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25 やはりこの世界はテンプレで出来ている

 



「うわー! おっきいおふねだー!」


「うん、うん。大きいな」


 オッサン一行はオランダならぬダレンダを十日余りかけて横断してきた。その間は観光らしきことをしたものの、風車とチューリップもどきの薬草畑ぐらいしか見所はなかった。

 神サマチートで旅程をスキップするのは簡単だが、なんだか負けた気がするので敢えて徒歩を選択したのだ。

 理由は他にもある。というより急ぐ理由がなかったともいえる。

 緊急事態だったジャマーン帝国の不当奴隷解放が一段落したものの、フランシスカ王国をはじめとした亜人に寛容な国々の元奴隷受け入れの準備が今だ整っていないからである。


 無論ただ漠然と歩いていたわけではない。

 神サマズはマルチタスクで難民キャンプである国境街を監視していたし、本来の目的である『人間』の生活を観察していた。

 オッサン? オッサンは愛娘であるセーラのお世話だ。それ以上に重要なことなどあるわけがない(キリッ)。


 そんなこんなでダレンダの西端、港町に到着したのだ。

 スーパーケータイの機能で事前に確認していたものの、到着のタイミングで見栄えのする大型帆船が停泊していたのはありがたかった。おかげでセーラは大喜びである。


「タケシよ、洗脳の魔道具は書き換えたぞ」


 オッサンが愛娘のはしゃぐ様子を愛でていると無粋にも創造神の爺さんが邪魔してきた。

 が、オッサンも大人であるからしてキチンと対応してやろうではないか。


「おう。さすが神サマだな。仕事が早い。違法な奴隷の解放も頼むな」


「うむ。わかっておる。やるからには徹底的に、じゃな」


 フランシスカ王国の友好国だというダレンダ王国。

 オタクの妄想から生まれた世界だからなのか、奴隷制度はフツーに存在している。犯罪者の奴隷化や借金奴隷については時代的にいって経済的、合理的だと評価してかまわないだろう。オッサンの個人的なヒューマニズムで制度そのものを引っ繰り返すべきではない。

 数日間だけだがダレンダ王国の奴隷の状態を観察したところ、薬草の栽培が主産業のようで、ほとんどが農奴とよばれる立場だったが、ジャマーン帝国のような非人道的扱いは受けていないようだったのでなおさらである。


 しかし神サマズの調査によると、この国にもバルハラ教国の魔の手が伸びていたようで各地の教会にジャマーン帝国と同じ洗脳装置が設置されているという。

 幸いなのは設置された時期が最近だったため洗脳効果がほとんど現れていないという点だろう。この国はバルハラ教国とは海を挟んでの隣国ではあるが、亜人国家ユーグラシ連合国とは距離があるため亜人排斥工作が後回しにされたと推測できる。

 それでも悪徳奴隷商はどこにでもいるようで、利益率の高い違法奴隷をわざわざジャマーン帝国から輸入しているところもあった。


 創造神の爺さんをはじめ、神サマズは『人間』の愚かさに呆れるやら憤慨するやらだったが、同時に神であるのにオッサンに指摘されるまで現状を把握していなかったことを情けなく感じたようだ。


 オッサンは『設定』だから仕方がないと慰めたが、管理神であるシュレの存在を確認してから真の自我に目覚めたと何やら使命感に燃えているようだ。

 神が直接人間社会に関わるべきではないとは自覚しているようだが、少なくとも『神』の名を勝手に使われた今回の一件についてはキッチリとけじめをつけて、人間と神の関係をリセットしたいとのことだ。


「パパ、あのおふねにのるの?」


 爺さんと小難しい話をしていると天使が期待した目で話しかけてくる。


「ああ、そうだぞ。この街を観光してからだけどな」


「えー? はやくのりたい!」


「そうか、そうか。じゃあ、船の人に頼んでみるか」


「わーい! パパだいすき!」


 あっさりと予定を変更するオッサン。

 当然だ。観光などいつでもできる。そんなことより我が天使のご機嫌の方が大事なのだ。徒歩旅行に長いことつき合わせてしまっていることもあるしな。


「セーラちゃんは可愛いのう。ワシも『おじいちゃん大好き』といってもらいたいものじゃ」


 ミニ形態のワンコーズと一緒に船に向かって走っていくセーラを眺めながらしみじみと呟く創造神の爺さん。

 オッサンは『娘はやらん!』とボケたいところだが、ぐっと堪えた。

 なぜなら、爺さんは『設定』によって作られた神サマであり、『人間』のような『子育て』の記憶はないからだ。

 考えてみれば、生まれつき『爺さん』というシチュエーションは凡人であるオッサンには想像もつかない苦行だ。慰めの言葉も出ない。


 オッサンは爺さんの呟きが聞こえなかったフリをして愛娘の後を追いかけることしかできなかった。


「セーラ。人がたくさんいるところで走っちゃダメだぞ?」


「はーい。ごめんなさい、パパ」


「うん。ごめんなさいができて偉いぞ」


「えへへへ」


 ごめんよ、パパはセーラをダシにして爺さんから逃げてきたんだよ。


 ま、凡人では解決できない問題はシュレにでも任せて、オッサンは船旅の支度だ。

 船の近くで働いている人間に聞いてみよう。


「あー、すまないが、バルハラ教国に行きたいんだが、手続きはどこですればいいか教えてくれないか?」


「ギルドで聞きな。アンタ、ついてるぜ。今なら客も少ないからすぐに乗れると思うぜ?」


「ほう? 客が少ないとは?」


「最近海賊の被害が増えてな。尻込みするヤツも増えちまった。こっちは商売上がったりだ」


「海賊……そりゃツイてるな……」


 荷運びの監督をしていた男に聞いてみると、海賊などというワードが飛び出した。ファンタジーとも現実的とも何とも評価がしづらい。


 といってもチートな神サマ御一行のこと。身の安全は保障されているも同然なので船旅は決行することに。

 詳しくギルドとやらの場所を聞き、手続きに向かう。

 ギルドと言っても冒険者ギルドではなく、これまた定番の商業ギルドであったが。


「なあ、海賊が出ても大丈夫だよな?」


 大人5名、子供1名、ペット2匹で午後の便を予約できた。

 大人の人数に注目。ちなみにチビ妖精は数に含まない。密航だ。

 そう、同行者が増えた。


「ガッハッハ。海賊など海の藻屑にしてくれるわ!」


「お手柔らかにな……」


 増えたのは『海神』ポードン。

 神サマ会議で会ったきりだったが、オッサン一行が船旅をするというのを聞きつけて急遽合流してきた。会議のときは見た目にも神サマっぽく白いトーガ? を片脱ぎにした如何にもな装いだったのだが、今は上半身裸に直接革のベスト鎧を着込み牛のような角のついた兜を被ったザ・バイキングのコスプレである。

 もう、お前が海賊だろ!


 オッサンはツッコミはせず出航時間までミニ観光を堪能した。

 コスプレ巨漢も背景だと思えば不思議と異国情緒にマッチする。港町ということで海鮮料理も楽しめた。セーラも初めての料理に興味が尽きないようだ。

 今度はこの世界の『日本』に行こう。


 そんな予定を立てていると出航の時間がやってくる。

 オッサン一行は予約した大型帆船に乗り込んだ。


「わーい!」


 甲板を駆け回る天使とモフモフ2匹。

 それが功を奏したのか、海賊にしかみえない海神サマへの周囲の視線も柔らかくなった。用心棒だとわかってくれたようだ。


 船はスルスルと走り出す。

 聞いたところ風の魔法で高速運行するので夕方にはバルハラ教国に到着するそうだ。異世界スゲー。


 全員が船旅初体験。船室も予約してあるのだが天気もいいことだしセーラにつきあって甲板で海の景色を楽しんでいる。


 海岸が遠くなってしばらくすると船内がざわつき始めた。


「海賊が出たぞーっ!」


 うん。想定内だ。



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