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131.めまぐるスピード、撒き散る死体


 ミサキは珍しく暇だった。

 フランは仕事で忙しく、アトリエには顔を出せない。

 かといって今はちょうどアリーナで大会が開催されていない。


 基本的な行動がこの二つに占められている彼女としては、どう過ごせばいいか困るというのが現状だった。かといってログアウトするのもな、というどっちつかずの心境。

 

「ま、たまにはひとりでダンジョンでも行ってみようかな」


 まれにこうして時間に空白ができるときはある。アトリエに来る客が増えた今となってはなおさらだ。

 そういうときのミサキは適当にフィールドをぶらつき、目についたダンジョンへ適当に潜ることにしていた。それなりにバトルの練習になるし、運が良ければいい装備や素材がドロップする可能性もある。装備についてはフランが作ってくれるので直接使うことはないが、それを素材に別のアイテムを作ることもあるらしいので持って帰って損はない。


 そうしてミサキは草原エリアの隅に見つけたダンジョンの扉の前にやってきた。

 扉の脇に設置されたパネルを見てみると、レアリティはSR(SSRは入手難度が度を越して高いためSRでも充分に価値がある)。推奨レベルは70と記載されているが、これにそこまで厳密な意味はない。プレイヤーのレベルは50から絶望的に上がりにくくなるので、あとは装備とクラス、スキルがものを言う。


「まあちょうどいいでしょ。いっくぞー!」


 腕をぐるぐる回してダンジョンの扉をくぐっていく。

 今回はどんなボスが待っているのかな――と胸を高鳴らせながら。




「なんだここ……」 


 ミサキは何の変哲もない城タイプのダンジョンを進んでいた。

 西洋の城のような内装で、薄暗いもののRPGなどでよく見るようなデザインだ。

 城タイプのダンジョンが生成されるのは珍しい。しかし困惑のもとはそこではない。雑魚敵や他のプレイヤーに全く遭遇しないことでもない。


 ……いや、正確に言えば居る。だがそれは『異様』の一言が付随する。


「なんでこんなに死体が転がってるの……?」


 ホラーやグロ表現が苦手だったら悲鳴を上げていたかもしれない。

 石畳に赤いカーペットが敷かれた床の上、いたるところにプレイヤーや骸骨っぽい敵の死体が散乱しているのだ。

 本来、HPがゼロになったものは青いポリゴンの破片となって消滅する。だがそのルールが適用されていない。


 走りながら彼らの死体を視界に入れてもカーソルや名前が表示されることはない。完全に、ただのオブジェクトと化しているようだ。


「敵はいいとして、この人たちの精神(なかみ)はどうなってるんだろ」


 もし普通にリスポーンしているとしたら、急いでここに戻ってくれば自分の死体を見られるのかな、と考えると若干シュールに思える。

 というよりこれはどういう状況なのだろうか。ダンジョンやボスのギミックなのか、それともバグか。

 もし前者だったら突然襲い掛かってくるかもしれない――そう考えて警戒しつつ進んでいたミサキだったが、結論から言うとそれは杞憂だった。


 最後までなにも起こらないままボス部屋の前に到着してしまったからだ。


「結局なんだったんだろ……」


 ここまで一切敵と遭遇することなく到達してしまった。

 かなり広いダンジョンではあったが、足を止める者さえいなければそこは随一のスピードを持つミサキ、あっという間に駆け抜ける。肩慣らしの暇つぶしにと訪れたダンジョンなので、少し不満ではあるが。


「……よっし! 気を取り直して攻略するぞ!」


 とにかくボスはいるはずだ。

 意を決して大きな扉を押し開き、部屋へと入っていった。

 

 いつもの円筒型のボス部屋だ。

 天井からはシャンデリアが吊り下がり、部屋内にはなぜかパイプオルガンによる賛美歌のようなBGMが流れていた。

 ただ、ミサキが注意を引かれたのはそこではない。


「おわ、もう始まってる」


 先客。すでにボスと交戦を始めているプレイヤーがいる。

 ボスは『骸の花嫁』。ウェディングドレスを着た骸骨のようなモンスターで、低空を浮遊しながら手に持った黒バラブーケから伸びる刀身をメインウェポンに攻撃してくる。


 そしてそんなブーケの剣を、身の丈ほども大きな棺桶によって受け止めるのは、紫と白のツートンカラーの髪をお団子にまとめた、チャイナ服とゴスロリを合わせたような衣装に身を包む幼い少女。

 

 ピンチだ、と判断してからは速かった。力強く地面を蹴り一歩目からトップスピードに達する。

 この部屋にも散乱するプレイヤーたちの死体を突っ切って飛び上がったかと思うと、


「おらーーーーーっ!」


 骸の花嫁の側頭部に渾身のドロップキックを叩き込んだ。

 花嫁は花びらを散らしながら吹っ飛び、運動エネルギーをまるごと渡したミサキは難なく着地した。


「ふう。大丈夫だった?」


「あ……え……ミサキちゃん……?」


「あれ? わたしのこと知ってるんだ」


 こくこく、と頷くゴス団子少女。

 そう言えばファンクラブなんてものがあるんだし知名度はそこそこ高いんだった、と微妙な笑顔になるミサキ。

 吹っ飛ばした先、花嫁が起き上がりつつある。まずはあれを倒さなければ。


「一緒にあいつを倒そう。えっと名前は……」

 

「えと、その……ライラック……みんなからはライラって呼ばれてるの……」


「わかった、ライラ。とりあえず好きに戦ってみて。合わせるから」


 ミサキにはライラの戦い方はわからない。

 しかし彼女が自分のことを知っているなら戦闘スタイルをわざわざ説明することもないだろう。

 だったらミサキ側が連携していく立ち回りが正解のはずだ。


「攻略開始!」 


 ミサキの声に頷き棺桶を構えるライラ。

 珍しい武器だ。あとでいろいろ聞いてみようと決めつつも、即興の共闘が始まった。


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