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ガールズ・ゲームVR ーアストラル・アリーナー  作者: 草鳥
第七章 少女強化月間
110/325

110.グランドへの叉路


 豪奢な応接室だ。

 ミサキが抱いた感想はそれだけだった。思ったより狭いが、テーブルも四人分の椅子も、現実にあったら何十万するのかと思えるような素材とデザインの精巧さ。テクスチャを張り付けているだけじゃないのかと思いそれらの装飾を注視してみると、特有の粗さがなくポリゴンで形成されていた。こういった趣味をお金大好きフランは気に入ったのか、興味深そうな目であちこち見回している。

 隅から隅まで王宮で、きらびやか。ここに来るまでもレッドカーペットを歩くという貴重な体験をした。ふかふかだった。

 

「さて、グランドスキルについて聞きたいとのことだったが」


 手を組んだカンナギがゆっくりと背もたれに身を預ける。そんな所作も絵になって、やっぱり気に入らないなとミサキは思いを新たにする。

 だが今は頼んでいる身なのでそんなことは口にしない。


「単刀直入に言うけど、習得方法を詳しく教えてほしい。カンナギは高難度クエストをクリアしたって言ってたけど……たぶんほかにもあるんだよね。その高難度クエストか、もしくはそれ以外の何かが」


「また無遠慮だなァこのちっさいのは」


 カンナギの隣に座るギルドのサブリーダー、カヅチが口を挟んでくる。

 リーダーとは対照的にだらんと身体の力を抜き椅子に腰かけている。


「えっと……失礼を承知で聞くんですが、どうしてあなたも同席を?」


「こいつが頼りないからだ。このナギってやつは……フランっていったか、そこのあんたに骨抜きだ。ほっといたらなんでも言うこと聞いちまいそうだから俺が付いてきたんだよ」


「おい。僕に失礼だと思わないのか」


「思わないね! 事実だもんよ」


 そのまま小競り合いに突入する二人はいがみ合ってはいるものの、ミサキたちから見ても気の置けない関係に見える。

 遠慮なく言い合える関係なのだろう。


「仲いいのね、あなたたち」


「まあな」「そうとも!」


 ぴったり揃った返答にくすりと笑うフラン。

 相当の年季が感じられた。もしかすると神谷(じぶん)と光空と同じように幼馴染だったりするのかも、とミサキは推測する。


「……ごほん。話を戻そう。ここまでわざわざ来てもらって悪いとは思うが……前にも言ったけどグランドスキルは僕にとっても仲間たちにとっても大切なものだ。簡単に教えるわけにはいかないな」


「ナギ……」


 毅然とした態度。

 こういうところがギルドメンバーに慕われる所以(ゆえん)なんだろうなと納得する。

 だがそういう返答をされるのも想定済みだ。なんのためにフランを連れてきたか。それはこの時に備えてだ。


「フラン。よろしく」


「ナギくんおねがぁい♡」


「いいよっ!!」


「オイ馬鹿!」


 端的な指示に瞬時に応えたフランが甘ったるい声で媚びると一瞬で陥落した。

 ぱしーん、と慌てたカヅチがふざけた後頭部をはたく。


「痛いよ!」


「痛いよじゃねーよ! 泣けるくらい予想通りにほだされやがってこのポンコツ!」


「あはは」


「あははじゃねーよちびっこお前も!」


 ……たぶんこの人普段からこんな感じで振り回されてるんだろうなあ、と軽く同情と共感を覚える。

 自分自身フランに振り回されがちなので気持ちはわかる、としたり顔でうんうん頷く。

 

 ミサキもどちらかというと振り回す側の人間ではあるが、彼女にその自覚はない。

 ツッコみ疲れたのか椅子に座り直してため息をつくカヅチを見ていると、隣のカンナギが落ち着いた様子で口を開く。


「…………というのは冗談で。最初から教えるつもりではあったよ」


「ほんと!?」


「おいナギ……」


 咎めようとしたカヅチを視線で制し、カンナギは続ける。


「ミサキさんに教えるつもりがなければそもそもここまで呼ばないからね。あとは……そうだな、僕に勝った景品だと思ってくれ。と言ってもヒントくらいしか教えるつもりはないけどね」


「じゅーぶん。で、そのヒントっていうのは?」


「入手方法はまずひとつ、クエスト報酬だ。これが曲者でね――僕のギルドにはクエストコンプリートを目指している奴がいるんだが……」


「ちなみに俺のことだ」


 親指で自らを指すカヅチ。

 意外と……と言えば失礼かもしれないが、コレクター気質らしい。

 

 このゲームのクエストは定期的に自動生成されていくので全て達成するのは不可能にも思えるが、それを知らないとは思えない。だから追加スパンをを超えるペースでクリアしているのだろう。


「そう、カヅチはそういう趣味だから報酬の多寡関係なくクエストに挑んでいたんだが、ある時ダンジョンのカギが報酬になっているクエストをクリアしたそうだ」


「低ランクも低ランクのカギだから誰も挑もうとすらしてなかったけどな。で、そのカギを手に入れたら新しいクエストが解放された。詳細をよく見てみると、また別のカギが報酬に設定されてたんだ」


「あ、もしかして……」


 何かに気づいたフランが声をあげる。

 それに頷くとカヅチは続けた。さっきまで明かすのを嫌がっていた割にノリノリだ。


「クエストをクリアするとさらに高ランクのカギが手に入る。それをひたすら繰り返した俺はついに手に入れたんだよ。UR(ウルトラレア)のカギをな」


「で、そのカギを手に入れたと同時に解放された超高難度クエストをギルド総出でクリアしたってわけさ」 


「URって、そんなあったの!? ってことはわたしもそのカギが報酬になってるクエストに挑めば……!」


「うーん……まあそうなんだけどね」


「歯切れ悪いわね。何かあるの?」 


「……まあ聞いてくれ、もうひとつの方法を。君たちも知っていると思うが、入手したアイテムは説明文や効果が見られるだろう?」


 頷くミサキとフラン。

 メニューサークルをからアイテムストレージを開き、所持アイテムをタッチすればそれぞれの情報が見られる。

 

「で、そこにはそのアイテムの入手方法も記載されているわけだよね」


「うん。どこのエリアに落ちてるかとか、どの敵を倒せばドロップするとか」


「URカギを手に入れたときに見たんだよ、入手経路。そしたらな――『クエスト・合成』って書いてやがった」


「ご、合成?」


 確かにこのゲームには合成というシステムがある。

 アイテムストレージから行える、レシピに乗っ取りアイテムを組み合わせて新しいアイテムを作り出すシステムだ。

 例えば《スライムの体液》と《薬草》を合成すれば《回復スプレー》ができる、など。


「そのレシピはだな……言いにくいんだが……SSRのカギ三つだ」


「…………マジ?」


「大マジだ」


 SSRのカギ。

 ガチャから超低確率でしか排出されない、このゲームにおいて最も批判の対象になっている存在。

 あまりにも出ないことからこのゲームのサービス開始当初は都市伝説と疑われていたくらいだ。


「まあ現実的なのは前者のわらしべクエストの方だね。でもとんでもなく面倒だし時間がかかるんだよ」


「俺がそのクエストだけに集中して二か月ちょいってところだ。手っ取り早くとはいかねえな」


「二か月……」


 注力してもそれだけかかる。

 そんなには待てない。すぐに強くなる必要がある。


「ただガチャでSSRを引きまくって合成するよりはいいだろう。クレジットがどれだけあっても足りないよ」


「たしかにね……ん?」


「ねえ、ミサキ」


 ミサキとフランはここで同時に気づいた。

 SSRを複数引くなど現実的ではない。クレジットがいくらあっても足りない。

 だが。


「いや、ある」


「あるわね」


「あるって何がだい?」


「非現実的で、使い切るのが難しいくらいのクレジットを――わたしたちは持ってる」


 そう。

 以前行われたレースイベント『ライオット』に二人で優勝・準優勝したことで、彼女たちの手元には莫大な賞金がある。

 ある程度ガチャには使ってしまったが、それでもまだまだ浴びるほどに残っている。


 よってこれから始まるのは。

 際限のないガチャ地獄そのものである。 


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