42話 「0409―3 恒星」
今晩もササクラに連れられて東雲さんがギルマスのギルドハウスにやって来た。ドナさんは今頃ウチのギルドの会議に出席しているんだろう。事情を知っている彼が俺の不参加を上手く取り繕ってくれている筈だが、さっきからギルドチャットに更新されるのは煽りコメントばかり。ドナさーん、どういうことですかー?
と、不毛なコメント合戦をしている間に目的の場所へ着いた。俺の様子をチラチラと見ていたササクラが心なしか冷たい目をしている気がするが、きっと気のせいに違いない。
「昨日も思ったのですがベルさんはご同行頂けないので?」
「私も仕事ですからねぇー、仕方ないのですよ」
「畏まりました。行きたくないのですね」
「まさか。そんなこと言って無いじゃないですか」
彼女の声と一緒に金属が叩かれた固い音が響く。まぁ、叩かれたのは俺の鎧だろう。鎧を素手で殴るからゴリラなんて呼ばれるんじゃないだろうか。ヘコんでないかを気にする俺を余所にササクラが扉を開き、早くいってくださいとばかりに手を振る。
俺も開いた扉の前でササクラと睨めっこしてても仕方ないので彼女から目線を切り、早々に足を踏みだした。
「こんばんわ。いい夜 ―― と言うにはここは天気がいいようですが」
「今はそういう設定ですから」
丸谷腰かけた月さんと挨拶を交わし、掌を天井に向かって上を見上げる彼女の対面へと歩いて行く。
「コスモス」のゲーム時間は結構適当で、イベントとかで出現条件が決まっている敵が現れた時は一日晴れていることもあるし、クリスマスなんかは一日中夜だ。普段は4倍のスピードで時間が進んでいる。それも日によって割合が変わったりするんだが。
「・・・今日は何のお話しでしょうか」
「その事ですが、昨日は申し訳ありませんでした」
急な謝罪に疑問符を頭に浮かべる俺を余所に彼女は続けた。
「朝の一件で分かったのですが・・・、昨日は私ばかりが質問してばかりじゃなかったですか?眼鏡さんからやられて私もそうじゃないかと思ってしまって」
「そうでしたか。ええ、まぁ私以外には気を付けた方が良いかもしれませんね」
「気を付けるとは言ってもどうしたらいいんですか?」
「そうですね、ではこうしましょう」
俺はここで少し間を開け、彼女の方に右手を差し出す。月さんの目が右手に行くのを確認してから口を開くけど、これに意味合いなんてない。ただ単にキャラ付けだ。
これで彼女からの覚えが良くなればもう最高で、今日みたいに変な助け方ではなく、ちゃんと意思疎通が出来ている状態で助けてもらいたいという思いもある。東雲家がバックにつけば自然とホムンクルス所持者の印持ちのササクラもこちら側に来るし、シルヴァさんも勝手に組み込めばそれだけで不測の事態にも対応できる布陣が出来上がる。
そのために、今苦労しておくのは悪くない。
「私が月さんをサポートします。ベルさんと私が居ればそれなりに対応も出来る筈です」
「それは嬉しいですけど・・・、私からも1ついいですか?」
「ええ、もちろんですよ」
軽く頷いてしまった俺に、月さんは重々しく言葉を紡いだ。そして、その言葉は俺の口を堅く閉ざす事になる。
「その力を私の為に使ってくれますか?」
唐突だけど、彼女が言う力と言うのは「コスモス」の力だろうか。ササクラの主人でもあり、ドナさんの雇い主であれば知っていてもおかしくはないが・・・。ドナさんには最初に力の事を相談しているし、ササクラに至っては交戦までしているのだ。
俺達の間に沈黙が流れるが、互いに纏う空気は全くの別物だった。
「・・・畏まりました」
俺の返事は了承。頷いたことに月さんは満足げな顔をしているものの、俺はそれに条件を付けていく。
「戦闘する時は私の意思を尊重すること。力を使う意味を偽らずに教えること。月さんが出来る限りの支援を私が得られること ――」
「それだけですか?」
咄嗟に思いつく限りの条件を言ってみたけど、所詮は咄嗟に出て来ただけの言葉だ。そんなものが続くわけがなく、声が途切れた所で月さんから優しい声が届く。同い年の筈なのにどこか姉の様に感じてしまったのが恥ずかしなってもう一言追加してしまう。けどこの言葉が俺から出てきてくれたのことを嬉しく思う。
「互いの日常を出来る限り護ること・・・―― これで今思いつく限りは言えたと思います」
自分の日常を護る。思い出したかのように出た言葉は、思ったよりもすんなりと俺の胸の中に落ちていった。
「分かりました」
彼女の方も快く頷いてくれた。これで一応の関係は結んだ。
あぁ、緊張したー。ボス戦に匹敵するんじゃないか?ボスも最近苦戦する事も無くなったから本当に久しぶりだ。ボスも上方補正が入ってたりするんだけど、どうしてもレベルによる攻撃値補正の方が高かったりするからあんまり意味はない。
「そういえば、月さんのレベルは幾らなのでしょうか」
「ベルは最大だと言っていましたが」
「最大ですか・・・、ちなみにホムンクルスは」
「持っていますよ?会社の方に付けてもらいました」
封入特典みたいなものだろうか。会社からっていうのに大人の闇を感じないでもないけど、東雲家が出資でもしたのかな?レベルはちゃんと上げたのは知ってるからいいとして、シルヴァさんが必死に探したホムンクルスを簡単に手に入れたのにはいい感触を覚えない。
「・・・では今日はもう遅いので終わりにしましょうか」
「もうそんな時間ですか」
月さんの言葉に現実の時間を確認してみれば時刻は既に12時を超えている。俺としてはもう少し活動出来るけど、今からギルド会議に出るのは嫌なので俺も落ちる頃合いだろう。
「それと、私の傍に立つのですから教養は持っていてくださいね」
「寝てるの分かりますか?」
「隣の席なんですから分かりますとも」
得意げに笑う彼女だが、「私の隣に立つ」に修羅場の空気を読み取った俺は「修羅場センサー」なるものが芽生え始めているのかもしれない。もし勘違いではなく月さんが俺をパートナーとして意識しているというのなら、ミクや周りの人を説得させておかないと後々酷いことになるのは目に見えている。
まぁ東雲家が男を用意できないなんてことは無いと思うから、数ある選択肢の1つなんだろうけどさ。




