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レッドギア・ジェーン  作者: まつげ
赤毛族
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居酒屋相撲(ジャングル場所第一番)1

 ジェーンは居酒屋にたどり着いた。ワイズに手を引かれ、犬のように連れてこられていた。彼はブラックパンサー置いてせっせと逃げてきたようだったが、ジェーンがブラックパンサーの襟首を捕まえて一緒に連れてきていることに一切気づいていない。


「ジェーン、ここが近場の居酒屋だ」

「おお、でっかいな」


 居酒屋はコテージを改造したものだった。元々は、このジャングルに『勤務』しているワイズのようなカウボーイたちの拠点だったのだが、つい最近バーテンダーが突然現れて酒場に作り変えてしまったのだという。入り口は、西部劇でよく見る、板だけはめ込んだような作りで、バーテンダーはカウボーイたちに世界観をよせているようだった。

 入り口手前には、テラス席があり、カウボーイハットをかぶったおっさんどもが幾つもたむろしていた。椅子に腰掛け、机に足を上げ、いろんなところで葉巻を吸っているのである。

 ワイズはジェーンを振り返る。彼は息を切らしながら彼女の屈強な身体を手前に引き寄せ、突然後ろに現れたブラックパンサーに驚く。


「えっ!? いつの間についてきてたんだ!?」

「ずっとじゃろ、おまいさんも、よくくたびれずにこいつごと私をひきずっていったもんじゃのぉ」

『がるるるる』ブラックパンサーはよだれを垂らした。

 ワイズは髪の毛をかき乱して、

「よだれ垂らしてるし! ここはペットとかそれ自体禁止だからな!!」

 というと、ブラックパンサーから三歩下がって距離を開けた。


 居酒屋から、大きな黄色い毛皮が出てくる。黒の縞模様で、見るからにトラのそれだ。二足歩行の姿で、板の扉から出てくると、やはり二足歩行のトラだった。

 大柄で、2メートル以上はゆうにある身長だ。かなり肉体派のようで、履いているジーンズのベルトが今にもちぎれそうだった。

 隣で、小さなトラが肩をすぼめている。


「ぐわっはっはっは、ここの酒はうまいなぁ」

「兄貴、どこでも一緒です、ここは安いワインです」

「何を言う、ここで飲むからうまいのだ」


 ジェーンは目を丸めていた。彼女は生まれも育ちもジャングルだったのだが、しゃべるトラはお目にかかったことがない。

 ワイズはジェーンの肩をたたく。


「どうした? ジェーン」

「なんじゃあのトラは? しゃべっとるぞ?」

「知らないのか? ここはサーバントの住むジャングルなんだ、主人に使えるサーバントたちは、言葉を喋れる動物だっている」

「さーばんと? なんじゃそら」

「わからないならいい、でも彼らにはケンカを売るんじゃないぞ。絶対に騒ぎを起こさないことだ」


 ワイズはジェーンをずるずる引きずって、居酒屋の階段を上がった。

 大柄のトラの横を通り過ぎ、頭をかがめて店の扉を開ける。

 ジェーンはかかとで引きずられながら、ワイズが掴んでいる手を引っ張った。


「おい、ワイズ」

「なんだ、飯食うんだろ?」

「なんか、獣臭くないか?」

「ちょ、何言ってんだ!?」


 ワイズがジェーンの口を塞いだ。



 ジェーンの言葉に、トラがこちらをギロリと睨みつける。たしかに、このトラからは少しどころかかなり獣の匂いがしていて、動物園の檻の中を思い描かせる。ただ、それを言う相手が、言語を操り、人間ほどの知能があるのならば、伝えるべきではないはずだった。


「おまえぇ、そんなにトラが臭いのかぁ?」

「いんやぁ、違う」

「じゃあ何が臭いってんだ!?」


 トラはジェーンの胸を隠すだけの葉っぱを引きちぎった。本来は胸元を掴むはずだったのだが、葉っぱの服はそれだけの耐久性はなかった。

 トラは眉間にしわを寄せながら、凄む。ジェーンの乳首には興味がなさそうだった。

 ワイズは顔を赤らめながらも銃を引き抜く。銃口はまだ誰にも向いてなかった。

 トラの隣で子分がワイズの腕を引いて首を振った。

 ブラックパンサーも四つん這いになってワイズの裾を引っ張る。


「俺はなぁ! 女子供容赦しねぇぞ!!」大虎が吠えた。

 子分は肩を震わせていう。

「兄貴! よしてくだせぇ!」

「がるるるる!」ブラックパンサーがジェーンと大虎の間に割って入った。

 ワイズはようやく銃口を大虎に定めると、強い口調で言う。

「おい、大虎のテツロウ、よしときな。警察沙汰にしたくないだろ?」

「人間の指図は受けねぇ、俺様をバカにしようってんだ、覚悟できてんだろうな!?」

「ジェーン、謝っておけ!」


 ジェーンはあっけらかんとしていた。斜め上の空を眺めていて、なぜトラのテツロウはこんなにも怒っているのだろうと、思考を巡らしている。

 周囲では、カウボーイハットのおっさんたちが銃を抜いている。トラも、集中砲火されればひとたまりもないはずだ。だから、トラも本気で手を出す気はないと、ジェーンは気づいていた。


「なんでそんなに怒ってるんじゃ?」

「何を言う、おまえが俺を臭いと言ったからだろう!!」

「おまいさんは臭くなんかない。わからんのか?」

「ぐるぅ……なら何が獣臭い?」

「それがわからんのじゃ、なんかのぉ、遠くの方で汗かいた、くっセェ動物がいる気がするんじゃ。ほらな? なんか漂ってこねぇかイ?」

「何をぬけぬけと、そんなにクセェなら、その鼻ねじ切ってやんよ!!」


 トラのテツロウは爪を立てて、ジェーンの鼻頭に振り抜いた。赤い鼻血がパッと飛び散り、コテージの階段に滴る。

 周囲のカウボーイたちは引き金に力を込めて、


「貴様ら、いつまで争っているつもりだ!?」「ワイズ、誰だか知らんがなんとかしろ!!」「サーバントと人間の抗争走ってるだろ!!」「それ以上やれば、ただでは済まないと思え」


 ワイズはテツロウの腹に銃口を突きつける。同時に、もう一つの拳銃をジェーンの頭に突きつけた。

 ブラックパンサーは、ワイズの目を見てあっという間に怯えてしまう。

 今のワイズは殺し屋の目だ。


「もういい、俺の言う事は聞かなくてもいい。だが、お前らのために、言っておいてやる。次はねぇ」


 ジェーンは平然としていた。

 テツロウはまだ眉間にしわを寄せているが、階段の下に唾を吐き捨てると、しみったれた顔でその場を後にした。

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