44話 「真実はいつも」
「勿論、キョウ君の幸せは最大限考慮します。皆が皆平等に幸せ、とはいかないけど、意見は尊重するよ?」
「ほら、東雲もああ言ってくれてるしミクも心配すんなって」
「・・・うん」
月さんの言葉に便乗し、ミクを励ます様に肩に手を掛ける。
ササクラから「力について言ってしまえ」という視線が向けられるけど、俺は彼女を睨んで無理矢理視線を切らした。悪いけど、俺から話すつもりは全くない。ミクにでも聞かれたなら答えないでもないけど、彼女は聞いてこないという自信がある。互いに付き合いはだいぶ長いし、簡単な癖なら分かりあえる程度には会話も交わした。だからこそ言える、ミクはあんまり俺に踏み込んでこない。
「俺の幸せは俺が決めるもんやからさ、・・・ミクなら分かるやろ?俺の好きな事、嫌いな事、幸せを感じる瞬間とかさ。何もないとか、そんなん言うなよ・・・」
「うん・・・、ごめんね。心配かけて」
どうにか笑みを浮かべてくれた彼女は、俺が知っているいつもの彼女だ。泣いたせいか目が充血してるしちょっと目元が黒く滲んでいるけど、それでも、彼女は変わらない。
ミクが化粧直しにトイレに立った間に一息つく。
冷えた麦茶を飲んでいたのだが月さんから質問があるらしく、俺の名前が呼ばれた。
「ミクさんとはいつからの付き合い?」
ガラスのコップに口をつけたまま目線だけを上げ、そう聞いて来た彼女の表情を探ってみるけど、特に変な感じはしない。ただの質問だろうか。
「中学校からやけど?」
「ふーん、凄い仲いいよね」
「まぁ、他の子と比べたら仲はいいかな・・・」
そこでもう一度麦茶を口に含む。外から見たらそんな風に見えるのかもしれないけど、俺としては相手によって対応を変えているつもりはそんなに無い。ミクが一番話しかけて来る数が多いから、結果的に仲がよく見えるのかな?
「それで、さっきの意味わかった?」
「あの正妻がどうこうってのなら分かったけど、まだ早いだろ。高一やんか」
「事情がちょっとね」
月さんが言葉を切るのに合わせてササクラが手紙を取りだす。いや、今どこから出したよ。さっきまで持って無かったと思うんだが。
滑らかな手触りの手紙を怪しみながらも受け取り、インベントリから金属を取りだしてナイフ状に形を整えながら内容を尋ねてみるも彼女が答えることは無い。ひとまずは読んでみろ、ということらしい。
―― 東雲家時期当主 東雲 満姫――
―― 16歳の誕生日パーティーのご案内 ――
なるほど、誕生日会ね。日時は5月9日の19時から。
「お嬢様が正妻ではないとは言え、体外的なアピールをしなければその意味がありません。そのためにはミクさんも来てもらわないと困るので ――」
「説得ね、分かったよ」
「彼女には月曜日に招待状を渡しておきます」
「どうして月曜なん?別に今でもいいんちゃうん」
俺の言葉にササクラは目を瞑り、力強い言葉で返事を返す。
「今の状況分かってます?彼氏ならそれくらい気付いたらどうですか?」
「あぁ・・・、そうやな。ちょっと急すぎるか」
怒られてしまったが、確かに今のは俺が悪いだろう。流石に能天気すぎたか。俺の方も慣れない場所でちょっと考えが鈍ってるのかもしれない。
・・・細かい所は分からないけど、もう少しミクのことを考えないといけないな。変わるには何もかもがいい機会だ。
切っ掛けはシオンがくれた。
勇気はミクがくれた。
そして、場所は月さんが用意してくれる。
でも、いざ変ろうと思った時、長い間着こんだ鎧は思いのほか重く、俺の肩に食い込んでいた。
□
キョウとミクが帰宅した後も、東雲、ササクラの話しは続く。「コスモス」のアイテムで盗聴、盗撮の心配は事前に排除してあるにもかかわらず、2人にしては大きい部屋に拡がる声は静かなモノだった。
「矛盾していましたね」
「はい。キョウ君とササクラさんが出会ったのは小学校の頃だと言うのは裏が取れています」
「ですよねー・・・どういう意味なのか」
ササクラさんがキョウの取り巻きに聞いた話しでは彼とミクとは同じ小学校出身であり、面識は少なからずある筈だが、今日の話しでは中学からの付き合いだと言う。持っている情報と食い違うことに疑問を覚えるが、それを確認しようにもキョウの周囲に居る人物は誰1人として当時の事を話そうとはしなかった。
「それに皆、キョウ君の小学校時代を話そうとしませんし、話しが始まるのは決まって中学2年生から・・・、何か不都合なことでもあったとしか思えません」
「中学2年生、ねぇ。何も無かったと思うんだけど」
「1年と少し前・・・・・・、あ!」
と、ここでササクラが何かを思い出した声を上げた。余りの大声に東雲は驚いて小さく飛び上がり、それを見たササクラが慌てて謝罪を入れる。
「な、なに・・・びっくりした」
「も、申し訳ありません!それよりもですね、その位の時期に「コスモス」が発売されたんです!」
まさかの回答に唖然とする東雲だが、彼女がその言葉を簡単に笑い飛ばすことは無かった。力を知ってるのだ。どうして聞き入れないという事が出来るのか。
「コスモス」の発売。ササクラが感じたキョウの違和感。ロールプレイング。ドナの「キャラを被っていなくていいのか」という言葉。
彼女達の中でバラバラだったパズルは完成へと導かれ、ついに残るピースはあと1つ。疑いを確信に変えるための、一手を打つだけだ。




