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147.団体戦・前哨


 ルールその1。

 団体戦。

 先鋒・次鋒・副将・大将の四人をそれぞれのチームが出し、計四試合を戦う。


「普通五人じゃない? 中堅どこいったの?」


「……最初は五対五のつもりだったらしいんだけどね。向こうの先鋒が出場を固辞したらしいわ。その上他に自信をもって出せるようなメンバーがいなかったとかなんとか」


 ミサキの脳裏にスズリの姿が浮かぶ。

 確かにあの子は出てこられないだろうな、と納得した。

 彼女はミサキと『ユグドラシル』を対立させてしまったのを自分の責任だと考えている。だから試合には出場しない。


 ルールその2。

 試合はアリーナで行い、公式ルールに則って行うこととする。

 形式は全損決着(デスマッチ)


「まあ妥当よね」


「衆目に晒されて戦うことで、不正を防ぐのが目的……なのかな」


「あとは結果を誰の目にも明らかにするってのもありそうね」


 ルールその3。

 勝利条件はユグドラシルを納得させること。


「……最後にめちゃくちゃ曖昧なのが来たね」


「向こう次第よね、これ」


「うーーーーん……でもチャンスはチャンスだもんね……」


「四対四だからこうせざるを得ないっていうのはあるかもね」


「そうだね。それにどうせただ勝つだけじゃ意味ないし」


 ミサキとフランはアトリエで、『ユグドラシル』から送られてきた対抗戦のルールを改めて確認していた。

 ラブリカがデモを起こしユスティアを説得した日の夜に送られてきたものだ。行動が早いと感心する。

 日時は三日後、夜七時から。

 ほかにも勝ち数が同じ場合はミサキたちの敗北になるなど、基本的にはこちらに不利な条件。


 だが、望みがゼロの状態だったことを考えれば天と地ほどの差だ。

 ラブリカには終わったらしこたまお礼をお見舞いすることを決意した。


「うーい」


「来ましたよ、ミサキさん」


「カーマ、翡翠」


 アトリエのドアを開けて入ってきたのはカーマと翡翠。

 ミサキの知り合いの中でも頼りやすく、かつ高い実力を兼ね備えた二人だ。


「よし、これで団体戦のメンバーが揃ったね」


 ミサキ、フラン、翡翠、カーマ。

 この四人で挑むこととなる。

 

「じゃあ順番を決めましょうか、まず――――」


「わたし先鋒がいい!」 


 元気よく手を挙げたミサキを、カーマは胡乱な目で見つめる。


「はい、こいつのことは放っておくとして」


「なんでー! わたし切り込み隊長ってやつやってみたいのにー!」


 ぷんすか怒るミサキの頭を手で押し下げ、


「バカ、大将に決まってるでしょうが」


「そうですね。向こうもリーダーを最後に持ってくるでしょうから……こちらもミサキさんを出すのが妥当なところではないでしょうか」


「じゃああたしたち三人の順番だけど、どうする?」


 フランの言葉に顔を見合わせる少女たち。

 大将を除き相手の出方はわからない。ならば考えてもさほど意味は無く、つまり決定づけるのは――――


「「「最初はグー!!」」」


 振り下ろした手の形によって勝利を勝ち取ったものから好きな順番を取っていく。

 そして決定した布陣はこうだ。


 先鋒:カーマ

 次鋒:翡翠

 副将:フラン

 大将:ミサキ


「チーム名はどうしますか?」 


「え、いるの?」


「向こうはギルドの名前を背負ってくるんだからこっちも何か考えないと格好がつかないんじゃないかしら」


「フランの言うとおりね。どういうのにする?」


「ミサキさんのチームですしミサキーズでいいのでは」


「「「………………………………」」」


 翡翠の出した案に閉口し、さすがにそれはと対抗意見を模索したものの結局対抗案は出ず、幾多の反対によってチーム名は『ミサキ連合』に決定した。

 それもそれでどうなのか、というネーミングにしばしの間「あんまりだ…………」と顔を覆っていたミサキだったがなんとか気を取り直し、


「…………よし、それじゃあみんなよろしく!」


 各々を見渡し確信する。

 これが最強のチームだ。






 団体戦当日。

 アリーナのロビーにて二つのチームは向かい合っていた。


「怖気づくかと思っていましたが」


「別に怖くないからね。今日はよろしく」


 ミサキの差し出した手をじっと見つめるユスティア。

 無視されるかな、と思ったが意外に素直、握手が成立した。


「正々堂々お願いしますよ」


「もちろん」


 ちら、とミサキの巻いたマフラーを一瞥する。

 正々堂々というのは不正な装備を使わないようにとの意味が込められているのだろうが、最初からそんなつもりはない。

 持てる力の全てを使って勝ちに行くつもりだ。


 ユスティアが連れているのは錬金術師ピオネ、ネクロマンサーのライラック、そして未知数のリコリス。やはりこの面子を出してきた。これがいわば『ユグドラシル』の四天王。ミサキたちはこの布陣を破らなければならない。


 先鋒から大将までの編成を交換する。

 書かれていたのはやはりここにいる四人だ。


 先鋒戦――カーマVSリコリス

 次鋒戦――翡翠VSライラック

 副将戦――フランVSピオネ

 大将戦――ミサキVSユスティア


 やはりリーダーが最後に来たか、とひとまず胸をなで下ろす。


「……お、お姉ちゃん……ライラ、ほんとに戦わないといけないの……?」


 そんなとき響いたか細い声。

 それに対しリコリスは深く嘆息し、冷たい目で傍らのライラを見下ろしたかと思うと――突き飛ばした。


「ちょ……!」


 騒然とする面々――ユグドラシルのメンバーも含め。

 そんな中でもリコリスは氷のような表情で倒れたライラックに視線を刺す。


「だったらどこへでも行けばいい。自分が必要とされているとでも思っていたか?」


「……や、やだ……」


「なら戦え」


 それきりリコリスはライラを見なくなった。

 さすがに目に余る行為だったのかユスティアが詰め寄る。


「リコリスさん……」


「……申し訳ありません。でも、どうしても無理です」


 悲し気なユスティアに、視線から逃げるように俯くリコリス。

 そんなやりとりをよそに、ピオネが「大丈夫?」とライラを助け起こしている。

 一切事情が読み取れないが、ミサキには少しだけ理解できた。

 

 あのライラックがどうしてこの団体戦に出てきたのか不思議だったが、おそらくそうしないと姉と一緒にいられないのだろう。あれだけ冷淡な接し方をされても、離れたくないと考えているのだ。

 それを見ていられなくなったのか、カーマが一歩前に出る。


「ちょっと。あんた姉なのにそれは無いんじゃ――――」

 

「カーマちゃん」


「翡翠……」


 あまりの扱いに非難の声を上げそうになったカーマを翡翠が制止する。

 首を横に振ると、カーマは下がる。いまだ不満そうではあったが。


「よその家庭事情に口を出すべきではありませんし、家族が絶対に仲良くすべきだとも言えません。ただ……」


 普段柔和な目に力が灯る。

 リコリスを見据え、次にライラを見つめる。


「少なくとも、自分勝手な暴力を押し付けるべきではないでしょうね」


「…………そうね。それにあたしの相手はリコリス(こいつ)みたいだし、そっちで言いたいことを言わせてもらうわ」


「できるものならやってみるといい」


 視線がぶつかる。

 先鋒戦の火ぶたが切って落とされようとしていた。


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