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19 王様たち、大いに悩む2

ブクマありがとうございます。


視点は今回もシャルさんです。

 


(フランシスカ王国)


「此度は急なお目通りを許可いただき真にありがとうございます。ババロア王国第四王女・エミリア、ババロア王国の使者としてご挨拶申し上げます」


 形式どおりの挨拶をしたのは床に跪いた少女である。

 報告にあった隣国の王女で間違いないようだ。


 二度目の『ご神託』を受けての対策会議を行っている最中、訪問者があったと聞く。緊急ということらしかったが、緊急にも当然レベルがある。そこら辺は廷臣たちが判断して会議が終わるまで待たせたのだろう。『ご神託』よりも重要なことは滅多にあるものではないからな。


 慣例では、いくら一国の使者でも一日或いは二日前に前触れを寄越すはずなのだが、それすら省くぐらいの緊急の件と判断し、連絡を受け次第謁見を決めた。大臣たちも何か思い当たることがあるのかあからさまに反対するものはいなかった。

 どうせ慣例を破るならと、謁見の儀式は止めにしてこの場に直接呼ぶことにする。


 しばらく後、会議室は人の出入りが激しかった。出席していた大臣とその担当文官はそれぞれの任務につく。急いで対策に当たる必要のない部署のものは謁見の賑やかしに参加してもらう。人払いが必要ならそれこそ前触れで確認してくるだろう。


 こうして私は件の訪問者に会ったのである。


「面を上げよ」


 私が声を掛けるとその少女は顔を上げた。後ろに控えているババロアの騎士は膝を付いたままである。


 ふむ、まだ若い。だが成人はしているようだ。私が即位前にババロア王国を訪れた際には生まれていなかったはず。私も歳を取ったものだ。


 おっと、緊急の用件だったな。


「王女が使者に立つとはよほど火急の用件と見える。挨拶はこれで終わりにして用件を聞かせてもらえぬか?」


 本来なら無駄に広い謁見専用の部屋『水晶の間』で飾り立てた百官を並べ、お互い不必要な美辞麗句を交し合うのが『儀式』なのだが、どうも私の性格には合わない。どこかの黒髪の異世界人と気が合うのもそのせいだろう。それに、国に真の友はいないと言うが、ババロア王国の国王とは知らぬ間ではないし、実務優先ということなら粗略に扱ったことにはならんだろう。


 その判断は間違ってはいなかったようで、席を勧める間ももどかしいように第四王女は用件を切り出してきた。


「ありがとうございます! お聞きください! ジャマーン帝国がユーグラシ連合国に宣戦布告したのでございます!」


 椅子に座るや否やの発言で、一国の使者として、また王族としてふさわしくない態度であったが、驚くのはそこではない。私も、我が国の廷臣たちもそれはわかっているようだ。

 だが、驚いたのは発言内容だけではない。

 タイミングである。


 わざわざ王族が使者に立つとは、表敬訪問でなければ、よほど重大な問題が起こったと予想できるが、いや、各国に『神託』が下りるなど空前絶後の事件だ。ババロア王国も国のトップが『ご神託』を受けたことだろうし、王女を使者として隣国に送ることもおかしくはない。

 だが、私は『ご神託』に関してだと予想はしていたが、一回目の『戦争禁止』に関してだと考えていたのだ。まさかジャマーン帝国に関する問題だったとは。


 いやいや、ジャマーン帝国に関する『ご神託』はつい先ほどのこと。ババロア王国にも下されているはずだが、王女の耳に入ってから我が国にやってきたわけではあるまい。早すぎるではないか。


「落ち着くのだ。王女エミリア。その件なら聞いておる。ババロアの意向はそれを報告するだけではあるまい。わかるように話してみよ」


「はっ……も、申し訳ございません。わたくしとしたことが……聞いておられる? 陛下はご存知だったのですか?」


「うむ。情報だけは先ほどな」


 私はまだ2度目の『ご神託』のことは口にしなかった。まずは王女の、ババロアの用件とやらを確かめるべきと判断したのだ。

 王女も情報収集の重要性をわかっているようで、それを前提に話を進めるようだ。


 王女の説明によるジャマーン帝国の宣戦布告関連は二度目の『ご神託』で言われた内容そのままであったので、ババロア王国は事実を隠蔽しようとするつもりがないことがわかった。それだけ『ご神託』を重視している表れだろう。その精神が逆にババロアを動けなくしている。ユーグラシ連合国から救援要請があったにもかかわらず、一回目のご神託の指示、『戦争行為の禁止』があったために兵を派遣できないという。

 その点は、もしユーグラシ連合国から我が国にも救援依頼が来ていたとしたら、同じように兵を出せずに悩んだことだろう。


 いや、ババロア王国からの要請はその兵を出すことだ。『戦争』のためではなく『調停』、詰まるところ、二国分の大量の兵士を国境に並べジャマーン帝国に圧力を掛けて戦争を止めさせようというわけだ。

 ババロア王国も思い切ったことを考える。ジャマーンの出方次第では四国の戦争に発展する恐れもあるというのに。戦争が飛び火するのを恐れてか、或いは純粋に隣国を憂いてのことだろうか?


 私は出席している大臣たちを見回した。ふむ、特に意見はなさそうだ。何しろ我が国は結末を知ってしまったからな。

 さて、切羽詰った表情の王女を安心させてやるか。


「王女よ。戦争の件は安心するといい。既に解決しているはずだ」


「……どういうことでしょうか?」


「先ほど『ご神託』が下されたのだ。二度目のな。おそらくそなたの国許も安心する傍ら今後の対応で忙しくしておることだろう」


「まあ! そんなことが……」


 信じられない、といった表情だが、こればかりは神にあらざる私は事実を口にするしかないのだ。

『ご神託』自体は秘密でもなんでもない。何しろ各国に同時に下されているわけで、勿論対応するかしないかは各国次第だろうが、まさかジャマーンのように神に逆らう国が他にあるとも思えない。ババロアに至っては神の指示を守ろうとして苦慮していたわけだからな。

 私は詳しく『ご神託』の内容と我が国の決定を王女に伝える。王女が国許に戻れば必然的に父王に聞くことになるのだ。他国の方針に口出ししようとは思わないが、あの国王ならユーグラシからの難民に対して悪いようにはしないだろう。


「それでは……まさか……あの方たちは……神の使い……」


 急な展開で呆然としていた王女がなにやら呟いている。

 神の使い? 何のことだ?


「そういえば、王女よ。気になっていたのだが、我が国に来るのが早くはないか? 仮に一度目の『ご神託』の後出発したとしても、女の身、昼夜を分かたず早駆けしては人も馬も持たぬであろう」


「そ、それは……」


「む? 何か言いたくない事情でもあるのか? そういえばジャマーンの宣戦布告の後飛び出して来たのだったな。熟練の早馬でも間に合わん。飛竜でも使ったのであるか?」


 この西大陸では伝説でしかない『竜騎士』。魔族は使えるようで西大陸連合軍は辛酸を舐めているが、ババロア王国が秘匿していたとは思えない。

 だが、何か言いにくいことはあるようだ。


「ババロア国王に確認してからでも良い。魔族との戦争は一時中断したものの、これからは難民の保護に人手を割かなければならない。迅速な移動方法があればどの国も助かるのだ。伝令としての働きだけでも構わぬぞ」


「……ご協力いたしたいのは山々ですが……我がババロアとは関わりございません」


「王女よ。確かに国益を考えれば技術を秘匿したいのはわかるが、これは神の指示でもあるのだ。何とか王に口添えしてはもらえぬか?」


「い、いえ。そういうつもりではございません。わたくしも偶然助けられたのでございます」


「何? どういうことだ?」


 王女の表情からは嘘を言っているようには思われない。連れてきているババロアの騎士も困惑気味なだけで国家機密に触れているという感じがしない。


「ある方と約束いたしましたので全ては申し上げられませんが、ご説明いたします。実は、貴国に赴く途中、国境でスタンピードと遭遇親しました。今日のことでございます」


「何! スタンピード! 諸卿よ、誰か聞いているか?」


 同席している廷臣たちに確認したところ、誰も把握していなかった。確認を急がせよう、いや、今日? 今日だと? ババロアとの国境でスタンピードに遭遇し、今フランシスカの王都にいると言うのか? バカな。本当に飛竜でもなければ時間が合わぬではないか。


「王女よ。話の続きを」


「はい。わたくしどもは必死に戦いましたが、あまりの数に撤退もままならず、残り十名となったところである方たちに命を救われたのでございます。今思えば何という強さでしょう。あっという間に星の数ほどの魔物を倒されてしまいましたわ」


 キラキラした目で語っているが、とても信じられぬ内容である。だが、それと今王女たちがここにいることとどんな関係があるというのか。続きを待とう。


「それからその方たちにフランシスカまでの護衛を頼みました。始めは断られましたが、ある条件でここまで送っていただいたのでございます」


「その条件とは? いや、どんな方法で送ってもらったのだ?」


「……その方たちのことを口外しない。また詮索しない。という条件ですわ。ですから、これ以上は国王陛下といえども申し上げられません」


「ふむ、『口外しない』という割りに大分話しているようだが……それは『契約魔法』を使っているのか?」


「え? あら、そういえば使いませんでしたわ……」


「口約束だけか……だが、王族の名誉にも関わろう。ならば、質問を変える。その約束をしたのは王女だけか?」


「え、ええ。そうですわ」


「ふむ。では、そこのババロア騎士よ。直答を許す。どうやってここまで来た?」


「はっ! 申し上げます! 黒髪の魔道師の『転移魔法』であります!」


「オルコット!」


「いや、王女よ、待て。黒髪と言ったか?」


『転移魔法』という答えには正直驚いた。だが、騎士の答えにもっと気になることが……


「はっ! お答えします! 黒髪、と申し上げました!」


「オルコット、いけません!」


 黒髪か。一人だけ心当たりがある。バルハラ神聖教国に向かったのだから方角的にも確率は高い。スタンピードを退けた強さからして覚醒した勇者かとも思ったが、まだ訓練中のはず。それに勇者の髪は金に変えていると言っていた。う~む。


「王女よ。余は何も聞かなかった。そこの騎士も何も言わなかった。諸卿よ、そうであろう?」


 廷臣たちに念を押す。難民対策では緊急の仕事がなかった宮廷魔道士の代表・クレモン師も同席していたが、私と同じ予感がしたようで盛大に頷いていた。


「口約束でも約束。守らねばな。ババロア王には余からも口添えしておこう。そなたも疲れているであろう。今日はゆっくり休むがよい」


「……陛下のご温情を賜ります……」


 私の変わりように逆に戸惑っているようだ。


「何、おそらく王女を助けたのはおせっかいで気紛れな旅人。忘れてやった方がその者もありがたかろう」


「そ、そうでございますわね。仰せのとおりにいたします」


 人を呼び、王女たちの世話を任せる。

 すぐに帰国するのか、或いはしばらく我が国に滞在するのかは王女次第だが、今日のところは色々混乱しているだろうからゆっくりと休ませておこう。


 それよりも……


「スタンピード? 転移魔法? まったく、何をしているのやら……」


 身分と生まれた世界が違う私の朋友は私の愚痴など聞こえてはいないだろう。さっさと帰って来て説明しろ!


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