22 オッサン、大森林に行く前にちょっと勉強する
ブクマありがとうございます。
来週からしばらく夏休みになります。
再開時にはまたよろしくお願いします。
今日は城塞都市・アインで一泊する予定である。普通の旅人らしさを味わいたいというのがメインだが、情報収集と食料調達も忘れてはいけない。
情報に関してはオッサンがその方面のシロウトなので量も質も役に立っているとは言い難いが、この世界で生きていくためには必須項目だろう。今は形だけだが追々慣れていけ
ばいい。本気を出せば一瞬で世界中の情報を集められるコネもあることだしな。
形ばかりの情報収集と買い食いから戻ってきて、ワンコたちと戯れた後は、お眠のセーラはお昼寝の時間だ。
オッサンと創造神の爺さんはその天使のような寝顔を眺めながら話を詰める。
「大森林か、どんな所なんだ? この世界じゃ魔物がウヨウヨしてそうなんだけど、そんなところで暮らしていけるのか?」
「確かに魔物は多いじゃろうが、それだけ食料が豊富とも言えるでの。集落に結界を張っておれば滅多なことはないしの」
「結界か……あれ? エルフって魔物食べるのか?」
「食べるが……それがどうかしたかの?」
「いやいや、何でもない。ちょっとした勘違いだ。ついでだから確認しとくが、エルフって長生きなんだよな? 平均寿命ってわかるか? あ、できればコッチの主な種族につ
いても頼む」
異世界転移補正なのか、元からの性格なのか、最近はこちらの世界にも大分慣れてきた気がする。習慣とかじゃなくて異世界が存在しているという事実についてだ。自然に受け
入れている自分にビックリだ。というか、実際に驚くべき事態なんだよね。
驚き疲れてしまったとでも言うべきだろうか。ツッコミを入れるのが面倒になっただけかもしれない。
ここしばらくシュレが絡んでこないせいもあるが、何よりこの世界で起こることは確かに地球の物理法則に反しているが決して未知の事象ではない。どこかで見聞きしているこ
とばかりなのだ。何か起こる度に『あー、知ってる知ってる』と親近感が沸き起こるのである。
ただ、知っているとはいっても、それは後出しジャンケンのようなもので、やはり必要なのは正確な情報だろう。不用意な先入観はトラブルの元である。
「む? 何を今更……そういえば異世界人であったか。管理神様からは聞いておらんのか?」
「ウチの神サマは超放任主義なんだよ。聞けば教えてくれるだろうケド、まだ何を聞いたらいいかわからん状態なんだ。これからもちょいちょい基本的なことを聞くかもしれな
いが、まあ、よろしく」
「まあ、ワシは構わぬが……ふむ、寿命についてじゃったな。件のエルフ族は500年。成長速度は他の種族と同じじゃが、20歳ほどで成長が止まり寿命間近になると老化が
始まるのじゃ」
ふんふん、やっぱりどこかで聞いたことがある。ただ、もし違う説明を聞いたとしてもやはり同じ感想を持ったことだろう。
「他の種族じゃが、同じ妖精族に属する『ドワーフ族』と『白翼族』、『黒翼族』が次いで長寿じゃな。300年ほど生きる」
「ドワーフは聞いたことあるが、その『白翼族』と『黒翼族』ってのは? 天使と堕天使みたいなのか?」
「おお、その方がわかりやすかったかの。如何にも。『白翼族』は我が眷属じゃ。皆神の国に住んでおる。ほれ、お主がやってきたあの土地じゃよ」
ほ~。そんなのが住んでたんだ。マジ天使か。見てみたいな。あれ? イズミちゃんの門番、あれは人形だったから違うよね。バラバラになっちゃったけど違うよね。怖いな。
確認は後にしよう。
「『黒翼族』も爺さんたちの眷属ってヤツ?」
「いや、お主にわかりやすく言うと、『魔族』の一部じゃな」
「へ? 魔族? そうなの? 魔族って妖精族だったの? 一部って?」
「うむ。何故か……いや、今はわかる。『設定』のせいじゃろ? 長い時間の果てにそう呼ばれるようになったのじゃ。一応『魔法の神』の眷属なのじゃが……他にもあの大陸
に住む黒エルフも『魔族』と呼ばれておる」
黒エルフ! ダークエルフキター! おいおい、闇落ちとかっていうパターンじゃないだろうな。
「……魔神サマって、いいヒトなんだよな? 隠れて下克上するようなヒトじゃないよな?」
「ありえんな。イズミのように暴走する可能性はワシも含めてないことはないじゃろうが、あれはイズミが真面目すぎる性格じゃったためであろうし、仮に何かを企もうとして
も、管理神様にお会いした後では逆らう気も起きんじゃろうて」
オッサンは今一実感できないが、シュレの存在は神サマ社会ではかなりのモノらしい。そういや会った瞬間神サマズが土下座していたからな。名前だけで『魔神』サマを警戒す
るのも失礼だし、『邪神』は生まれる前にシュレが手を打ってセーラという天使にクラスチェンジしたしで、この世界、神サマ関連ではもう凶悪な事件は起きないだろう。まず
は一安心だ。
「わかった。ちょっと『地球』のイメージで不安になっただけだ。それより、魔族も妖精族だってことは『人間』なんだよな。なんで戦争なんかしてんだか……同じ『人間』同
士だってわかっててやってるのかね? あれ? 魔物と人間の違いって何だ? 普通の動物だっているんだろ?」
「その辺はワシにもわからなくなった。今となっては『そういう風に創ってしまった』としか言えんの。一応魔物と呼ばれるものどもは『魔素』より生じて、体内に『魔石』を
持っておることになっているの」
「ドラゴンとか、ウチのワンコたちはどうなんだ?」
ベッドでセーラに寄り添って眠る二匹を指差して聞いてみる。
「神獣と呼んでやるべきじゃが……確かに魔物と変わらんじゃろな。ドラゴンも『竜の神』の眷属以外は魔物扱いじゃし、ワシがその辺の魔物を眷属にすればそれも『神獣』に
なるじゃろうし……」
混沌としているな。流石ファンタジー。細かく定義付けようとするのは日本人の性なのかもしれない。
でも、ある程度の権威に保証された定義がないと不安なんだよ。特にコッチの世界は殺伐としているから、オッサンが殺した魔物が後から実は神獣だった、とか言われたら凹む
し、実際経験してるしな。魔族と戦争している人たちだって、もしかしたら『魔族は魔物と同じだ』とか信じて戦ってるのかもしれない。事実を知ったらどうなるんだろう。ム
キになって逆切れしてくるかもしれない。地球では歴史上良くあった話だ。
オッサンはどうするべきか。
コネを使いまくってシュレや神サマズを強引に介入させて『設定』さんを引っくり返してもいいし、日和見を決め込んで時の流れに身を任せてもいい。選択肢は多い。ま、ゆっ
くり行こう。
そんなこんなで爺さんに話の続きを聞かせてもらう。
残るはヒューマン種と獣人族だが、こちらは地球人とほぼ同じ寿命のようだ。ただ、環境的に天寿を全うすることは少ないとのこと。その代わり繁殖力が強いのだそうだ。うん
、定番。
ヒューマン種より獣人族が勢力が弱いのはその多様性にある。犬、猫はいうに及ばず、色んな動物特性が身体に現れて細かく部族単位に分けられ、統一感がないのだそうだ。オ
ッサンからしてみれば逆に纏まりやすいと思うんだが、これも『設定』の影響だろう。
「パパ……おはよ……」
「お、起きたかセーラ。おはよう」
爺さんとの話は結構時間がかかっていたようで、ウチの眠り姫が目覚めてしまった。
爺さんにはこれからも色々と話を聞くことにするが、家族サービスも大事である。
「じゃあ、夜まで時間もあるし、また散歩にでも行くか。買い物もしなくちゃだしな」
「わーい! おさんぽ!」
「「きゃん! きゃん!」」
「あー、お前らは留守番だ」
「「きゅ~ん……」」
「スコルとハティもいっしょがいい!」
「よし! 人前で大きくなるなよ」
「わーい!」
「「きゃん、きゃん!」」
「相変わらず甘甘じゃのう」
「俺に取っちゃ世界の危機より大事なことだ」
思わず本音が出てしまった。異世界転移したことを受け入れつつあるといっても根っこは小市民のままだ。自分が大事、家族が大事。いざというときは神頼み。目の前にいるじ
ゃん。
「ってことで、爺さん、エルフ救出の件よろしく。手伝いたいとこだけど、バラバラに情報聞き出すんなら俺には無理だしな。任せるよ」
「たまにはワシがセーラちゃんとお出かけしてもいいんじゃないかの……」
「バルハラまではまだ長いんだから仕事が終わってしまえば時間もあるだろ? また今度にしてくれ」
「しょうがないのう……セーラちゃんや、今度はジイとお出かけしような?」
「うん! おみやげかってくる!」
「おお、いい子じゃのう」
親バカ、爺バカの見本みたいだが、これはこれでいいものだ。
その後家族水入らずで街の散策、買出しをした。セーラが歩き疲れてスコルを巨大化させようとしたのはご愛嬌である。勿論すぐに止めさせて抱っこしてやりましたとも。




