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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
第二章 美少女錬金術士フランちゃん!
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16.暗雪セパレート


 びゅおおおお、と吹きすさぶ雪が視界を塞ぐ。

 

「さっむ……! …………いやそれほどでもないな」


 少し肌寒いくらいだ。

 極寒の景色と感覚の齟齬で認識がバグを起こしそうだ。


「さーて探すわよ《白雪草》!」


 ぐっと拳を突き上げたフランは雪を踏みしめ山道を登っていく。

 この真っ白な環境で本当に見つかるのだろうかと不安になる。


「アテはあるの?」


「ないわ」


 ええ……とミサキは肩を落とす。

 雪山エリアにある――とひと口に言ってもかなり広大だ。それなのに手掛かりなしで探すのは厳しい。

 それに加えこの吹雪。視界は最悪である。



 ミサキとフランは依頼品の《白雪草》のブローチを作るため、タウンの北にある雪山エリアにやってきていた。依頼があった昨日の今日である。

 フランはいつもより少しだけ静かだった。勢いがあったのは最初だけ。一歩進む事に元気を失っているようだった。


「…………」


「……ラン。フランってば」


「ん……ん? なに?」


 どうやら上の空だったようで、何度か呼びかけてやっと振り向く。

 いつもへらへら笑っているのに、依頼を受けてからどこか心ここにあらずといった状態だ。

 

「どうしたのよ」


「何か気になることでもあるの? 昨日から何か変だよ」


「……そんなことないわよ。気にしないで」


 端的にそう言って向き直り、ざくざくと雪を踏みしめ歩いていく。

 その背中は吹雪ですぐに見えなくなりそうで慌てて追いかける。

 目を離せば消えてしまいそうな――この子はこんな頼りない背中をしていただろうか。


 本当に無意識だった。

 気付けば右手がフランの背中を掴んでいた。

 手を伸ばして届かなかった記憶……苦い後悔の味がそうさせた。

 驚いて振り向いたフランの目をまっすぐ見据える。

 髪と同じ色の長いまつ毛が影を落とす青い瞳はいつもより少しだけ(かげ)って見えた。


「ちょ……なにすんのよ」


「そんなことなくないでしょ。どう考えたっていつもと違う」


「あたしだってそういうときくらいあるわよ。まさかあんた、人間がいつどんな状況でもハンコで押したみたいに同じだって思ってるわけ?」


 棘のある言葉。

 少しだけ心の柔らかいところにささり、思わず売り言葉に買い言葉を返してしまう。一度開いた口は閉じることはない。


「ほらやっぱなんかあるんじゃん」


「揚げ足とんな!」


「だったら黙ってないでちゃんと言ってよ!」


 バーチャルの吹雪は二人の声を隠してはくれない。

 吹きすさぶ豪雪の中でも、お互いの声が嫌になるほどよく聞こえる。

 言いたくないこと、言うはずの無かったことまで、鮮明に。


「……くだらないことよ。くだらないからわざわざ言わないだけ」


「だったら心配させないでよ……」


「気にしないでって言ってるの」


「じゃあいつもみたいに振る舞ってればいいでしょうが! そうやってずっとあからさまにしょんぼりされたら気になるに決まってる!」


「このっ……」


 張り上げようとした声を押しとどめ、フランは深い息をつく。

 隠せない苛立ちを抑え込もうとしているのか、ぐしゃぐしゃと金色の前髪をかきまわす。

 乱れた前髪は、その青い瞳を覆い隠した。


「……もういいわ。《白雪草》はあたしひとりで見つける」


「い、いやそういうわけにも」


「あと」


 フランは一度口をつぐみ、幾度かの逡巡の後また開く。

 目は合わなかった。フランの視線は足元の白に落とされたまま、しかしその唇だけが明確に動く。

 

「あなたとの契約を解消するわ」


「…………え」


 最初、何を言ってるのかわからなかった。


「あとはもう自由にしていい。あたしが作ったその装備も、もちろん返さなくていい」


 次に、理解を拒んでいる自分に気付いた。


「あたしとあなたはこれで無関係。だからあたしを気にする理由もない。そうよね?」


 白む視界の中、そう言って前を向き歩いていくフランの背中が見えた。

 足はなぜか動かなかった。凍り付いたように全身が固まっている。

 歩を進める彼女との距離はどんどん開いていく。


「……今まで振り回して悪かったわね」


 雪の中にその背中が消えた瞬間、その言葉だけが耳朶をうち。

 ミサキはただ立ち尽くすばかりだった。


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