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Kingship  作者: 三化月
序章 【騎士と従者】
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7話 「夜道」

 声は震えていただろう。身体は震えていただろう。

 「ついて来てくれる?」

 情けない。こんな言葉しか出て来ないんだから。

 それでも俺の前でゲンガーは膝をつき、首を垂れた。

 「貴方が私の王、唯一のあるじ、絶対の父。この命尽きるまで、共にありますれば」

 冬の寒さが支配していた部屋に、人の形をした太陽があった。その心は忠誠を燃料に燃え上がり、俺の体温を一気に上げた。「王冠」を通してゲンガーの熱が入ってきたのか、俺が独りで盛り上がっているのか。混乱した頭では答えが出ないままに、グルグルと渦を巻いていた。

  考えは纏まらぬまま、彼女は一人で言葉を紡ぎつつけた。俺はそれを黙って見ているしかない。だって、どうすればいいのか分からないのだから。

 「私は貴方の装備品であり、剣であり、盾となりましょう。望まぬ誕生としても、置いてくださいますか?」

 ふと、シルヴァさんとの会話が頭をよぎった。あの時、女性は俺達のギルドに入れないという話しをしていたのだったか。だからこそ、この発言をした。そう考えるのが妥当だろう。

 俺だってその時のことは覚えている。だから、掛けられる言葉なんて持ち合わせていない事も分かっていた。そんなの都合が良すぎるだろ。少なくとも俺はそう思う。出来ることと言えば、黙って手を差し出す事だけ。これを取るかどうかは彼女自身が決めることだ。

 「……」

 沈黙の中、ゲンガーは首を上げ、俺を見やった。

 「まさか、私がその手を取らない筈が無いではありませんか」

 愛らしく小さな笑い声を漏らした彼女は続ける。

 「この身体全てが貴方様のモノ。それこそ、細胞の一つから髪の先までがです。御身手、ありがたくとらせて頂きます」

 うやうやしく手を取ったゲンガーに、俺は安堵した。何処かでは恐れていたのだ。この印が出ていたとしても、本当に現実がゲームになる筈が無いと、心の何処かでは思っていた。それがどうか。眼前に居るホムンクルスは膝を付き、俺の指示を聞くという。安堵しない訳が無かった。




 ベットの上には掌で金属をもてあそぶゲンガーが座って居て、その隣には俺が腰かけている。

 彼女の手に収まっている金属は、俺がインベントリから取りだしたものだ。そう、ホムンクルスを呼び出せただけでは飽き足らず、アイテムまで取りだせてしまったということになる。所持品一覧が出て来ないので、自分で把握していないといけないようだが、些細な問題だろう。アイテムが取り出せるという事は装備も着れるということになるものの、これは怖くて試すことが出来ていない。「コスモス」での性能と全く同じであれば、それこそ現実で語られるような神具にも匹敵しそうな勢いなのだ。試せる訳がなかった。

 「私が実行可能なのは金属の変成に、錬金条件に都市が関係しないモノです。私が出来るのですからランスロット様も出来るのではないでしょうか」

 「うん…」

 俺は曖昧に頷いた。「コスモス」内の都市が現実に無いのは分かっている。だけどそれが理由で微妙な態度を取っているんじゃなくて、なんというか、少しこそばゆい何かがあった。

 「なぁ、その呼び方辞めんか?…様ってのはちょっと」

 「ではなんとお呼びすればよろしいでしょうか」

 「うーん……卿はシルヴァさんだしなぁ」

 考えながら、頬を掻いて彼女とはあらぬ方向を向く。

 周囲に異性が多いとはいえ、ゲンガーの様に性欲を全く感じさせない存在は居なかったから、間合いの取り方がいまいちわかっていないのだ。

 「なんでもいいよ、そこまで気にせんし」

 「では真名をお教え頂けませんか?」

 真名って、本名と変わりないのでは?彼女の考え方は少し古い気がする。「コスモス」だとロールプレイングしてるから、そうなってしまったのだろうか。

 「……、鏡矢かがみやきょう

 「ではキョウ様と。それで構わないでしょうか」

 「結局ついてるし…、いや、今までそんな風に呼ぶ子も居たけどさ」

 他に良い呼び名も見つからず、頭を悩ませている間に時間は過ぎて行った。ベットの上で微妙な距離感を保ったままの俺達は、少しずつではあったけれど、心の隙間を埋めていくことが出来た。

 その途中で確認したのだが、「コスモス」と現実について彼女もきちんと認識していたのは驚いた。

 認識としては、現実が上位世界であり、「コスモス」が下位世界。上位世界に居る俺達 ――― プレイヤーは神によって選ばれた下位世界を救う勇者と思っているのは、公式の裏設定だとかが影響しているのだと思われる。


 シルヴァさんから連絡が入ったのは夕食を取っている途中だった。ゲンガーは【召喚】を解いてアイテム欄の中に待機中である。どうやら俺の視界を通して彼女も情報を得ているらしい。

 『ゲーム入ってないけど進展があったのかい?』

 「……あ」

 そこで俺はシルヴァさんの存在を思い出した。完全に忘れていた。

 最低限のマナーを守って急いでご飯をかきこみ、返信を書いていく。母はテレビに夢中の様だ。

 『すいません、返信が遅れました

  周りに誰も居ない、1人の時にホムンクルスの名前を呼んでみてください』

 数瞬遅れて、『絶対ですよ』と送りつける。

 彼から返事が返って来たのは、それから十分後だった。

 『電話しよう、出来れば家とかじゃなくて完全に1人の状態でだ』

 「母さん、ちょっと出てくる」

 「えっ!?もう九時で」

 「すぐ戻る」

 母は俺にこう言いたいのだ。男が一人で歩いていい時間帯じゃないと。女性に襲われても不思議じゃない。だがそれは俺が一人ならの場合での仮定に過ぎず、ゲンガーを連れていて負ける様な弱い男でもなかった。

 近所に小さな神社がある。こんな時間に誰かが寄り付くような場所でもないし、障害物も少ない。ゲンガーと合わせて見張れば死角は無くなる。秘密の話し会い持ってこいの場所だ。

 手早く上着とワイヤレスイヤホンを引っ掴み、玄関から飛び出した。


 肌に張り付くような冷気は衣服を滑り込み、確実に体温を奪っていく。上着を着こんだ俺はワイヤレスイヤホンの電源を入れ、耳にかけて神社へと走りだした。白い息が広がって四散する前に身体が二つに割く。幾つかの横断歩道を渡り、階段を登れば神社は目の前だ。

 「【召喚コール:ゲンガー】」

 「状況は分かっております、見張っておりますのでどうぞ」

 小さな休憩所に腰を下ろしてゲンガーを召喚。有能な彼女は状況が分かっているらしく、素早く俺の元を離れていった。

 『移動しました

  「escapeエスケープ」というアプリを入れているのならそちらで話しませんか?』

 『ええ

  ID:***-*****』

 『私は****-*****です』

 シルヴァさんから送られてきたIDを調べると、「城壁」という名前の人が見つかった。この人だろうか。確認のためにメッセージを送る。返事は直ぐに来て、二人の会話が始まる。

作中用語解説

escapeエスケープ・・・無料通話アプリ。

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