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158.THIRD:錬金術士VS錬金術師


 平らな戦場で二人の錬金術使いが対峙していた。 

 片や銀髪ゴーグルにオーバーオールの錬金術師ピオネ。

 片や金髪に魔女めいた三角帽やローブの錬金術士フラン。

 

 団体戦三戦目。副将戦。


「君たちに恨みはないけど、勝たせてもらうよ」


「あたしはあるから勝たせてもらうわ」


 ミサキは悪いことなんてしていない。

 プレイヤーたちを脅かす謎の存在、マリスを討つべく特殊な力を使っているだけだ。

 確かにあの力はこの世界において異物かもしれない。結局どういった存在なのかいまだにわからない。

 

 しかし彼女はその力を正しく使っている。

 マリスが出現すれば、顔も知らない誰かのために駆けつける。

 そんなミサキだからフランは共に戦いたいと思ったのだ。


「何も知らないくせに、あなたたちはミサキを傷つけた。あたしたちの居場所(アトリエ)を奪おうとした。あたしはそれが許せない」 


 今回の件でもっとも腹を立てていたのはフランだったのかもしれない。

 この世界において、ずっとミサキのそばにいた彼女だからこそ、彼女の痛みを誰よりも感じていた。

 フランは別に善人というわけではない。しかし友人の善意がないがしろにされることは許し難かった。


 しかし相対するピオネは揺らぐことのない瞳でフランを見据えている。


「……それでもユシーは正しいんだ」


 頑なとも言える、ただひとつの主張と共に、ピオネは腕に装着した籠手を撫でる。

 もうまもなく試合が始まる。


 前にピオネがアトリエを訪ねて来た時、突然様子がおかしくなったことをふと思い出した。

 彼女は何か異質なものを抱えている。充分に注意して臨まなければ、とフランは気を引き締める。

 

「ミサキ連合副将、フラン。錬金術に限界はない!」


「『ユグドラシル』副将、ピオネ。ボクの信じる正義のために」


 とにかく目の前の相手に勝つ。

 高らかに名乗りを上げる二つの錬金術が激突する。





「ピオネさんは確かユスティアさんの……」 


「ええ、幼馴染です」


 『ユグドラシル』控室。

 リコリスが静かに尋ねると、ユスティアはモニターから目を離さずに答えた。

 寝ているライラックを静かに見つめる姉。この厄介な関係の姉妹が、このギルドにおいて決定的な破滅を迎えずにいられたのはピオネのおかげだ。

 時にあからさまに、時にさりげなく、その飄々とした明るさで空気の冷たさを和らげてきた。


 特に気弱なライラックが今こうしてギルドに馴染めているのもピオネのおかげが大きい。

 自分から仲間に入っていけない彼女にとって、半ば強引に引っ張ってくれる存在は救いでもあった。

 堅い性格のユスティアには難しいことだ。


「昔はもっと明るかったんですよ」


「あれ以上にですか?」


 ユスティアは小さく頷くと昔を懐かしむように目を細める。

 しかしその横顔は少しだけ悲しそうにも見えた。


「…………ただ」


「ただ?」


「そういう彼女を嫌う人たちもいたんです」


 



 ピオネの戦闘スタイルは聞いていた通りだ。

 おそらく主装備はハンドハンマー。しかしそれは申し訳程度に腰に下げられているだけで使う様子は一切ない。

 やはり本命はあの籠手だ。ギラギラと重厚な輝きを放つあの籠手――《アルケミーギア》に属性を込めたアンプルを装填することで攻撃を行う。


「はぁっ!」

 

 赤いアンプルを装填したピオネが地面を力強く殴りつけると、あちこちから火柱が上がる。

 無差別に上がる柱、そして直接狙って足元から立ち上る柱。それらを的確に見極めフランは回避していく。

 不用意に躱せば”置き”の火柱に当たる。ローブの端が焼けたが何とかノーダメージでやり過ごした。


「さあ使いなよあの力を! ボクに勝ちたいんでしょ!」


 挑発的な笑みに思わず右手の中指を意識する。

 《イミテーション・リンカー》。マリスの力が込められた指輪だ。

 

(誘ってる……) 


 そこにどんな意図があるのか。

 ピオネがアトリエを訪れたことを、そこで起きたことを、フランはまだ誰にも話していない。

 

『君はどうして今現在自分がここに存在しているかを考えたことはある?』

『自分と言う存在に違和感を覚えたことは?』

『この世界に違和感を覚えたことは?』

『君はいったいどこで生まれた? どうやって、誰から生まれた?』


 あの時醸していた異様な雰囲気。

 フランという存在の根幹に触れるような言葉。


 彼女は一体、どういう存在なのか。

 もしかしたらマリス事件の関係者か、それとも。

 だが今のピオネからはあの時のような異質さを感じられない。

 ただ不正を暴きたい――そういった心づもりというだけの可能性もある。


 ただ、どちらにしろマリシャスコートを使うつもりはない。


「使わない、わよッ!」


 後ろに跳びつつ増殖する爆弾《バイバイボム・改》を投げつける。

 それに対しピオネは素早く黄色いアンプルを装填、直後無数に増えた爆弾が光を放ち広範囲の爆風を生み出した。


「あはは! なら意地でも使わせたくなってきた!」


 ピオネの目の前には岩の壁が出現し、爆発を防いでいた。

 すぐに壁は崩れ、不敵な笑顔が覗く。


 フランは思わず舌打ちを落とし、ストレージ内のアイテムを頭の中で数え直す。

 

(使えるアイテムには限りがある。でもそれは相手も同じはず)


 フランはアイテムを使い戦う錬金術士。しかしそのアイテムが強力な反面、使い切ると戦力がガタ落ちする。

 そしてピオネもまたアンプルを使う必要がある以上、攻撃回数には限りがあるはずだ。

 ストレージに入れられるアイテムには限りがある。普通のプレイヤーなら回復アイテムをいくつか入れればそれで済む話だが、錬金術士の場合はその容量の多寡が死活問題だ。


 なら消耗戦に持ち込むべきか?

 実のところ、フランは容量をちょろまかす術を持っている。

 よって単純な”残弾”で劣ることはまずないだろう。


「……でも、でもよね」


 そんな勝ち方は望まない。

 疑問を挟む余地なく、完膚なきまでに打ち負かす。

 ただ勝てばいいわけではない。本当の強さを証明した上で勝たなければこの戦いに意味はない。

 

「それにね、錬金術の戦いであたしが負けるなんてありえないのよ!」 

 

 彼女が抱くのは強い自負。

 あの母以外になら、自分が劣ることなどありえない。


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