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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
第七章 少女強化月間
113/325

113.Hidden Forbidden Sanctuary


「そんなわけで我々は山岳エリアにやってきたのであった」


「なにそのノリ」


「なんとなく」


 跳ねるように歩くミサキの黒髪が揺れる。

 その言葉の通り、六人は山岳エリアを訪れていた。

 生成したURのカギによって作り出されるダンジョンがここに出現するからだ。


「六人目、本当におれでよかったのか? 嬢ちゃん」


「もちろん! くまさんが適任だよ」


 ミサキが振り返って笑いかけた先には重鎧を身にまとい、大盾を携えた大男がいた。

 彼はくま。気弱そうではあるが、『ガーディアン』というタンクに特化したクラスで、敵の攻撃を防ぐことに関してはピカイチの性能を誇る。以前ミサキはこのくまと偶然にもこの山岳エリアで出会い、彼の元いたパーティとの軋轢を暴力で解消したという経歴がある。


「くまさんみたいな人は対高難度ボスこそ輝くんだよ。それに困ったときは頼るって言ったでしょ。いまがその時ってこと」


「そうか……なら期待には応えないとな」


 その自信に満ちた笑顔を見て、ミサキは嬉しそうに頷いた。

 もう以前の消極的で自分を肯定できなかったくまはいない。あれからソロで活動して経験も積んだのだろう。


「もうミサキ、私のこともわすれないでくださいよう!」

 

 甘ったるい声で腕を組んできた全身ピンクの少女はラブリカ。

 ミサキとはリアルで先輩後輩の関係で、それなりに仲もいい。今回は後衛サポート役として活躍してもらう目論見だ。

 というより他に候補がいなかったというのが大きいのだが。見返りなくクエストを手伝ってくれる知り合いが、ミサキにはほとんどいない。


「歩きづらいよ……ていうかわたしの方が背低いんだからしがみつくの辛くない?」


「んー、これはこれでぬいぐるみに抱き着いてるみたいでいい感じですよ」 


「愛玩扱いなの? っていうかほら、視線が辛いから。そろそろ離れて」


「……はーい」 


 ごねるかと思いきや意外とすぐに離れてくれた。

 それは殿(しんがり)を務めている二人のうち、翡翠の存在が大きいのだろう。

 黒と緑を基調にしたどこかサイバーなデザインの装束をまとった翡翠はリアルにおけるミサキのパートナー的存在だ。そんなこともあり、ラブリカとはひと悶着あった。


 ラブリカは翡翠のことが少し苦手だった。

 良い人だというのはわかるのだが、初対面の時に少々圧をかけられたことがいまだに残っており強く出られない。


「…………ねえ、翡翠もしかして怖がられてない? あのピンクっ子に」


「わかります? なぜなんでしょうか……」


 こっそり耳打ちするカーマに首をかしげる翡翠。

 翡翠はラブリカ=姫野桃香であることにいまだ気づいていないのだった。


 ステゴロちびっ子、ミサキ。

 錬金術士、フラン。

 盾役、くま。

 ピンク魔法少女、ラブリカ。

 そして新入りにしてミサキの友人、翡翠とカーマ。


 この六人が今日のパーティである。


「場所は……この辺だよね」


「ええ」


 マップを開いて座標を確認するミサキに頷くフラン。

 その手には虹色の光を放つカギが握られている。

 山岳エリア、その頂上付近。荒涼としていて静かだ。モンスターもいない。時間と天候によってはボスが出現する場合もあるが、今日は出ない時を選んできた。本番を前に無駄な戦闘は避けたい。


 何しろ今から挑むのは、『アストラル・アリーナ(このゲーム)』においてトップクラスの難易度を誇るグランドスキル習得クエストなのだから。


「出すわよ」


 フランがゆっくりとカギを掲げる。

 すると光がその強さを増し、カギが消滅する。同時に彼女たちの前の地面に虹色のワープゲートが出現した。

 その脇にはウインドウが出現していて、そこには『挑戦回数:1/1 定員:6』と記載されている。一度でも挑戦に失敗すれば再チャレンジはできない。


「あー緊張する! でも楽しみ! いこうみんな!」


 嬉しそうに先導するミサキに頷き、パーティメンバーは続く。

 虹色の渦光に足を踏み入れるとその姿が消える。最後の一人の姿が見えなくなったところで――つまり全員がダンジョン内へと転送された直後、ゲートは消滅した。





 一瞬だけ意識が断絶し、彼女たちが立っていたのは大橋だった。周囲を見渡すと広大な湖に囲まれていることがわかる。

 橋の先には大きな聖堂が建っているのが見えた。ダンジョンという呼び名にはそぐわない、どこか開放的で静謐な雰囲気を醸した場所だった。

 このゲームのダンジョンにはいくつかの決まったタイプが設定されており、例えば遺跡型、洞窟型、塔型などが存在する。それらのフォーマットを元にダンジョンが自動生成される仕組みになっている。


 だがこの場所は今まで見たことのない場所だ。おそらくこのクエストのために設計されたダンジョンなのだろう。


「いや、でもなんかここ嫌な感じだ……」


 聖堂へと続く大橋は、おびただしい量の紫色の肉塊のようなものに浸食されており、あたりに同じ色の瘴気を漂わせている。

 よく目を凝らしてみると聖堂そのものの外観もところどころ同じ肉塊に覆われている。それらは不気味に脈動し、屋外のはずなのに巨大な生物の体内に侵入してしまったような錯覚をしてしまった。


「RPGのラストダンジョンってこういうの多いよね」


「それは知らないけど。ボスがいるのはあの建物かしら?」


「だろうな。……何が出てくるかわからない。気を付けていこう」


 慎重なくまの物言いに全員頷く。

 誰もがこの場所の異質さを感じ取っていた。

 

 何も言わず盾役のくまが先頭になり列を成して歩き出す。すると何歩も進まないうちに異変が起きた。

 紫色の肉が脈動し、モンスターを吐き出したのだ。

 

「やっぱりすんなりは通させてくれないね!」


 モンスターのサイズは小型。浮遊するそれらは黒く丸いボールのような形状で、無数の触手が生えている。そしてひとつだけの鋭い瞳がぎらりと瞬き、こちらを睨み付けているのがわかった。

 【インサイト】でステータスを確認すると、数のわりにレベルが高い。こうしてみている間にも続々と出現し、橋を取り囲み、行く手を塞ぐ。その光景に、ミサキは小さく舌打ちする。

 飛行する大量の敵は徒手空拳で戦うミサキにとって天敵だ。


 グランドスキル習得クエスト――聞いていた通り一筋縄ではいかない。

 ボスと戦う前から切り立った高い壁が彼女たちの前に立ちふさがっていた。


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