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18 王様たち、大いに悩む

すみません。また遅れてしまいました。

閑話的なことを書くとミスしてしまうのは何故でしょう。


視点が変わります。

 


(フランシスカ王国)


『フランシスカの代表者よ。私は神の一柱、神たちの話し合いによる結果を告げる』


 突然頭の中で声が響いた。

『ご神託』であると瞬時に判断できたのは、たった五日前に同じような出来事があったからだ。

 私は執務中であったが、すぐさま平伏する。側にいる文官が目を丸くしているが気になどしていられない。今回は一体どんなご指示なのか。




 五日前のご神託には驚かされた。何しろ初めての経験だった上に、『神託』とは教会の巫女が受けるものだと思い込んでいたからである。一瞬『念話』というスキルが存在することを思い出し、魔族の陰謀を危惧したが、頭の中に響く『声』に神々しさを感じ、自然と受け入れる気持ちになっていた。私の直感が言っている、これは本物だ。

 神はこう告げられた。『今すぐ戦争をやめよ』と。

 神であることは信じたが、その内容には納得がいかなかった。神にしては焦っているようにも感じられたのである。


 私は国王として不敬だと思いながら神に伺いを立てた。


「神よ、それは座して死を待てとの仰せでしょうか?」


 ここ十数年魔族との対立が続き、最近は戦いが一層激しくなったので最終手段として王家に伝わる『勇者召喚』を行って魔族との戦いにケリをつけるつもりであった。その勇者がまだ育ちきってもいない段階で一方的に戦争をやめろとは。いくら神でも理不尽ではないか。

 私は魔族に国民が蹂躙される光景を想像し戦慄した。

 しかし、神に逆らって戦争を続けて、仮に勝利したとしても『神罰』は免れないだろう。それが国王である私一人の罰なのか国民全てへの罰なのかが問題だ。前者ならば私は喜んで受け入れようではないか。


 だが、心配には及ばなかった。

 私の不敬ともいえる質問に神は答えてくれたのである。


『ご神託』によると、この魔族との戦争自体が不自然であり、何者かの陰謀であるらしい。

 神にもわからぬ陰謀とは何か。

 人間如きにわかるはずもないが、そう言われてみれば思い当たらぬこともない。人間と魔族は何故戦っているのだろう。人間が住むにはあまりに過酷な『暗黒大陸』。『献上する』と言われてもほしいとも思わない。だから魔族はこの西大陸を狙っていると考えていたのだが、魔族の生態を考えると『暗黒大陸』の魔物は脅威ではなく、むしろ豊富な資源でしかないだろう。

 では何が原因か?

 何かしら戦争を引き起こすきっかけがあったのだろうが、それが何かはわからない。今では、お互い殺し殺され、という恨みの連鎖があるだけだ。

 その『きっかけ』こそ神の言う陰謀なのだろう。


 そして神はこうも言われた。『今後更なる混乱が起こる。疑心暗鬼になり軽挙妄動は決してするな』と。


 魔族との戦争以外にも問題が起こりそうだと言う。それが何かまでは明言しなかったが、追加で『ご神託』は私一人ではなく、各国、いや、魔族の国にまで下されたそうである。

 納得が行った。

 一方だけ戦争行為を止められたのでは嬲り殺しになるだけだが、双方が手を引くと言うのならば異存はない。『防衛』行動は認められたのでこちらから手出ししなければ神の意思に適うというものだ。


 私が『神託に従う』と答えたところで神の声は聞こえなくなった。心なしか荘厳な雰囲気もなくなったような気もする。


「へ、陛下。一体どうなさったので?」


 執務担当の文官が心配そうな表情で聞いてくる。

 どうやら私は知らないうちに平伏していたようであった。


「……信じられぬかも知れぬが、『ご神託』があったのだ」


 私は立ち上がりながら文官の質問に答えた。


「は? ご、ご神託? それは一体――」


「陛下ーっ!」


 混乱する文官の相手などしていられないと思っていたが、その前に私の執務室に前触れもなく飛び込んでくる人物があった。本来なら厳罰物である。廊下を警備する守護騎士たちも驚いただろう。


「何事だ」


「へっ、陛下! ご神託です! ご神託!」


 驚きながらも騎士たちが部屋に通してしまったのも無理はない。その初老の男は侯爵の地位にあり、宮廷では政務大臣の椅子に座っている人物なのだから。


「落ち着くのだ! ポンポンヌ卿」


 私は、然もありなんと思いつつ、国王として冷静な態度を維持するように努める。


 何とか落ち着かせ話を聞いたところ、やはり私と同じような内容の『ご神託』を聞いたようだ。その大臣も国王である私が『ご神託』を受け取っていたことに驚いていたが、信憑性は高まった。無論神の言葉を疑うわけではないが、私の発表が国民に受け入れられるかが問題である。二人も『ご神託』を受けたのなら大丈夫だろう。

 その後念のため宮廷中調べたが三人目はいなかった。


 すぐさま大臣たちを招集し会議を始める。会議といっても通達だけだ。『神は戦争を望んでおられない。停戦せよ』、そう伝えた。

 当然会議の場は混乱したが、私とポンポンヌ大臣が『神託』の内容を説明するとあからさまな反対意見は出なくなる。ただ完全に信じたかと言うとそうでもないだろう。


 しかし、、『こちらからの攻撃は禁止する』という指示は『防衛体制はそのままにする』という方針のおかげで全員了承してくれた。これは、元々魔族の国に領土を求めていなかったので基本方針に反する案ではなかったことと、すぐには証明出来ないが、『ご神託』で指示されたのが我が国だけではないのが理由である。


 国家の重鎮たちが認めたところで各国、とりわけ魔族の国に面している二国に使者を送ることにした。我が国だけが停戦を求めても意味がない。その二国も我が国が『ご神託』に従ったと言えば同調してくれることだろう。後は魔族の出方である。神に逆らって侵攻して来るかが心配だが、我が国まで『神意』に叛くわけにはいかない。防衛に徹するべきだ。




 それが五日前のこと。

 今日までいくつか情報が入った。

 曰く、各国に『神託』が下った。内容は概ね同じ『停戦せよ』である。

 曰く、各国の首脳は『神託』に従い、先制攻撃は禁止し、防衛に努める。


 そして今日入ったばかりの情報によると、我が国南西に位置する『エスパドル王国』と南東の『バチカミラノ王国』で、一部魔族に占領された地域から魔族が撤退し始めたと言うではないか。

 どうやら『ご神託』は確かに魔族にも届いていたようだ。

 だが、これで安心はできない。『ご神託』は更なる混乱が起こるとも言っていたのだ。魔族との戦闘停止はそれを避けるための方法でしかない。疑心暗鬼になったりしないように落ち着いて行動せねば……


 と思っていたところに人生二度目の『ご神託』があった。


 平伏したまま聞いてみると、それは我が国に『亜人奴隷』の保護を求めるものであった。

 何でも『ジャマーン帝国』は五日前の『神託』を信じず、逆に『ユーグラシ連合国』への出兵を決定したそうだ。


「(まったく、あの国はいつまで経っても変わらんな。今度は神にまで鉾先を向けるというのか)」


 私の呟きに構わず神の言葉は続いた。驚いたことに神が直々に戦争を止めると言う。

 その過程で、ジャマーン国内にいる、真の犯罪奴隷以外の亜人たちを解放すると言うのだ。ユーグラシ連合国は新興国の上、長くジャマーン帝国から侵食されていたから内情はボロボロである。各集落が復興するまで周辺各国で難民として保護してほしいのだそうだ。


 一難去ってまた一難、とはこのことだろうか。

 幸い我が国ではバルハラ神聖教国の主張する『ヒューマン至上主義』に傾倒しているわけではないので『亜人差別』に関しては問題ないだろう。だが、魔族との戦争が完全に終わったわけでもない段階で大量の難民が流入してくるのは治安的にも経済的にも困るのだ。


 私が躊躇する雰囲気が伝わったのか、神はある提案をしてきた。

 なんと、難民一人に付きドラゴンの鱗を一枚我が国へ提供すると言うではないか!


『ドラゴンの鱗』。

 それはもはや伝説と言ってよい素材である。剣にしても防具にしても国宝級のアイテムになる。粉にして魔法薬を作れば最上級の効果が得られるとも聞く。大量に手に入るなら一部を好事家に売ればかなりの値が付くだろう。一枚や二枚ならともかく、全ての難民の分となったら、王家の総資産で買えるかどうか、桁もわからない。


 私が驚きのあまり反応できないでいると、更に驚くべきことが。

 神ともあろう方がまるで商人のように値を吊り上げてきた。呆然と聞いていると、今一人当たり鱗五枚になっていた。


 ハッとあることに気付く。

 このままでは、私が神の足元を見ているようではないか。そんな不敬許されるわけがない。


「お、お待ちください。私は条件に不満だったのではありません。驚きのあまり声もでなかったのでございます。王として国民に負担を掛けさせるわけにも参りませんので、申し出はありがたく受け取ります」


 神は理解してくれたようで、値を戻すことなく、一人当たり鱗五枚を下げ渡してくれるようだ。本当にありがたい。

 改めて詳細を聞くと、流石に神、万を越える奴隷を解放すると言う。周辺各国で分担するとして平均二千人ほどか。一度に王都に来られては大変だが、国内の大き目の領都で受け持てば各地に百人ぐらい収容できるだろう。それくらいなら収容施設を建設する間は、今出兵していて空いている兵舎に仮暮らししてもらえば良いだろう。神からの要請である上、人道的な措置だ。手間は惜しむまい。


 了承を告げると、神から準備が整い次第連絡すると『ご神託』を予告された。私からの報告は必要ないようだ。


 神の気配がなくなり、私が立ち上がってしばらくすると予想通り執務室に飛び込んでくる者があった。今回もまた私とポンポンヌ卿二人が神託を得たようである。

 早速大臣たちを招集し、会議を始めた。『神託』に纏わる内容は彼らにとっても二回目であったし、魔族関連では既に『神託』どおりの結果になっていたので会議は非常にスムーズに進行した。報酬とも言える『ドラゴンの鱗』に関しては扱いに関して軍務系と経済系で激しい議論があったが、枝葉と称していい。


「では、各領主に通達。百人分の住居と毎日の食料を用意させよ。費用は王家から出す。これは神からの要請である。くれぐれも待遇には注意するように。以上だ。何か他にあるか?」


 滞りなく会議は終わった。これからの準備は大変だが。


 そこに、会議が終わるのを待ちかねたように一人の騎士が会議室に入ってきた。


「申し上げます! ババロア王国第四王女殿下、陛下に緊急の謁見を申し出られております!」


 どうやら一難だけでは済まなそうだ。






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