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Kingship  作者: 三化月
三章 【現実世界と空想世界】
63/65

60話 「0801 待ち望んだモノ」

 この日をどれでけ待ち望んだことか。はたしてこの気持ちを誰が共感できようか。8月1日木曜日の午前10時。「コスモス」の公式生放送が始まった。

 『さあ!始まりました、【The Cosmos】公式生放送ーー!』

 『いぇーい!』

 軽快な女性司会者の声に合わせてその場に居合わせる他の人達も声を上げ、序盤の盛り上がりとしては最高と言った所か。ギルド同士の対決があるのは番組の中盤で、まだ一時間と少しくらい時間が余っている。それでも時間通りに進むとは限らないから闘技場前に準備しているんだけど、画面越しに見ている生放送の様子とこちらの様子とでは全くの逆だった。

 というのも、俺達のギルドと対戦相手である【華村雨はなむらさめ】との仲が悪すぎて現場の空気も悪くなっているのだ。本当に申し訳ないとは思うものの、これは俺個人ではどうしようもないから機材の準備をしている人達には頑張ってもらい。

 「ランスロット卿、どうです、勝てそうですか」

 「シルヴァさん…大丈夫です、勝てますよ。いや、勝ちますとも。そのためにみんな頑張って来たのですから」

 「そうでしたね」

 装備の早着替えの練習をして気を落ち着かせようとしていた俺にシルヴァさんが声を掛けた。今回の戦いは5対5とこちらが指定し、相手はそれを了承した。実際問題、装備を統一でもしない限りこの人数が個人で統率でき、尚且つ最大のパフォーマンスが出来る上限人数である。そりゃあ、個人差はあるんだろうが、ギルドマスターであるシルヴァさんはこの人数が限界だ。俺は最大2人しか指示できなかったから十分多いんじゃないかな。戦いながら指示を出すのは思っている以上に難しい。

 参加する5人は俺とシルヴァさん、ニートン博士、ドナさん、グリーンライトハンドさん。バランスを考えての選出らしいけど、この中に俺が入れたのはまさに僥倖。実力で見れば俺はそんなに強くはないから、このチャンスを生かせるように頑張らないとな。

 「卿、この戦いが終わったら少しいいかな?話したい事があるんだ」

 「話したい事ですか、死亡フラグ…ではなさそうですね。分かりました。時間を作りましょう」

 「ああ、頼むよ」

 どこか寂しげな表情を浮かべるシルヴァさんに俺の中で悪い予感が走った。ゲーマーなら誰もが通る道。それは自分で体験する事もあれば、親しかった仲間に体験させられることもある。それを今は決して言葉に出すことはないけど、おそらく彼の中で考えていることと俺の中にあることは一緒だろう。

 「この試合絶対勝ってみせます」

 「全力を尽くそう」

 ギルド装備を纏ってその時を待つ。消えてなくなったAIの為にも、シルヴァさんの為にも、そして俺の為にも。




 画面から聞こえて来るのは元気のいい声。スタッフさん達も一斉に動き出し、最終チェックを進めていくのを見れば、ついに時間がやって来たのだと分かった。

 『さて、お待たせしました!皆さんもね、お待ちかねの聖戦イベント!今日はその形式を実際に戦ってもらう事で紹介していきたいと思います!今回協力してくれるのは「コスモス」でも有名なこの2大ギルド!【華村雨はなむらさめ】と【DoragonS Circle】の方々です!では画面変えて行きましょう!』

 来た。一瞬遅れてこっちの人が画面に映り、そこから俺達の姿を遠巻きに映した。【華村雨】の面々は手を振ってなんとも楽しそうだ。俺等はそんなこと全くないのだが。

 『ルールの説明の説明に映ります。開催場所は闘技場前、もしくは各ギルドハウスから飛べ、一チームの参加人数は10人まで。チームは3つまで組めます。10人に満たなくても聖戦に参加することは出来ますが、相手の人数は変わらないままというのは注意が必要ですね。聖戦の抽選は完全にランダムとのことですが、そのあたりはまた追加情報を確認していただければと思います。また、一部アイテムには使用制限が掛かります。…はい、たいへん長らくお待たせしました、それでは聖戦の方に移りましょうか。今日は5対5ですけど雰囲気だけでも分かってもらえればいいですね!』

 視界に現れたトライデントの刃にも似た、赤く光る三振りの剣。ここから専用ステージに飛べるのだろう。仲間達と顔を見合わせてアイコンを押し込めば、この身体は白い光の膜に覆われ、急な視覚移動を防ぐ。当の本人からすれば外の景色が変わったようにしか見えないんだけどな。

 「【装備変更:セット5】」

 「【装備変更:セット9】」

 「【装備変更:セット2】」

 「【装備変更:セット7】」 

 到着すると同時にそれぞれが装備切り替えを絶え間なく繰り返し、生放送などお構いなしに作戦の第一段階を進めていく。見た感じだと【華村雨】のメンバーの装備は統一されているから、ギルド礼装だと思われる。

 『おーっと!これはすごいですね!【DoragonS Cirle】!凄い勢いで装備を回しています!』

 『ギルド礼装を使う気が無いのであればこの作戦も効いてくると思いますね。今着ているの装備が何かを分かっていないと難しいんですけど、さて、彼等もそれは分かっている筈で、楽しみです!』

 司会者も言っている様に、この装備切り替えの弱点は頭が混乱して咄嗟に動けない所にある。だから戦うときには俺達もギルド礼装を着るんだけど、全員が全員固定の武器を持たずに器用貧乏スタイルで戦う予定だ。それがどう影響するのか……。

 『5!4!3!2!1!…バトルスタート!』


 ―― encounters ――


 「【装備変更:セット1】」

 この場に立つ俺含む5人の声が重なった。そして先行するのは俺だ。

 周囲を円形に配置された石材に囲まれた硬い大地を一息に飛び出し、取りだすのは何の変哲もない鉄塊。きっと俺の後ろにはドナさん、グリーンライトハンドさん、ニートン博士、シルヴァさんの順番でメンバーが並んでいる筈だった。ここからでは確認できないのが惜しいが、それも俺が信用しきれればどうという問題では無い。

 「っ―――!」

 左手を右肩に回し、自らの背を僅かに見せるように捻りながら鉄塊を鞭状に引き伸ばす。まるでそれ自体が意識を持っているかのように円を描きながら鋭く伸びる鞭は大盾を持った人に防がれてしまうけど、彼女を包み込むように回り込んだ鞭でダメージを負ったのを確認できたので1人は足止め出来たか。

 【華村雨】の構成メンバーはさっきの大盾が1人と、片手剣とバックラーを持ったのが2人、両手剣が1人…あれは特大剣だろう。そして弓を持ったのが1人。弓持ち以外は疑似タイマンに持ち込めれば勝機はある。

 鞭を止められた俺を狙ってか、大盾の代わりに前に出て来た1人から逃げるように宙を蹴って高跳びを行う。それを見た彼女はバックステップを踏んでいったん下がるものの、俺の後ろから迫っていたドナさんの攻撃の対処に困難しているようだ。

 俺めがけて飛んできた矢を寸でのところで躱し、チョロチョロとダメージを取ることはせずに動き回る。情けない話しだが、これが割り振られた俺の役目なのだ。ターゲットを引くと言われれば聞こえはいいけど、実際、こんなに惨めで物足りない試合も無いだろう。

 3人居る盾持ちを鞭の巻き込みでその場に縫い留めていくギルドメンバーを眺めながら、弓持ちの面倒を見る。弓持ちも真上に矢をつがえれば隙だらけだから攻めあぐねていて、俺は真上に来た時に毒液なり重たい石でも落としてやれば仕事は終わり。それでも退屈だなんてことは一切思わない。味方全体の勝利目指して個を殺す。それが分かっているから無理もしないし無茶もしない。落ち着いて動けが必ず勝てるという根拠のない自信だけが俺を突き動かしていた。

 『装備を見た感じ【華村雨】は空中機動を狩る想定をしていたんでしょうね、対するドラゴンは薙ぎ払いによる役割破壊を重視して味方も巻き込む勢いです。聖戦の仕様としてやはりフィールドでの対人戦闘とは違いますから、味方からのダメージは抑えられてるんですけど、それを上手く使ってる印象を受けますね』

 中盤にもなると特大剣の人がワンチャンス狙いで場を荒らそうとしていたが、それにしては俺達ギルドメンバーの密度が高くて邪魔が入っているらしい。特大剣は闇討ち武器だからこの場は難しいんだろうな、ターゲットを引く筈だった盾は鞭が巻き付いてロクに動けないし、後ろからの援護も期待できない。厄介な面攻撃に対して何も対処法を用意していなかった、咄嗟に対処出来なかったのが彼女等の今回の敗因だった。

 『勝負あり!【華村雨】を見事打ち破った【DoragonS Circle】にはゲーム内通貨とガチャチケットが送られます。今回負けてしまった【華村雨】の皆様にも参加賞が送られますので気を落とさずにお待ちください。えーでは、続きまして…』

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