表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/104

20 オッサン、三歩進んで二歩下がったので、今度は四歩進んでみる。

 


 国境の街(仮)での二泊目。

 夜中に創造神の爺さんから念話で起こされた。想定はしていたから大声を出してセーラの安眠を邪魔することもない。同じく気遣いのできるスコル&ハティの頭を撫でて寝室の外にでる。


「お主の言うとおりになったな」


 神殿(仮)エントランスでは神サマズが待っていた。

 就寝する前にジャマーン帝国の各地のバルハラ教会を監視してもらっていたのだ。奴隷商からの襲撃があるかもしれないと予想して。

 本当は昨日の内に教会の資金まで回収してしまえばよかったんだが、娘と一緒の時間をあれ以上削るわけにはいかなかったのだよ。そこまでオッサンが割りを食う必要はないだろうに。

 結果、また夜中のミッションになってしまったけど、セーラが気持ちよく眠っている内にさっさと片付けてしまおう。


「人間なんてそんなもんだ。自分は被害者だって本当に思ってるんだろうよ」


 今まで合法だと思って派手にやっていた奴隷商たち。突然『神託』で人種差別と戦争を禁止されたと思ったら商品である亜人奴隷が消え、そればかりか店に置いてある資金まで消え失せてしまった。やり場のない怒りと焦り。神を呪うか? そんな度胸が『本物の』神託が下りた日に湧いてくるわけがない。ならば素直に反省するか? そんな殊勝な心の持ち主が奴隷商を経営するわけないな。

 ジャマーンで奴隷商を営んでいる連中は合法といっても大体裏社会と繋がっている。中には幹部、親分がサイドビジネスとして経営している場合もあった。そんな連中が泣き寝入りするはずもなく、奪われた商品、資金を奪還しようとするはず。特に資金に関しては支払いや上納など命に関わる問題だ。社会的にも物理的にもである。ならば無理矢理にでも理由をつけてあるところから回収しようとするはずである。

 どこからといえば、本人たちはわからないだろうが、洗脳魔道具の効果書き換えによって生まれたバルハラ教会への不信感がカギになる。元々『亜人差別』『ヒューマン至上主義』を掲げていたのは教会だ。俺たちは教会に騙されていたのだ! とでも叫べばあっという間に被害者の誕生である。


 奴隷商たちが暴走するのは時間の問題だったが、裏社会の実情など知るわけもないオッサンに正確な教会襲撃時間がわかるわけもない。よって就寝時間にジャマーン帝国の監視を神サマズに頼んでいたのだ。


「ふむ。愚かしいのう。ワシが創ったと思うと情けないと感じるところなのじゃが……これも『設定』のせいかの?」


「……だろうな。『地球』の人間性そのものだ。爺さんの責任じゃないさ。それとも『リセット』したいか?」


「む? 人間を創造し直せと?」


 シュレ風にからかってみた。言ってから気付いたが、マジでできそうなので早まってしまったかと焦る。


「ま、まあ、ゆっくり考えてくれよ。俺の方は急いで資金回収しないと。じゃあ行ってくる!」


 爺さんの答えを待つまでもなくジャマーン帝国の首都に転移する。教会への襲撃第一件目はそこだと聞いていたからな。


 首都には何軒か教会があるが、跳んでみるとすぐにわかるほど混乱している。こりゃすぐに他の教会もターゲットになりそうだ。急がないと。


 教会にはまだ侵入したことがないのでマップに内部構造までは表示されない。なのでまずは結界で囲む。


「うわっ! 何かにぶつかったぞ!」


「クソ! 坊主の魔法か!」


 結界で囲むのは一瞬で済むのだが、奴隷商、或いは裏社会の襲撃者たちの数が多かったため何人かに気付かれてしまった。ただ教会側の魔法だと思われたのはラッキーである。

 後は建物の中に入らずともマップで『貨幣』を検索してアイテムボックスに『物質転移』させればいい。


「くそーっ! また金が消えたぞ!」


「何だと! ここもか!」


 やはり襲撃者たちの狙いは教会にある金銭だったようで、首尾よく奪ったお宝をオッサンに横から奪い返されて憤慨していた。


「返しなさい! それは神に奉納する浄財です!」


「うるせえ! 何が浄財だ! 亜人どもを売ったカネをピン撥ねしてるだけじゃねえかよ!」


 果敢にも襲撃者に食って掛かるバルハラの神官だったが、覆面をした男に一括される。うん、いいこと言うねえ。


「おい! ここはもう放っておけ! 次の場所だ!」


 神官の中には魔法で反撃してくる者もいて、多勢に無勢ながら勝敗は決しなかった。そもそも襲撃者の狙いが金銭だったのも理由の一つだろう。目当てが消えた時点でこの場に止まる理由はなくなった。


「どうして衛兵が来ないのだ!」


 神官の一人が逃げていく賊に火魔法を飛ばしながら叫んでいた。あー、この国の兵隊さんもバルハラ教会に不信感持っちゃってるんだねえ。たぶん朝になったら来るんじゃない?


 おっと、他の教会も襲われる前に回収急がないと。最悪神サマズに手伝ってもらわないといけないかな?

 オッサンは喚く神官を尻目に(隠微結界のため向こうからは見えていない)転移した。




「ふ~。なんとか全部の教会回れたか……」


 夜が明ける前に帰ってこれた。全国の奴隷商よりは教会の数が少なかったこともあるが、襲撃が飛び火する前にと思ってオッサンが頑張ったおかげでもある。


 念のためスタンバっていた神サマズに軽く礼を言い、残り少ない睡眠時間を堪能すべくセーラたちの待つ寝室に向かった。これで一先ずオッサンの仕事は終わり。後は各国の王様たちに頑張ってほしい。

 セーラの天使のような寝顔を見ながらオッサンは眠りに付いたのだった。




 明けて国境の街(仮)三日目の朝。

 オッサン一家プラス神サマズは旅を再開する。もう、何だか旅なんかしなくてもいい気がしているのだが、意地というものもある。何よりセーラに『どうしてやめちゃうの?』とか純粋な眼差しで聞かれたら答えに困ってしまう。まさか『面倒だから』などと正直には言えない。


「爺さん、この場所、結界張ったままになってるんだよな?」


 朝のお勤めを終えた後、一応確認する。神サマの御業だから大丈夫だとは思うが、国境の街道近くに突然街ができているなんて知れたら大騒ぎだ。この辺はバルハラの工作員もウロウロしているし、再び奴隷狩りの被害に遭う可能性も捨てきれない。


「人間には見えぬし、魔物も近づかん。気になるなら他の場所に移してもよいぞ?」


 うん、最終的に街の移転は考えている。ほとんどの被害者がユーグラシ連合国出身なので、そこに新しく街を作った方が話が早いのだ。ただ、違法奴隷となっているのはここに居る人たちだけじゃないし、コミュニティーとして種族や年齢のバランスが悪いのですぐさまとはいかないのがネックなのである。そこら辺はいくら神サマでも独断でやってしまうわけにはいかない。やはり連合国の政府関係者との擦り合わせが必要だろう。


「なら、しばらくはこのままで。各国の準備ができたら少しずつ面倒見てもらおう。ジャマーンから奴隷になってた人を全員回収できたら、また希望を聞いてやってほしい。元の集落に戻るか、新しい街で暮らすか、選択肢は多いからな」


「わかった。一度引き受けたのじゃ。最後まで面倒をみるぞ。そなたたちもそれでよいの?」


「はい。創造神様のよろしいように」


「俺も構わんぞ。獣人たちを放ってはおけねえぜ!」


 竜神様も脳筋獣神も最後まで付き合ってくれるようだ。チビ妖精はいつの間にかいなくなっていた。羨ましいポジションである。本音を言えばオッサン一人だって勝手にやりたいところなのだが……


「……ありがとう。助かる……じゃあ、そろそろ行くか」


「パパ! おでかけ? はやく、はやく!」


 旅の再開と聞いてウズウズしていたセーラがスコルに跨り催促してくる。よし! 一旦ムツカシイ話は終わりだ!


 こうして出発したのだが、国境の街道では『隠微結界』を張ったままの移動となった。というかババロア王国の最寄の都市まで転移した。

 これはスタンピードもどきが発生した場所を暢気に歩いていては妙な疑いをかけられそうだからである。『魔物除け』や『魔物引き寄せ』の薬品が使われていたことからバルハラの工作員の仕業である可能性が大であるので監視員がいないとも限らない。何せ魔法のある世界だからな。神サマでなくとも『千里眼』などのスキルを持っているかもしれない。そして、タイミングからしてオッサンを狙ったのではなく、ババロアのお姫様が目標だった可能性も出て来た。ならば華麗にスルーするのがベストであろう。


「ほら、言ったとおりだろ? 偵察隊だか救援隊だかが出て来た」


 ババロアの姫様は馬車一台を残して全滅と言っていたが、逆に自分が突出しすぎて後続の隊と離れてしまっただけではなかろうか。そうでなくても逃げ出した人間くらいいるはず。もしそうなら三日以内に捜索隊くらいは出てくるだろう。只でさえスタンピードの兆候があったんだし。


 オッサンたちはババロアの一つ目の都市の前で『隠微』したまま捜索隊とすれ違った。


「こりゃ、この街には入らない方がいいな。色々聞かれそうだ」


 旅に関しては神サマズは全く意見がないようで、あっさりとオッサンの意思どおりにしてくれた。セーラは街に入るのが楽しみだったようだが、転移で次の町にすぐ着く、と言ったら素直に聞いてくれる。うん、いい子だ。


 ということで、ただいまババロア二つ目の都市。さあ、今度こそ旅らしい旅をするぞ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ