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179.少女の再生


 ルキとフェリに勝利した。

 気づけばミサキは強く強くその手を握りしめていた。


「勝つって……こんな感じだったっけ」


 嬉しい。

 楽しい。

 そんなシンプルな感情が湧き上がってくる。


 これをずっと求めていた。

 そう、ミサキは飢えていた。

 どれだけ自戒してもそれだけは変わらなかった。

 

 それを肯定するような歓声が360度から降り注ぐ。

 観客の笑顔ひとつひとつが、この時ばかりは鮮明に見えた。


「なーんだ……こんなに簡単なことだったんだ」


「いい気分でしょ」


「フラン。……うん。フランの言ったとおりだったね」


 近づいてきたフランに照れ笑いを投げ返す。

 結構な面倒をかけてしまった。

 相手のことは関係なく、目いっぱい試合を楽しんでいいんだと教えてくれたのは彼女だった。

 それは言葉だけでなく、行動で。

 

 この大会に誘ってくれたのもそのためだったのだろう。

 素直に頭が下がる想いだ。


「負けた……」「負けたーっ!」


 倒れた双子から揃った声が上がる。

 つられてそっちへ視線を送ると、二人はぴょんと勢いよく立ち上がってこちらへ駆け寄ってくる。


「すごかった、です」「すっごく強かったです!」


「――――あは。わたしの相棒、すごいでしょ」


「あたしの相棒もやるものでしょう?」


 図らずも似たようなことを言ってしまい顔を見合わせると、同時に噴き出す。

 ルキとフェリは首を傾げていたが、つられて笑いだした。

 

「あはは……でも」「次は私たちが勝つからね!」

 

 彼女たちは楽しそうに、そして同時に悔しさも含ませた笑顔で宣言する。

 それはミサキにとって、なにより望んだ一言だった。

 

「ありがと、ルキちゃんにフェリちゃん。でも、次もわたしが勝つよ」


 次がある。

 ということは、取り返しがつくということだ。

 何度でもやり直せる。

 何度でも繰り返せる。

 どうしようもない終わりというものを恐れるミサキにとっては、それこそが救いだった。


 心から笑えるのはいつ振りだろう、と空を仰ぐと、綺麗な青がどこまでも広がっていた。


「あのー、ミサキ」

 

「ん?」 


「なんかやりきった感だしてるとこ悪いけど、これ準決勝だから」


「あ」


 ということで、次がラスト。

 決勝である。





 決勝戦はすぐに始まった。

 アリーナの試合場は、実は同じ場所に複数重複存在しており、各ブロックの試合は並行して進む。

 だから試合後の待ち時間は短い。

 ゲーム性的にも長引く試合も少ない(タンク職のミラーマッチなら長期戦の可能性もあるが)。


 よって準決勝が終わって数分ののち、決勝が行われる。


「…………………………………………」


「あーあー……」


 ミサキは完全フリーズ、フランはあきれ顔。

 こんな反応をしたのにはわけがあった。


「ミサキさーん!」


「……シッ……シッ……シッ……」


 嬉しそうに手を振っているのは翡翠。

 無言で大鎌を素振りしているのはカーマ。

 どちらもミサキのリアルでの仲間だ。


「なんでなのーーーー!?」 


「なんででしょうね……」


 よりにもよって決勝で当たるのがあの二人だという事実に頭を抱えて叫ぶミサキ。

 フランとしてはもう目的は達成したのでどちらでもいいのだが、あの二人が相手となると骨が折れる。

 

 ミサキがここまで錯乱しているのにはわけがある。

 ここ最近落ち込み続け、翡翠たちにも気を遣わせ続け、顔を合わせるのも最低限、話すこともほぼなかった。

 そんな今こうして顔を合わせると、気まずいことこの上ない。

 立ち直ったのがなおさらつらい。


 翡翠はまだいいとしても、殺気が漲りすぎているカーマが恐ろしすぎる。

 ことミサキ相手に限っては、彼女に手加減という概念はない。


「え、っと……お手柔ら」


「本気で行きますよ?」


「…………」


 笑顔で遮られた。

 翡翠も怖い。もうミサキの身体の震えは止まる気配がない。

 

「い、いや大丈夫よミサキ! だってあたしたち強いもの!」


「そ……そうだよね! いけるいける、わたしたちなら!」


 精いっぱいの鼓舞でなんとか自分たちを奮い立たせる。

 しかし。


「――――そう簡単にいくでしょうか」


「真っ二つにしてあげる…………」


 そうして始まった決勝戦。

 勝負の行方はいかに。




 というわけであっさり負けた。

 銃弾にハチの巣にされ、斬撃に真っ二つ……どころか16等分くらいにされた。


 忘れていたのだ。

 ミサキは、あの二人に勝ったためしがないということを。


「いやーー…………負けたね…………」


「負けたわね……」


 大会終了後、ミサキとフランはアトリエに戻るなりソファに身体を投げ出すように座った。

 だらんと力を抜いて、天井を見上げる。お手上げだ。


 なんというか、完膚なきまでに――という結末だった。

 歯が立たなかった。

 単純な強さでは同等くらいだと思うのに、ほとんど瞬殺だった。


「翡翠おかしくない……? なんであんな的確に撃ち抜いてくるのよ……」


「カーマもね……なんか単純に強すぎるよ……」 


 中遠距離からアイテムを投擲して戦うフランにとって翡翠は天敵だった。

 まず弾速からして違うのに、こちらの投げたアイテムをことごとく撃ち落としてくるのでどうしようもなかった。

 接近戦を試みても、巧みにカーマと入れ替わり捌いてくる。

 双子の入れ替わりスキルは何だったのかと思うほどの精度の立ち回り精度だった。


 そしてカーマは基本的にミサキに当たっていた。

 素手で戦うミサキの範囲外から、各種斬撃武器のリーチぎりぎりを押し付けてくるのでほぼ完封。

 今までで一番の”どうしようもなさ”を嫌というほど味わう結果となった。 


「カーマは場合によっては勝てなくもないかもしれないけど、翡翠はもうほんとに無理なんだよね……わたしがグーなら翡翠はパーって感じ」


「それは……仲いい相手だから躊躇っちゃうってこと?」


「それも無くはないけどね。そもそも相性が悪い気がする……」


 そもそもあの二人はわたしに対して容赦無さすぎなんだよ、とミサキは不満げに唇を尖らせる。

 フランは日頃の行いじゃないのかしら、と言いたかったがこらえた。


 はー、と揃ったため息がアトリエに響く。

 まあそこまで優勝を狙っていたわけではないが、それでも悔しいものは悔しい。

 もっと強くならないとなあ、としみじみ思う。伸びしろはまだまだありそうだ。

 

 ユニゾンスキルもそう。

 正直本当に成功するとは思っていなかった。

 あの時は本当に何となくで、それっぽい動きをしてみたら成功し、勝手に身体と口が動いていた。

 複数人いないと使えない分、習得条件も発動条件もかなり緩く設定されているのだろう。

 こういったアップデートをするということはこれから誰かと共闘する機会も増えていくだろうし、きちんと使えるようになっておかなければならない。


 そうしてつらつら考えを巡らせていたところで、はたと気づく。

 大会前までにあった胸の奥の苦しさがきれいさっぱり消えている。

 トーナメントの中で、大切なことに気づけたからだろうか。


 負けた相手を慮るのは、相手を尊重することにはならない。

 勝負は対等なもの。だから勝てば素直に喜んでいいし、勝負自体を楽しんだってかまわない。

 そんなミサキの戦いを見て楽しむ人も大勢いる。


 そんな当たり前で、しかし見失っていたものに気づかせてくれたのはフランだ。


「……あのさ。ありがと」 


「ん。どういたしまして」


「今日だけじゃなくってさ……いつもいつもわたしのことを考えてくれてありがとう。わたしのために頑張ってくれてありがとう」


 本当に助けられてばかりだ。

 自分は彼女にどれだけのことをしてあげられているだろう。

 

 わずかな不安を含んだ視線を送ると、フランは優しく笑った。


「いいのよ。だってあたしたち、友達じゃない」


 あの時フランと出会えてよかった。

 まるで奇跡のような、そんな出会いだった。

 胡散臭くて、何を企んでいるかわからなくて、怪しくて、がめつくて――そんな彼女は、誰より友達想いの少女だった。





いつも読んでくださってる方も、これが初めての方もありがとうございます!

ブックマーク・評価・感想にいつも助けられております。


これからも良ければどうぞお付き合いください。

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