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遠夢草の眠り歌

作者: 奥田 繭


白き月明かりに夢の海 滔々と流るるは遠き時間

記憶のひだが花を咲かせて 毒の香りに誘われる


この身は独りでうずくまり 音無き嵐に骨を鳴らす

今宵も哀しいあのひとは 肉を喰らいに森へ行ったか


両のまなこは死に化粧 わたしはかつての旋律を口ずさみ

忘却の呪文を唱えながら ただ一篇の詩を書きしるすのみ


誰にも読まれぬ言の葉たちは 無情な風に運ばれ消える

そうして耳をすましてみれば 獣の慟哭が脳天をつらぬき戻る


ああ 無防備な生白い首筋をつたう 紅き血潮よ

鋭い爪を宿したその手は 柔らかな肉塊をもてあそぶ


死にゆく途中の嘆き声が さいごの恍惚をいざないて

生と死のはざまで ふたつの影がむせび泣く


わたしは笑って子宮を取り出し 黄泉のしるべを空に描かん

やさしき唇が引き裂く身体に 自分自身の幻をかさねて


小刻みに震える細き四肢たち その痛みはわたしのもの

どこにも行けずに仮面をつけた 顔のない愚かな女よ


嘘と悲哀がきずいた掌の世界 涙がうがつ歪みの罠

偽善と偽悪の回転扉が あの人の帰りを受け入れきしむ


拭い去られた命の匂いに 真実の鐘が鳴り響けども

耳なき傀儡に宿りしわたしは 夢魔に身をよせ無に沈みこん


そうしてわたしは愛を見る わたしの両手が血に染まり

あのひとのちっぽけな心臓が しゅーしゅーとぶざまにうそぶくのを


わたしの掌の上でのたうちまわり どす黒い涙を流しながら

喰らいし肉塊たちのかけらを詰まらせ ゆっくりと窒息してゆくのを

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