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#030 元ネタ被りは恥ずかしい

 疑問に答えを見出すよりも早く、またしても衝撃が体を包む。

 耐えきれずにもう一度、後方へと吹き飛ばされた。

 いい加減、やばいな……。

 直撃でなくても、この威力を至近距離で受けていては身が持たない。

 何より、おれひとりでは到底、やつの力に対抗できないという現実が重くのしかかった。


「くそ……」


 違和感を覚えて口元をぬぐう。

 手の甲に残る血のあと

 口の中を切ったか?


「口ほどにもないな。その剣の力がなければ、おれはもっと早く貴様を倒しているぞ。ニードルを真似たのは見た目だけか? 正直、期待外れだな……」


 遠くからキリヒトの勝ち誇ったような声が聞こえる。

 言いたい放題だな……。

 誰だよ、ニードルって?

 そんな名前はこの世界に来てから一度も耳にしたことがない…………。

 

――いや、ちがう!


「ニードルだと?」


 気力を振り絞って上半身を起こす。

 体中が痛みを訴えていた。

 だが、剣を握った拳に力は入る。

 立てた膝は震えながらでも体を支えることが出来た。

 まだ、おれは……。おれたちは戦える。

 決して勝負を投げ出したりはしない。


「まだ立つのか? 往生際の悪いことだ。ニードル・スパイクの能力をすべて持つ、このおれに本気で勝てると思っているのか……」


 キリヒトが口に出した、その名前をおれはどこかで聞いていた。

 ここではない、どこかで。

 おぼろげな記憶がよみがえる。

 オトギが言った。

 おれとキリヒトはよく似ていると……。

 ミネバがおれに伝えた。

 転生の姿は、心の奥底に根ざした憧れが具現化したものであると。

 そして、おれは思い出した。

 この姿と『ニードル・スパイク』という名前。

 ふたつを結びつける、忘れていた思い出と忘れたかった過去の記憶を。


「これで終わりにしてやろう。今度こそくたばれ!」


 キリヒトが大きく腕を振りかぶり、こちらに向かって拳を突き出した。

 ほとんど同時に押し寄せる、くうを切り裂く衝撃波。

 その正体は、四肢ししを目に見えないほど速く動かすことによって生み出されるソニック・ウェーブ。

 対戦型キャラクターブック、『ブレイブ・ワールド』に登場する、”閃光せんこうのニードル・スパイク”が使用する必殺技、雷神拳ライトニングファストブローうりふたつだった。


――やっぱりか、間違いない!


 まだTCGトレーディングカードゲームというものが、都会の子どもたちの最先端の流行でしかなかった頃。

 第一にブースターパックを入手するコンビニさえ近くになかった田舎では、対戦相手を見つけることが困難だった。

 そんな時、兄の本棚から見つけ出した何冊かのシリーズ本。

 美麗なイラストとともに各キャラクターの能力及び、行動選択と戦闘結果が記されているムック本は、長兄が学生時代に流行った対人形式のゲーム本だった。

 そのうちのひとりがニードル・スパイク。

 おれが人生で初めて小説らしきものを書いたとき、主人公のモデルとしたキャラクターだった。

 無論、いまでは立派な黒歴史である。


「消し飛ぶがいい! おれのニセモノめ!」


 勝利を確信したキリヒトが吠える。

 おれは持てる力を総動員して、両手に握ったシュトローム・ブリンガーを高く持ち上げた。

 だが、今度は刃を向けて敵の攻撃を迎え撃つのでない。


「そうだな。おれは確かに偽物だ……」


 上半身をひねり、刀身の腹を表にして真横に剣を振った。

 インパクトの瞬間、激しい衝突音と両腕に伝わる手応え。

 そのまま剣を振り抜くと、相手の衝撃波は跡形もなく消え去った。


「なんだ? 何をした、貴様……」


 こちらの行動の真意をつかみ損ねているキリヒトが、不思議そうな表情で小さく声を漏らす。

 親切に教えてやる義理も云われもないのだが、状況を都合よく進めるため、心理的優位を保っておいたほうが良いだろう。

 なのでふたたび、手にした剣の柄を肩口にまで上げ、正面にとらえたキリヒトを不敵に見据える。


「目の前で起こったことが信じられないなら、何度でもやってみればいい。お前の雷迅拳ライトニングフィストブローは、もうおれには通じない。それをハッキリと証明してやる」


 自信たっぷりに宣言する。


「ふざけたことを……」


 キリヒトも生来の負けず嫌いがたたったのか、まんまとおれの挑発にのってきた。

 胸の前に腕を置いて集中を高めている。【狙 い 撃 ちコンセントレーションアタック】か!

 こちらとしてもそのほうがありがたい。

 精度が高いということは、逆に攻撃の軌道を読みやすくしてくれるからだ。

 目を逸らさずに、じっと相手のモーションを探っていく。


「これならどうだ!」


 さすがにやつも馬鹿じゃない。

 これまでの上から振り下ろすような撃ち出しを改めて、逆に下から腕を振り抜いた。

 だが、焦るな。

 目には見えなくても、やつの動きを追えば、飛んでくる方向はあらかた予測可能だ。

 狙いはきっとおれの頭か胸元だろう。

 ならばと体を大きく開き、やって来るであろう衝撃波に合わせて両手で剣を横に振る。

 狙いは完璧だった。


「当たった?」


 予想したコースにフルスイングのシュトローム・ブリンガーが衝突する。

 力に負けじと、最後まで剣を振り切ってフォロースルーを決めた。

 小気味良い破砕音と同時に、雷迅拳ライトニングフィストブローによって放たれたソニック・ウェーブが一瞬で雲散霧消する。

 

「馬鹿な……」


 キリヒトの表情は、信じられない光景を目の当たりにして茫然ぼうぜんとなっていた。

 絶対の自信を持つ必殺技が打ち破られたことと、それ以上に、こんなふざけたやり方で対応されてしまった事態に驚いているのだろう。

 まあな。やってることは仕事帰りにバッティングセンターでピッチングマシン相手にバットを振っているサラリーマンと大差がない。


「そんな方法でおれの雷迅拳ライトニングフィストブローが……」


 いまだ現実を受け止められない様子のキリヒトが呆けたようにつぶやいた。

 ん? いや、でもこれは……。

 こいつ、もしかして知らないのか?

 いまのは表現がおかしいだけで、ちゃんとしたゲーム内スキルなのに。


「何を言っている。これだって立派なスキル、【撃ち返し(スマッシュバック)】だぞ。お前が無知なだけだ」

「なん……だと?」


 告げられた種明かしに半信半疑の表情を見せる。

 やっぱりだ。この物語を作った語り部は、”ニードル・スパイク”というキャラが好きなだけで、ゲームそのものにはさほど詳しくない。

 いまどきで言えば、トレーディングカードの熱心な蒐集家しゅうしゅうかであっても、それらを使った対戦ゲームには無関心な層か……。

 まあ、おれだって昔は似たようなものだった。

 なにしろ、一緒にゲームをする友達さえいなかったからな。

 ただ後年、『ブレイブ・ワールド』に再度、関わる機会があったから、細々《こまごま》としたシステムの中身を知り得ただけだ。


「知らないのか。投擲とうてきおよび、投射系攻撃に対して棒状武器を装備するキャラクターは、一定の確率で【撃ち返し(スマッシュバック)】を発動する。成功すれば相手の攻撃が無効化するというスキルだ」

「……だが、貴様が手にしているのは」


 いぶかる敵におれは右手のシュトローム・ブリンガーをかざしてみせる。


「こいつには心棒状に魔力のフィールドを展開してもらった。簡易的な棹状武器ポールウエポンの出来上がりだ」


 見せつけるように語ったあと、両手で剣を構え直し、相手の出方をうかがう。

 やつの最大の攻撃はこれで防ぐことが可能となった。

 実のところ、一度目は刀身の前面に大きく魔力を広げただけに過ぎない。

 それでも、シュトローム・ブリンガーはおれの意図を正確に理解して、二度目はインパクトの瞬間に形状を三角錐さんかくすいへと変化させた。


「まったく、お前は大したパートナーだよ」


 次には表面に小さな突起物まで追加して、もっとも効率よく衝撃を緩和する形態へと進化した。

 多分、次にはそれぞれが自律的に回転し、音さえ立てることなく敵の攻撃を粉砕してみせるだろう。頼もしい限りだ。


「さあどうする? それでもお前は納得するまで雷迅拳ライトニングフィストブローを撃ち続けるのか……」


 得意気に軽口をたたいて見せる。

 こいつが煽りに弱いのは、先程までのやり取りでハッキリとわかった。

 ムキになってスキルを連発してくれれば、疲労を誘って少しは有利に戦いを進められるだろう。というのが、おれの目論見もくろみである。

 だが……。


「なるほどな、原理は理解した」

 

 意外にもキリヒトは冷静な対応を見せた。

 というよりも開き直ったのか?

 やばいな。当てが外れたとかのレベルじゃないぞ

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