居酒屋相撲(ジャングル場所第一番)2
「おい、ジェーン。なぜあんな事を言った?」
「だからゆうとるじゃろ、なんか臭いよったんじゃ」
「どこに何の臭いがあるってんだ、言ってみろ!?」
トラの後ろ、ワイズはジェーンの肩を掴んでいた。彼女が乳首を晒していることには気にもとめず、彼女に叱責していた。
「お前、人間とサーバントの抗争を知らないわけじゃねぇだろ!?」
「抗争? 何を言い争っとんじゃ」
「言い争いなんて安いもんじゃない。暴力だよ、完全にな!!」
テツロウの後ろに小さいトラがついていく。なぜか背中をさすっているようで、よく見るとテツロウは涙を浮かべていた。
「あのテツロウはな、サーバントと人間を結ぶために、毎日人間の居酒屋にわざわざ足を運んでいるんだ! そんな奴に向かって、なんて無礼な言い方をする!!」
「ほ〜、そうじゃったのか。えらいのぉ」
「お前はえらくなさすぎんだよ、クソ野郎が」
「くそ……そうか、そういうことか」
ワイズはあっけらかんとしたジェーンに詰め寄る。怒りのあまり、拳銃を顔に突きつけた。
「何が、そういうことなんだ!? 言ってみろ、くそ野郎が!!」
「くその臭いじゃ、どっかクセェと思ってたら、獣のくその臭いじゃぁ」
「……なんだって?」テツロウの歩みが止まった。子分のトラは、テツロウの顔がどんどん鬼のように変わっていくのが、白に黒を垂らすよいうに明白だった。
黄色い縦縞の鬼が、後ろを振り向く。
「貴様ぁあ! 我々、聖なる存在を、くそがクセェと申すのかぁあ!?」
「だから、貴様じゃねぇって言ってんじゃろお」
ワイズはジェーンの胸ぐらを掴む。
「ジェーン、大概にしろ!!」
「何、怒ってる。お前さんも気づいたろ?」
「お前って奴は!!」
ブラックパンサーもジェーンの行動にビビりはじめた。全く敵対していなかった周囲の人間が、瞬く間に銃を抜き、その場が敵地になっていく。野生動物から言わせれば、ジェーンの行動は別のオスの縄張りに堂々と踏み込むようなものであった。
ブラックパンサーはジェーンの腰巻を噛む。
「がるるるる」
「どうした、首を横に振って」
「がるるるる」
「はぁ、仕方ないノォ」
ジェーンはため息をついて、皆を眺めた。周囲のカウボーイハットのおっさんと、トラのテツロウ、その子分に向けて、ジェーンは深々と頭を下げた。
赤い滝のような髪の毛が、上に立ち上ったと思うと、また重力で滝のようになる。
「すまん、みんな。わしが悪かったわい。どこも何にもクセェことないんじゃ、すまん」
その時、ようやくワイズも他のカウボーイたちもホッとしていた。銃を降ろして、椅子に腰掛ける人間もいた。酒に手をつけ、一服のためタバコを出すものもいた。
「ようやく分かってくれたのか、ジェーン」
ワイズの瞳が緩んで、警戒が解けたその時だった。
「もうおセェんだよ、くそ人間!!」
テツロウは、ジェーンを爪で引き裂いてしまった。