ面白くない。


 タッグトーナメントを経て吹っ切れたミサキは今まで以上に貪欲に勝負を求め、勝利を渇望するようになっていた。

 それこそ、こんな予想外の巻き込まれも受け入れてしまうほどに。


「オラァッ!」


 勢いよく振り下ろされた斧の一撃を悠々と回避し、腹部にカウンターの拳を叩き込む。

 硬い感触。反撃を受けないよう、再び距離を取る。

 かなり耐久力が高い。防御力を無視するクリティカルでも大きなダメージが与えられていないということはダメージカット系のパッシブスキルを積んでいるのだろう。


 ここ最近実装されたボスはクリティカル攻撃を多く使う傾向にある。

 そんな事情もあって、HPと防御力を重視するナイトビルドは防御力よりもダメージカットを優先するのがトレンドになった。

 おそらくカゲロウもその口だろう。


 それがミサキにも刺さってしまっているのは困った事態だが、それならそれでやりようもある。

 

「聞いてた通りすばしっこいなァ。当たる気がしねえや」


「そんな呑気に言ってていいのかな、っと!」


 一歩目からトップスピードへ到達したミサキは激しく風を切りカゲロウへと接近したかと思うと、慣性など存在しないかのように急停止し、ガトリングのように無数の乱打を叩き込んだ。


「ぐぅお!?」


「足りない火力は数で補う! ってね」


 拳の弾幕にひとたまりもなく吹き飛ばされるカゲロウ。

 ミサキの上半身装備、黒紫のジャケット《アイドライザー》には装備者の素早さの五割の数値を攻撃力に加算するパッシブスキル【戦迅】が付与されている。

 これにより速ければ速いほど火力が上がる、まさにミサキにはおあつらえ向きの装備だ。


 素手による火力の低さはこれによりかなり改善された。

 フランには足を向けて寝られないとミサキは常々思っている。


「はっはぁ!」


 だが、カゲロウは何事もなかったかのように立ち上がる。

 相当HPを盛っているのか、まだまだ倒れてくれそうにはない。


「楽しくなってきた! これなら本気を出せそうだ!」


 嬉しそうに叫ぶカゲロウ。

 その方に担ぐ大斧がどんどん大きくなっていく。

 元からかなりのサイズだったのがさらに二倍……いや三倍。人間に扱えないような大きさまで巨大化した斧を構え、炎のような男は笑う。


「これだけデカくすれば当たるよなあ!?」


 その重さだけで圧死できそうな巨大な武器がミサキへと再び振り下ろされた。


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