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Kingship  作者: 三化月
一章 【the cosmos ver.11.0】
21/65

20話 「レベル91の勇者」

「徳島城」で検索すると分かりやすいかもしれないです。私がもう少し説明出来ればいいのですが。

 自転車を走らせて30分程。大きな公園に到着した。ここは城跡が公園になっていて、大層な名前の割にはだだっ広い敷地があるだけの場所なのだが、こういう時には役に立つ。

 橙の光に照らされた城門跡を道路に沿ってに右に進んでいけば、堀の中から光が浮かんでいるようにも見える。時間的にはもう完全に夜だ。堀に掛けられた木製の橋を渡ると、杯を持った少女の像が出迎えてくれた。

 少女の左右には上へ続く階段と、西洋の庭園を思わせるアーチがある。この公園の別名は「バラ園」。季節が合えばそれは綺麗な景色を見ることが出来るのだ。週末は大体の確率で撮影しているコスプレイヤーが一組は見れるという謎のスポットでもあった。

 階段を上ると正方形の石畳が敷かれた広場になっているのだが、こんな時間にも関わらず何人か人が集まっている。耳に聞こえてくるのはアニメの曲だろうか。夜になれた目には、曲に合わせて踊る人影が写り込んだ。こんな寒いのに熱心なことだ。

 彼女等の横を抜け、バラの植え込みに挟まれたスロープを降りていく。分厚い雲に覆われた空から月光は漏れ出ず、数メートルをちゃんと見渡すのがやっと。

 目的の場所までもう少し。スロープを抜けた正面にある大きな池から少し歩くと、東二の丸へと登れる山道があるのだ。東とあるように西にも二の丸もあるけど、西の方はだいぶ開けているので今回の目的には適していない。だからこそ、独立するかのように小山の上にある東二の丸を選んだんだ。


 春になると桜を酒のさかなに花見をするために大勢の人が集まるこの場所も、冬になると人っ子一人として居ない。俺みたいな物好き以外は。

 「【召喚コール:ゲンガー】」

 夜だと眩しすぎるな。そんな感想を心に浮かべながら、彼女が現れるのを待つ。その間に俺は二振りの剣をそれぞれの手に取りだし、「コスモス」で感じる感触との違いを確認していく。腕を目の高さまで持ち上げてみたり、何となしに歩いてみたり。緊張と興奮が入り混じって身体が固くなるような、そんな感じだ。

 「周囲警戒でございましょうか」

 召喚されたゲンガーが開口一番にこう言った。いつも周囲警戒させてばかりだけど、今回は少し違う。俺は剣を軽く振り、少し遅れて答えた。

 「・・・いや、今日は俺の相手して。確認始めるから」

 「装備はどういたしましょう」

 「装備セット5番で」

 「畏まりました。【装備変更:セット5】」

 俺が今持っている剣はカトラスという種類に当たるモノで、三日月を横に半分切り取ったみたいな形をしている。双剣をテーマに作ったはいいものの、システム的に別々の剣になってしまった悲しい過去を持つ。双剣は間接的にでも何処かが繋がって無いと駄目らしい。

 対して、彼女が着こんだ装備セットの別名は「ガン盾騎士」。名前の通り、盾による防御専用の装備セットである。攻めを視野に置いて戦闘するとアイテムを使って腕を増やし、4本腕でジワジワと叩き殺していくのだが。

 細身の人間が少しはみ出る程度の縦に長いタワーシールドを両手に持ち、頑張れば殴りに行けるように気持ち軽くしてある赤い騎士服を身に纏ったゲンガーが準備を完了させた。

  服の上から着こむ感じで浮き出るのか、と、それを見ていた俺も装備を整えていく。どれもが初心者の時に助けてもらった懐かしい装備品達だ。とはいっても、そのどれもが現実で持っていても怪しまれないようにアクセサリーになっている。

 簡単に装備の効果を言っていくと、【気配察知】、【体重倍加】、【跳躍力倍加】の3つ。

 誰か来た時の為に【気配察知】。

 レベルが上がるごとに速くなっていく走行速度、伸びていく歩幅調整に慣れるための【体重倍加】。

 増えた体重で移動が鈍くなるのを防ぎ、咄嗟の攻撃や回避などに使える【跳躍力倍加】。

 これにさえ慣れてしまえばどこに行っても最低限は戦えるというのが攻略サイトの見解である。勿論、本来のキャラクター性能で戦えるのが一番強いものの、本気を出せば一足に10メートルも飛んでしまうのをどうやって制御しろと言うのか。それでは槍持って特攻が一番強くなってしまう。まぁ、槍特攻は面白くないから殆んど使われないのが唯一の救いだろう。


 さて、少しずれてしまったが本題に移ることにする。「コスモス」と違うこの普通の肉体でどこまで出来るのか。限界を知るのが目的じゃないから、そこそこ動ければそれで構わない。

 「取り敢えず防御だけしよって。適当に殴るから」

 無言で盾を構えるゲンガーを視界の中心に捉え、右半身を下げて二振りの剣を二の字に構える。互いの距離は目算で5メートル程度。今の服装で跳躍した場合の飛距離を考えながら、彼女の横を狙って一息に地を蹴った。

 「―――!」

 一瞬で流れていく黒い風景。空気の抵抗をモロに受けて揺れる剣、その数瞬後に何かにぶつかる感触。あらぬ方向へと流された双剣に引っ張られる腕に身体が持って行かれ、結果。

 俺は無様に地面へと転がり込んでしまった。転がっていた道中に持っていた剣の刃が自分の右の肩口を切っていたようで、ゲームでは感じられなかった痛みが伝わって来た。

 「キョウ様!」

 駆け寄ってくる彼女を涙で滲んだ視界に映しながら、無意識に剣を手放して左手を傷口へと運ぶ。遅れてやって来た目が見たのは、赤くて少し粘着性のある液体 ―― ではなく、「コスモス」の出血エフェクトである赤い粒子だった。


 その一瞬、痛みを忘れた。


 ・・・・・・なんだこれ。

 人間じゃねぇじゃんか。

 よくよく冷静になった頭で考えてみれば、ソコに痛みは存在していなかった。


 「後生ですからじっとしていて下さいね!!」

 いつの間にか近くに来ていたゲンガーの手には、黄金に輝く液体が入った試験官が1つ。あれは俺も良く知っている。体力を回復するアイテムだ。

 ガラスの縁から垂れる液体が傷口に触れると回復が始まり、空中から白い光の玉が俺の中へと入っていく。唇を横に伸ばした俺は、ただされるがままに状況を窺う事しか出来ない。





 地面にあぐらをかいて座る俺と、その横で両膝をついて座る彼女。薄っすらと光を反射している双剣モドキは、寂しく寒空の下に置かれれていた。

 「もう、やめようか」

 俺の口から言葉が漏れる。

 痛みは感じず、血も出ない。そのおかげでこうして冷えた頭で座ってられるのだが、それが逆に恐怖心を煽っているかのようにも思える。少なくとも、暗がりで慣れない剣を振るうものではない。

 「逃げるのですか」

 またこの言葉だ。シオンから逃げた時にも掛けられた言葉だ。

 少しの間だが感じた刃物の感触というのはまだ俺の中で生きていて、冷たい金属の温度が体内に入ってきたみたいに感じられてしまう。これをもっと簡単に言葉にするとしたら、・・・恐怖?いや、何か違う気がする。

 「逃げる・・・どうだろ」

 ゆっくりと、星の無い夜空を見上げた。

 一体何から逃げるんだろう。俺は何と戦っているのか、そんなの俺だって分かる訳が無い。でも、きっと彼女の中にはその答えがあって、だから俺に問いかけているに違いない。

 少し前の勢いは何処へやら、心が冷めてしまった俺は静かに呟きを返す。

 「逃げるって、何から?自分?」

 じれったくなってつい質問をしてしまった。自分で考えろ、だとかそんな返答が返ってくるのが物語の常だけど、現実で今みたいに聞くと、十中八九答えを返してくれる。彼女も例外じゃない。

 「夢からです」

 ありきたりな答えだった。俺は空からゲンガーに視線を移し、しばらく考えてみる。果たして自分に夢なんてあったのだろうか、と。

 小学生の頃は、漠然と外の世界が見てみたいと思っていた。けどそれは中学生2年生の時、「コスモス」に出合った事で叶った。家から出なくても友達と会えるし、女性に襲われる事も無い。見たこと無い景色に歓声を上げて、仲間達と高め合った。

 今は? 外の世界を見たいとは思ってはいるけど、それは小学生が抱いた夢を借りているに過ぎない。

 夢、か。やりたい事はいっぱいある。一人暮らしとかしてみたい。現実で友達が欲しい。俺の中身を見てくれる女性と結婚したい。考えれば考えるほどに溢れて来る理想は、無限大に拡がっていく。

 「夢なんて持ってても叶うわけがない」

 だが叶わない。それは、俺が男だから。

 「そうでしょうか」

 けどゲンガーはそう遮って続けた。

 「賢者様と話していたでは御座いませんか。『女性に、世界に認めてもらいたい』と。勝鬨かちどきを上げたではありませんか。『男でも女性に勝てる』と」

 彼女は立ち上がって双剣を拾いあげ、まだ座っている俺に剣の柄を伸ばす。

 「・・・・・・それは夢ではないのでしょうか。もしそれが夢では無いと言われるのなら、キョウ様は何のために今まで戦ってきたのですか?惰性ですか?意地ですか?執念ですか?何のためにココに来たのですか?」

 話している内に早口になっていくゲンガーは、自分が戦う理由を俺より分かっていた。俺自身が気付いて居なかっただけで、傍から見たら丸分かりだったのかもしれない。


 俺は最初に「コスモス」という世界を見た。広くて綺麗で、何よりも楽しかった。次第に一番になりたいと思うようになって、努力を始めた。攻略サイトを見て、魔物の動きを頭に入れて、何万回と戦闘をこなした。

 そうしてつい先日。俺はボスの単騎撃破で、確かにその瞬間一番の位置に立った。その時に思ったのは何だったのか。

 女に勝てた事が嬉しかった。これは真意だ。でも、最初に出た言葉は――


 「帰らないとな・・・、皆待ってる」


 ――あぁ、そうだ。俺の夢はこうだった。

 「仲間と一緒に世界に爪痕を残す」

 俺の夢は独りの夢じゃ無かった。隣にはシルヴァさんが居て。ニートン博士が居て。ドナさんが居て。もっと多くの仲間達が居るんだ。

 一瞬でも構わない。場所は選ばない。俺達が生きてた証拠を誰かに示す。それが俺の夢だ。

 答えを待っていたゲンガーは大きく頷き、後押しをしてくれる。

 「世界に爪痕を残す人がどうして座ってられるんですか?こんな簡単に物事を諦めてしまえるのですか?」

 簡単な挑発で、それは俺でも直ぐに分かった。立ち上がらせるために誘導させられたような気もするが、些細な問題は気にもしない。

 「逃げてない」

 「それが聞ければ私からは何もありません」

 口の端が吊り上がるのを感じ、彼女の手から双剣を奪い去った。


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