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17 オッサン、旅がまた中断?

 


 神サマズがジャマーン帝国に思いっきり干渉してから二日目。

 オッサンは今ジャマーンの地方都市を巡っている。昨日は首都の奴隷商だけで時間がなくなり、教会には手を出していない。見逃すことはありえないが、オッサンも順番を考えて行動しているのだ。

 まずは急に奴隷が攫われた奴隷商から現金を回収しておかなければ、またぞろ奴隷狩りや転売を考える人間が出てくるかもしれない。全国民への『神託』と『逆洗脳』があるからといって全面的に信用するわけには行かない。おそらく『戦争』については大丈夫だろうが、奴隷に関しては『亜人差別』云々よりも単純に『商売』と考えているフシがある。きっと罪悪感なんて欠片もないんじゃないだろうか。逆に『適材適所。仕事のない亜人に職を与え、労働力の足りない国民に斡旋している』とか言って世の中の役に立っていると自負している奴隷商もいるかもしれない。


 こうなってくると『広く浅い』効果しかない教会の洗脳装置では意味がないかもしれない。だから一時的でいいから奴隷商たちから現金を奪って活動しにくくしておくのだ。その間にジャマーン帝国内から違法(オッサン的な)奴隷を全て回収すれば一度リセットできる。その後は国際関係に任せていいだろう。何しろ『神託』のあった後だ。今後も奴隷狩りでユーグラシ連合国の国民に手を出せば侵略行為と見做され、オッサンとは違う意味で『神敵』認定だろう。


 いや~、元々バルハラとジャマーンの連中には『ぎゃふん』と言わせたかったんだが、もし神サマズのところに先に行ってなくて一人で旅をしていたらこんなにスピーディに片付かなかったに違いない。地道に草の根運動的なことをしていたかも。これは神サマズ、ひいては女神クエストを押し付けてきたシュレに感謝かな。


 各都市を巡っていると、オッサンの心配が半ば当たったようで、色々な反応が見られた。


「ど、奴隷が消えた……神がお怒りじゃ……私はどうすれば……」


 と恐怖している者。


「奴隷が消えただと! 何をしている! 探せ! 代官に知らせて攫った人間ごと捕まえて来い!」


 と部下に当り散らしている者。コイツ、洗脳装置が効いてないのか? 只の金の亡者か?


「あの、ウチの奴隷を引き取ってもらいたいんですが……」


「できるか! 奴隷も金も消えた! ワシはもうお仕舞いじゃあ!」


『神託』と『洗脳』が効いて奴隷を所持していた者がさっさと売り払ってしまおうとしている場面にも出くわした。残念、そこの奴隷商の資金はたった今回収済み、朝から金勘定していたところを目の前で回収したもんだから驚きは相当なものだったろう。うん、オッサンも忙しいから誰も見てないタイミングで、なんて考えてない。

 奴隷を売却したい連中は少し待ってもらおう。なに、そのうち神サマズが回収に来る。期待通りの値段かどうかは自分の奴隷に対する待遇次第だ。その辺も全ての奴隷が回収し終わり次第『神託』で説明してもらわないとな。暴動が起きるかもしれない。


 そのような光景が全国各地で見られた。

 私は少し安心する。在庫の奴隷も資金もなくなったというのに再起をかけて次の入荷を検討するような奴隷商もいたし、それに付け込んで自分の奴隷を高く売りつけようとする客もいた。だが、これは地球でも見られる利益に貪欲な『人間らしさ』といっていい。

『亜人』に対する盲目的な差別は私の見る限りナリを潜め、むしろ『神』に対する畏怖や『教会』に対する反感が多かったように思える。


「くそっ! 教会の連中が『亜人は人間じゃない』なんて言うから安心して奴隷にしてたっていうのに、神罰が当たったら奴等のせいだぜ!」


「そうだ、そうだ! こうなったら消えた金はやつ等から取り返してやろうぜ!」


 こんな会話も聞かれた。こりゃ破産寸前の奴隷商たちが襲う前に教会の現金は回収しておかないとな。


 ステータス表示以上にありそうな魔力のおかげでいくらでも転移できるのだが、流石に一国全ての奴隷商を回りきることは一日かかってしまった。教会は明日一番に回るとしよう。短気な奴隷商が闇討ちを掛けるかもしれないが、神サマズにそれとなく見張ってもらうか。


「ただいま~」


「パパ! おかえり!」


 日も暮れて仮神殿に戻ってきた私をセーラが出迎えてくれた。


「留守番させてごめんな? いい子にしてたか?」


「うん! セーラいいこ! パパ、パパ! セーラい~っぱい、まほうおぼえた!」


 え? ちょっと心配。チビ妖精はどんな魔法を教えた? 


「そ、そうか。こんどパパにも見せてくれな?」


「うん! いまみせる! ほら! みてみて!」


 究極破壊魔法とかだったら頭を悩ませたが、セーラの使った魔法はどうやら『飛行魔法』のようだ。仮神殿を覆う結界内を所狭しと飛び回っている。なるほど、チビ妖精との追いかけっこの延長か。これはこれで騒ぎのタネになりそうだが、可愛いから許される!


「おお、すごいじゃないか! セーラは魔法の天才だな!」


 地球では家族を持たなかった私だが、自分でも驚くほど親バカだと思う。


 私に褒められて気をよくしたセーラがしばらく飛び続けるのを眺めた後、夕食を理由に地上へ下りて来させる。明日も留守番になる予定だからその時にチビ妖精に『隠微結界』でも教えてもらって思いっきり空を飛んでもらおう。


 この日の夕食はチビ妖精が用意してくれた。フルーツオンリー。うん、健康的でいい。日本も金額を気にしなければそうだったが、異世界の『森の神』の持ってくる果物は全く季節を感じさせない。というか、オッサンが知っているのはマンゴーもどきの『リンゴ』だけなのだったよ。

 この騒動が落ち着いたらゆっくりとこの世界の常識について勉強するから、今日は細かいことを考えずに腹を満たそう。


「で? そっちの進行状況は?」


「うむ。まずワシが彼らから要望を聞き、竜神と獣神にそれぞれの故郷の状況を調べてもらった。無事だった者はすぐに帰してやったぞ」


 軽い感じで報告されたが、ぶっちゃけ神サマでなかったらそう簡単にはできないミッションだ。しかも全て『神託』越しでの作業である。


「頼んでた『見舞金』は渡してくれたか?」


 私はこちらの世界に来て二週間というところなので、正確には『亜人』たちの生活ぶりはわからないが、ちょっと神サマズに聞いたところによると『以前は原始的な物々交換レベルだったが、最近は通貨も流通し始め手いる』らしいので、何もないよりはマシだろうと奴隷商から回収した資金の一部を持って帰ってもらうことにした。未だこの世界の物価がピンと来ないが、一人当たり金貨20枚分、独断で決めた。私がシャルさんから金貨2枚分借りた時の説明で『数ヶ月分の生活費』と聞いたので、十倍にしてやったのだ。足りなくなったり余ったりしたら、その時また考えよう。


「無論じゃ。それからの、故郷が壊滅した者たちじゃがの、捕まる前から知っておった者はともかく、今になって故郷の壊滅を聞いた者たちはかなりショックを受けておった。しばらくは『精神安定』が必要じゃろうな」


 予想通りであった。心の拠り所が突然なくなったんだ、壊れもする。神サマパワーに期待だ。


「……そうか。引き続きケアを頼む。そんな調子じゃ『人間』の国に世話になりたいって言うヤツはいないだろうな」


「いや、そうでもない。正確に状況を把握している者もおる。バルハラとジャマーン以外の国なら安心できるようじゃ」


 ほほう。オッサンが心配しているほどではなかったようだ。

 奴隷になっていた『亜人』たちは種族も性別も年齢も様々である。捕まえやすいだろう子供や女性が多かったが、中心となりうる大人も存在するようで、今日でアパート群の残り75棟も埋まったらしいが、初日に解放された者で精神的に安定している者たちが種族に関係なく後から助け出された者の面倒を見ているという。

 中には復讐心に凝り固まった、脳筋獣神の小型版みたいな直情型の大人もいたようだが、『神託』による説得で何とかヒューマン種全体に対する復讐は思いとどまってもらったようだ。そいつ一人の無差別の恨みが周りの同じ被害者の居場所まで奪ってしまう、と言われたら引き下がる他なかったようである。個別の復讐は自己責任とも言われたらしい。そういう連中は一人で生きていく力もあるようなので金を渡して好きな場所(バルハラとジャマーン以外)に転送済みだそうだ。残られて変に扇動されても困るからな。いい判断である。


 それ以外は安定するまで『神サマ』の指示に従うということだ。ここから新たな家族、集落が生まれる可能性もある。いや、そうでなくては彼らに未来はないだろう。

 オッサンたちは一時の休憩場所と僅かな資金を提供するだけに留めよう。


「そりゃよかった。これがきっかけで『人間』全てが恨まれるのは勘弁してほしいからな」


「うむ。それはワシらも望んでおらんよ。人同士の争いは『神』が介入すべきではないかもしれんが、今回は『神』の名を使われた上の所業じゃ。ワシらの責任ともいえるでのう」


「そう言ってもらえると、俺も遠慮なく神サマたちを扱き使えるよ」


「……管理神様のご命令なら構わんがの」


「これは俺の我が侭だって言ってるだろ? どうせ住むなら楽しい世界がいいからな。ギスギスした人間関係は勘弁だっての!」


「フォフォフォ。ワシも人間になって暮らすなら気楽な方が良いからの。お主のやり方に任せるのが一番のようじゃ」


 まだ人間になることを諦めてはいないらしい。どうやら長い付き合いになりそうだ。


「ま、とりあえず元奴隷の人たちを各国に引き取ってもらうまでは色々と頼むよ。そうだな、希望者には元の国に新しい町でも作ってやるか。ちょっと『神の奇跡』が過剰気味だけど、コッチの負担はないも同然だし、これだけ人数がいれば種族ごとに分けても町の十や二十できそうだからな」


「すぐには無理じゃろ。女、子供ばかりでは生活が立ち行かんぞ? まあ、ユーグラシの部族代表に通達して新しい町を管理させることぐらいはできようが……」


「それでいいんじゃね? 別に何もかも神サマがすることはないさ。住むところと食うものがあれば自然と落ち着くだろ」


「そうじゃな。その線でやってみるとするか」


 そんなワケで明日からの方針も決まり、私は人心地付くのだった。


 隣を見てみると、食事も終わり大人たちの会話に暇そうにしていたセーラが船を漕いでいた。

 さて、風呂に入って寝るとしよう。いや~、今日も働いた。


 あれ? 旅はどうなった?

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