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レッドギア・ジェーン  作者: まつげ
赤毛族
7/43

居酒屋相撲(ジャングル場所第一番)3

 ジェーンはまるで大型トラックに衝突されたような衝撃で、居酒屋の中にすっ飛んでいく。酒場の丸い大テーブルを、よい色の肌をした彼女は大の字になって乗り上げる。テーブルの板は床にへばりついた。

 はだけた上半身には、谷間の当たりにテツロウの付けた爪痕が、信じられない大きさで刻まれていた。

 店内は、騒然とする。

 カウボーイたちは驚いて銃を引っこ抜き、外に飛び出した。


「一体どこ野郎だ!」

「この爪痕、テツロウか!?」

「あいつがこんなことするはずねぇよ!」

「まて、あいつも肉食動物だ、やっぱりサーバントと人間の共存は不可能だったのか!?」


 カウボーイたちは外に出て、現行犯の哲朗を見つける。

 テツロウは喪失感に襲われているようだった。爪を立てた、黄色いフサフサの両手を、目の前で眺めている。赤い白目のしたから、涙、頬を伝っていた。

 彼のこトラの子分が悲しそうに、哲郎の黄色い足に頬をすりよせる。


「ああ、どうしよう……これじゃ、もうサーバントと人間の共存はできない」

「兄貴、しっかりしてくだせぇ、これでもサーバントの威厳は保たれましたぜ」


 カウボーイたちは哲郎を囲い、銃を向ける。


「貴様、テツロウ。ついにやってくれたな肉食動物!」

「見損なったぞ!!」


 テツロウは涙を拭うだけだった。


「すまん、サーバントのみんな、人間たち、すまん」


 カウボーイたちはすでにテツロウを取り囲んでいた。子分のトラも、しかたなさそうに、テツロウに寄り添う。

 カウボーイたちも涙を流しているものが何名もいた。土の上に、湿った場所ができる。

 だが、テツロウの足元は、それどころではないほど濡れていたのだ。溢れる涙を拭って、濡れた肉球を子分の頭にかぶせる。右目を開けて、子分を見下ろしていた。


「おい、虎徹こてつ、お前は逃げろ」

「ですが兄貴」

「俺は、最後まで戦う。人間を、この場でだけでも根絶やしにしなければならない」

「兄貴、あっし反対です」

「もう決めてしまったのだ。さあ、合図とともに、さっさと駆け抜けろ!!」


 テツロウは、顔を両手で覆っていた。爪の出てない、トラの肉球の下で、悲しそうに鳴いていた。百獣の王にも劣らない、豪快な鳴き声、酒の臭いも漂って、凄まじい重低音だった。


「人間どもぉお! 覚悟しろおお!!」


 その時、地面が大きく揺れた。大地が揺れる音がする。日差しを遮る、グレーの柱が上に立ち上った。


『パオォオオオオン! どすこいぃ!』


 テツロウ、ワイズ、他のカウボーイたち。彼らは一同、目を丸くして、今まで目の当たりにしたことがないものを眺めていた。それは、見たことがない大きさの生物で、見たことのない大きさの二足歩行で、見たことのない大きさの像さんだった。

 べつに、オトコの逸物の話をしているのではない。グレーの、シワシワの皮膚の、それでいて圧倒的な装甲を誇る生物、像。そう、像の話をしているのdさ。

 像の上には小像がちょこんと座っていて、この小像はテツロウの虎徹と同じく子分だった。


『ぱおーん、今日の一番は勝てそうですか、兄貴』

『パオォオオオオオン! もちろん、勝つ。この、無敵の力士、エレファント山に二言はなぁあい〜!!』


 巨大な像は、赤い回しをしていた。1000人の職人が1000日かかってもおりきれるか分からないほど回しで、前にびろーんとジャングルを覆い隠すほど伸びている。この赤、とても布らしい赤をしている。

 だがこの回し、残念な点が一つあった。なぜか、グレーのシワシワした分厚い皮膚のお尻の横っちょに、茶色い物体が付着しているのだ。言いようによっては、付着といいうよりも、脱糞、いや、ダップンしていると言える。

 ただ、茶色いのがダップンとは言い切れないのだ。肩の上の小像すら、『おやぶん、それもしかして糞でございますか?』とは口が裂けても聞けなかったからである。

 だが、小僧はどうしても気になったのだ。そこで、妙案を思いつく。


『兄貴、昨日食べたもの、当ててみせましょうか?』

『パォ!? いいだろう、やってみせよ』

『野菜のニンニク炒め』

『パォオオオオオ! なんでわかった!?』

『な、なんとなくです兄貴!!』

 ケツからニンニクの臭いが溢れていたのだ。


 巨大な像のはるか下。ジャングルの居酒屋では、テツロウが黄色と黒の縞模様をした顔を真っ青にして、両手で頬を押さえていた。


「な、なんてことだ!! 今日は、まさか……ジャングル相撲大一番!!」


 ワイズは急に鼻を覆った。突如、像の風下になった居酒屋は、脱糞の臭いをもろに受けていたのだ。


「ジェーンのやつ、これのことか!?」


 虎徹は黄色い背中を見せながら、テツロウの肩に避難してきた。テツロウのふさふさした後頭部に頭を突っ込み、鼻を守る。


「兄貴! 逃げましょう!!」

「そうだ、おい人間ども、ここは危険だぞ!!」

「まて、テツロウ。あれは一体……?」

「陣取り合戦だよ! ジャングルの陣地を巡って、一年に一回行われる、サーバントの恒例行事!! ジャングル場所大一番だ!」


 テツロウの周囲を取り囲むカウボーイたちは鼻を覆いながら、呆れてしまった。もう、彼らは銃を構える気すらないようだ。

 うかうかしているカウボーイを見て、テツロウは地団駄を踏んだ。彼の地団駄は十分に地面を揺らすほどで、腑抜けた人間たちに喝を入れることは十分にできた。


「おめぇら! さっさとさっきの赤毛の女を連れてこい、こんなところにいれば、踏み潰されるぞ!!」


 ワイズは二丁を回転させると、腰にしまった。銃をしまった勢いでかがみこんで、居酒屋へと駆け抜ける。


「おーい、ジェーン! ここは危険だ、早く逃げるぞ!!」


 だが、居酒屋から返事はない。

 ジェーンは居酒屋のテーブルの上で、まだ大の字に寝ていたのだ。上半身裸で、乳首を完全に露出したまま、大層広々と寝転がっている。

 バーテンダーだけは、気にもとめずガラスコップをふている。カウンターの上に拭き終わったガラスコップが置かた。その向こうから、平静なバーテンダーが呼びかけた。スキンヘッドに、バンダナをかぶっていた。


「お客さん、いつまで死んだふりをなさっているのですか?」

「あれ? ばれかのぉ?」

「面倒を引き起こしたのであれば、自らお尻を拭くことをお勧めいたします。後々面倒ですよ?」

「そうかのぉ? でも、変わった帽子の連中も、あのテツロウとかいうやつも、分からずやなんじゃぁ、くその臭いがすると言っとるだけなのになぁ」

「まあ、人間もサーバントも、同じような思考回路というわけでございます」

「やっぱりそう思うか? わしもじゃ、あっはっはっはっは」


居酒屋の外から、男たちの声が聞こえてくる。彼らは、この辺を管轄する警察官で、銃の腕前は一騎当千。一人一人、3人人組くらいになれば、映画一個分の事件を解決できる実力者だ。しかし、ここサーバントのジャングルになると、あの様に振り回される側に立つ。

バーテンダーは感慨深く、ジェーンに投げかけた。


「返事をしてあげればどうですか?」

「今更何を返事することがあるんじゃ。ほっとけあんな奴らは、ふみつぶされればええんじゃ」

「それはかわいそうです」

「さっきの私はもっとかわいそうじゃったわい」

「では、こういたしましょう。上半身裸のあなたに、私が着るものを差し上げましょう。食事もタダです、ですから是非仲直りを」

「おっし、ならいいぞ」


 ジェーンは立ち上がると、赤毛を後ろに引きずりながら、バーテンダーに歩いて行った。辺りの木屑を蹴っ飛ばして、ジェーンは自分の座る場所を作る。

 バーテンダーは頭にかぶったバンダナをかぶり直し、自己紹介を始める。


「わたくし、ノーナンバーエージェント、またの名を、00(ぜろぜろ)と申します」

「面倒な紹介しよったの今、私はレッドギア。ジェーンって呼んでくれよな」

「わたくしのことは、00(ダブルオー)と読んでいただければ幸いです」

「また名前変わりよったな」

「いま、服をお持ち致します」


 バーテンダーはカウンターの奥の皿の奥に入っていた。

 ジェーンはカウンターに肘をつきながら、そばにあったウイスキーを酒瓶ごと飲んでみた。彼女は酒を飲んで首をかしげる、全く酒の味がしていないような気がしていた。彼女はウイスキーを元の場所に置く。

 居酒屋の扉を、ワイズが割って入ってくる。

 ジェーンがカウンターの前で、自分の大層な赤毛を踏みつけながら、アルコール度数の高いウイスキーを前にしている。

 ワイズはマイペースなジェーンの手を引っ張って、外に連れ出そうとした。


「早く逃げるぞ、ジェーン!」

「おい、乳首見えとるがいいんか?」

「そんな場合じゃない、巨大な像が暴れてるんだよ!」

「ああ、あれは像の臭いじゃったか。なるほど、どうりで土の臭いがしたわけじゃ」

「なあ、悪かったよ。俺も頭ごなしに怒って悪かった。だから早く逃げるぞ」

「服きてからな」

「そんなもんいくらでも貸してやるよ!」


 そんな時、バーテンダーが戻ってきた。大量に衣服を抱えて、頭の高さまで積み重なっている。


「服をお持ちしました」


 ワイズは仰天してカウンターを叩いた。


「そんなことしてるばあいか!」

「いいじゃろう、女の買い物には付き合うものじゃと、タエリカゆうとったわい」

「だれだよ!」

「これなんじゃ?」

「それはスパッツです」

「ほほ〜、これは?」

「スパッツです」

「これも?」

「はい、スパッツでございます」


 ワイズは銃を引き抜く。銃の銀色のハンマーを流れ作業であってと言う間に下ろして、引き金二人差し指をかけた。


「お前男だろダブルオー! スパッツ三着はどういった了見だ!?」

「ワイズさん、ジェーンさんのエスコートを頼みます。私は調理をしますので」

「おいワイズ、これなんだ?」

「どうせスパッツだろ」

「てか、スパッツってなんじゃ?」

「後で教えるからなんでもいい! さっさとしろ!!」


 ダブルオーはフライパンを手にオリーブオイルを取り出した。もちろん、すぐにフライパンに油を垂らすのではない、火に当ててから湯気がたった後で垂らすのだ。

 引き出しには氷と一緒に卵が入っていて、鮮度を保っていた。油に混ざっていた水がパチパチと音を立てる。卵を2コ割入れて、隣のシンクに殻を丁寧に置いた。

 ジェーンは鼻で目玉焼きの臭いを嗅ぎながら、ついにお目当の服を見つける。


「おい、ワイズ。これはなんじゃ?」

「え……それは、やめとけ」

「何でじゃ? 黒地に赤の文字で私にぴったりじゃろ?」

「でも英語で文字が書いてあってだな、いみは……」

「よっし、これに決めたぞ!!」


 ジェーンは洋服を上からかぶるように身にまとった。彼女は洋服をあまり着ないようで、袖の位置を真横に持ってくるのに時間がかかっていた。勢いに任せると、腕を伸ばした拍子に、洋服の脇腹から腕が飛び出る。


「ワイズ、着せてくれんか?」

「いい加減にしろ!!」

「頼む」

「……わかったよ!!」


 ワイズは近くにあった酒瓶をてに取ると、グラスに入れず直接飲んだ。途中から頭にも浴びて、ジェーンと向き合う。乳首をみ兄ように心がけるのだが、どうしても見たくて見てしまう。そんな男のサガに嫌気がさしながらも、なんとかしてジェーンが赤い洋服を着るに至った。

 ジェーンの胸元には、英語でこう書かれている。


『勃起』


 ダブルオーは笑った。

 ワイズは近くにあったウイスキーを直接瓶から煽る。頬を赤らめて、酔いに任せた。


「あ。それさっき私も飲んだぞ?」

「ぶほぉ! 先に言えよ、関節ファーストキス、だと。責任取らせるぞこら」

「それほんまに酒かいな?」

「お前ら後で覚えてろよ」

「助かったぞ、ワイズ」

「いってらっしゃいませ」


 居酒屋が大きく縦揺れした。外では、ジャングルのど真ん中にいる巨大な像が、相撲の準備んどうのための四股を踏んでいる。

 ワイズがジェーンを外に連れ出した頃には、テツロウや子分、カウボーイたちは逃げようにもどこに逃げるべきか互いに意見し合っていた。


「外逃げるべきだ!」

「いや、とどまるべきだ!」

「木の上に登ろう!」

「一度、警察本部に逃げるよう!」


 しかし、一向に安全な場所について結論は出なかった。このジャングルに、いま、安全な場所はないのである。

 ワイズは巨大な像を見て、一層唖然としていた。さらに奥に、巨大なクマのサーバントが見えるからである。


『ぐわっはっはっは! エレファント山、ついにこの時が来たな』

『グリズビーの藤、我らの長年にわたる相撲の因果、ここにて決着をつけようぞ』

『望むところだ』

『パオオオオオン!!』


 どうやら、テツロウやそれ以上に大きいサーバントとなると、必ず子分を連れているようで、グリズビーの藤の肩にも小さな小熊が乗っていた。

 とはいえ、明らかにでかい生物の方に乗っているため、おそらく小像も小熊も並みの大きさではないのが予想できた。

 巨大像と巨大熊、互いに正面で四股を踏み合う。ジャングルの太い木々をなぎ倒し、突風で小型生物を吹き飛ばし、大地を踏み鳴らす。

 このジャングル、別にまん丸の土俵ではないが、この敷地から追い出されたものの負け。ジャングル場所第一番が、いま始まる。

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