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Kingship  作者: 三化月
序章 【騎士と従者】
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8話 「朱の槍、山を抉らん」

 夜風が木々を揺すり、木の葉を巻き上げた。「escapeエスケープ」が俺とシルヴァさんとの間を繋ぎ、声を届ける。

 「コスモス」で聞く彼と声が違う事に違和感を覚えるが、男性の声なので本人なんだろう。

 「もしもし、シルヴァ殿でしょうか」

 「ランスロット卿でしょうか」

 確認が終わり、沈黙が訪れた。

 間違って違う人物に通話を掛けていたのでは洒落にならないからだ。

 先に声を出したのはシルヴァさんだった。

 「敬語は無しで行こう、俺も、君も。時間が無い」

 「――― 分かった。【召喚】した?」

 「あぁ、驚いたよ、まさかホムンクルスが出て来るとは思いもしなかった」

 彼も上手くやっているようで、俺の口の端が吊り上がった。

 「インベントリの動作確認と金属の変化はしたんやけど、他はまだ」

 「インベントリもか…!それはまた、ありがたいな」

 「ホムンクルスは錬金も出来るって言よったけど、まだ試してない」

 「いいよいいよ、少しずつでも分かって行けばいい」

 そこで刀を鞘から引き抜いた様な音が聞こえて来た。

 シルヴァさんが武器を取りだしたのだろう。俺は「武器はマズイでしょ」と彼を押さえ、一旦周囲を確認した。いくらイヤホンをしていると言っても、俺の声は筒抜けなわけだから、注意しない理由にはならない。

 「後で分かってる範囲の今バージョンのレシピをギルドチャットの方に貼るから、見といてくれるかい?」

 突然敬語になった。何かあったのだろうか。

 耳を澄ませば、規則正しい足音が僅かに聞こえる。誰か来たのだろう。

 「分かりました。私もレシピで分かった事があれば報告します」

 「頼むよ」

 彼との通話はその短い言葉で終わった。よっぽど急いでいたのだろうか。

 通話が終わったのだから、ココに居る理由もなくなった。誰かに見つかる前におさらばした方が良いだろう。俺は腰を上げ、ゲンガーを呼んだ。彼女は白い髪を揺らしながら小走りで近づいてくる。日本人離れした容姿は、黒い衣装と相まって誰かが見たら幽霊と間違われそうだ。それがどうしてかおかしくて、俺は一人で笑っていた。


 □


 「コスモス」に入った。シルヴァさんの方はまだ入ってないらしく、ギルドチャットを開いても他の人が雑談をしているだけだった。

 だいぶ出遅れてしまっているので、俺も早いところストーリーを追いかけることにしよう。


 ・メインストーリー

 ある錬金術師がギーメル街道を通っていた。普段通りであれば何の変哲もない道であるのだが、彼は何かを不審に思い、使い魔を召喚して辺り一帯を調べ始めた。

 ギーメル街道を通った行商人が彼の姿を確認している。


 まずは手掛かり1。この文面から推測するに、高レベルの隠しフィールドが見つかるのだろう。使い魔を作るには、最低でも中盤あたりの実力を持っていなければならないからだ。素材さえあれば簡単なのだが。

 今までのメインストーリーとは関係なさそうに見えるが、どう繋がっていくのか楽しみでもある。

 幸い、俺が居る最初の都市とギーメル街道は繋がっているため、そののままギーメル街道へと向かう。

 このストーリは行商人という単語が出ているものの、行商人を探して話しを聞いても手掛かりはそんなに貰えないだろう。何故なら、中級錬金術師でさえ違和感を覚えるだ。レベル的に上級錬金術師の俺が見つけられない理由は無かった。この手の問題の正解は幾つもある。上に上がれば上がるほど、選択肢が広がるというだけのことだ。

 ゲンガーを呼び出し、ギーメル街道へと進んで行った。


 適当に調べつつ、街道の真ん中辺りまでやって来た。辺りにはプレイヤーの姿も多い。この様子だと俺は付いていくだけでよくなりそうだ。

 ……実際そうなった。誰かが使い魔を召喚していたらしく、同行者と何言か言いながら道を逸れて行った。それに釣られるように多くのプレイヤーが列をなし、エリアボスでも倒すのかという装いになっていた。いや、中級以上のプレイヤー向けのストーリーのようだし、あながちコレで間違っていないのかもしれない。

 獣道にも似た道を進んでいくと、前衛から悲鳴が聞こえて来た。戦闘でも始まったらしい。

 青い光が魔物を起点に円状に広がり、地を這ってバトルフィールドの指定が行われた。このエフェクトはボス系との戦闘時のみ起こるものだ。つまり、この先に行くにはボスを倒さねばならない、と。

 「介入致しますか」

 「無論。急いでいるのでね」

 後方を確認し、バトルフィールドの広さと戦闘に参加しているプレイヤーの数を調べる。大まかな人数は30人といったところ。中規模戦闘に分類される数だ。だけどどうせ門番的な何かが居るのだろう。

 俺は不参加を決め込むプレイヤーを追い抜き、インベントリから槍を取りだした。

 「……会敵。ゴーレム種、素材は砂です」

 遠目に見えた魔物をゲンガーが伝えてくれた。

 ソレを名付けるなら【サンドゴーレム】というのが妥当か。赤い光の線が無数に走った三メートルほどの砂の山だ。

 「コスモス」では初めて見る砂が素材のゴーレム。倒せばレシピが落ちるのだろうか。そんな事を思いつつ、俺はさっき取りだした槍を助走の勢いのままに投げつけた。

 「【滅槍・グングニル】!」

 全身朱色をしたシンプルな槍の先端から螺旋状に空気が渦巻き、【サンドゴーレム】の中心部分に大穴が開く。身体の大部分を失ったゴーレムは砂を巻き上げながら地面に崩れ落ちる。


  ―― 投擲残数 4→3 ――

  ―― 付与【必中】――

  ―― 付与【必殺】―― no effect!

  ―― 付与【自動回収】――

 

 視界の端に流れるログを素早く確認し、右の掌で浮かぶ白い光を掴んだ。光は槍の形に伸び、元の形と色を取り戻す。

 「【必殺】無効。やはりボス系なのか・・・」

 「仮称【サンドゴーレム】再構築しました」

 【必殺】が効けばそれで終わりだったんだんだが。そう上手くはいかないか。

 「三割削れた!?」

 「誰だあのプレイヤー!」

 誰かが体力確認のアイテムを使っていたらしい。自然と注目が俺へと集まり、魔物そっちのけで騒がしくなった。そのうち俺の事を何処かで知ったのだろうプレイヤーが現れ、俺のプレイヤーネームが言葉となって広がっていく。

 「…ランスロット」

 「勝ったも同然じゃん」

 「よーし!私もいいトコ見せないとね!」

 その後もグングニルを投げ続け、一分も掛からないうちに戦闘は終わり、バトルフィールドに居るプレイヤー全員に経験値とアイテムが配布された。

 倒された【サンドゴーレム】は身体が黒に染まり、空中に四散していく。プレイヤーの視界の中心には勝利を称える文字が浮かんでいる筈だが歓声は一切なく、仲間達と喜ぶような動きも見受けられない。まぁ、俺がほとんど一人で倒したからだが。

 「戦闘終了を確認致しました。お疲れ様です」

 「先に進みましょうか」

 俺よりも先行していたプレイヤーも居たものの、彼女等は俺に視線を寄こしたまま動こうとはしない。近づくと道を譲ってくれるので、動きが重くて動けないというのではないのだろう。

 目的地は近い。

作中用語解説

フィールドボス…都市を繋ぐ全ての道に一体ずつ存在している。戦闘参加人数の平均レベルによって強さが変動する。


武器紹介

【滅槍・グングニル】

主な構成パーツは3つ。刃、柄、石突きである。

基本的な槍の作りと変わらず、違うのは効果だけであるが、【滅槍・グングニル】と名付けている。


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