16 オッサン、結構スカッとした(異世界補正?)
オッサンが今いるのはジャマーン帝国の首都。帝都っていうのかな? つまりは数時間前に訪れていた場所。
もうすっかり暗くなっているが街の様子はどこか騒がしい。
そりゃそうだ。全国民に対して『神託』が下りてから一日も経っていない。
加えて、オッサンがいる奴隷商人の館では亜人奴隷の一斉消失があったわけだから。兵士みたいなのはうろついているし、野次馬は『神罰だ』とか怖がってるし。
ま、これからもっと騒いでもらいましょ。
オッサンは堂々と(隠微結界がある)奴隷商人の館に侵入する。そしてマップ検索。検索ワードは『貨幣』。
最大倍率で館の見取り図に検索結果が出る。
隠し金庫も何故かバッチリわかる仕様だ。但し無条件でじゃない。一応プライベートな場所は覗けないようにロックがかかっている。一度入ったり結界で覆ったりした場所は以後ロックが外れるという謎システムだが、まあ、オッサン自身がアカシックさんやシュレに24時間覗かれている様なものだから悪用しないように心のセキュリティーはある。
で、マップシステムと連動して『物質転移』できるようになったので特にオッサンが現場に来る必要はないのだが、これも検証・練習の一つだ。
確かに奴隷解放のときに進入した館なら国境の仮神殿からでもマップ操作できるが、今晩回収するのはオッサンが割り当てられた奴隷商だけじゃない。神サマズが担当した奴隷商からも金を巻き上げる予定なのだ。なのでまだ行ったのことのない奴隷商には直接出向かないといけない。なら最初から転移魔法で回ろうと考えたわけだ。
やり方は直接出向いても同じ、マップを連動させてのアイテムボックス収納である。一枚一枚手で回収なんてやってやれない。必ず発見されて騒ぎが大きくなる。オッサンの仕業だとバレたら間違いなく指名手配だ。ヤバイのはジャマーン帝国内だけではない。犯人引渡し請求とかで外国にも知られてしまうとオッサン行き場をなくしてしまう。それだけではない。手口からオッサンのチート能力もバレる恐れがある。そうなったらツミだ。なので『隠微結界』は必須。しかも人間がやったとは思えないようにしなければならない。神サマズに啖呵切ったけど、泥を被ってもらおう。
さて、一軒目回収完了。目出度くオッサンの罪状が増えた。
成果は、アイテムボックスの表示によると金貨にして千枚以上あった。隠し金庫には大金貨もあったから奴隷商って儲かるんだなあと思った。そりゃそうか。大部分が誘拐されてきたとしたら経費は人件費(誘拐犯)だけで済むようなものだ。もしこの商人も国に命じられてやっているだけで実情資金がカツカツとかだったらこれからの方針を見直そうとしていたのだが、うん、オッサンの仄かな罪悪感が吹き飛んだ。どんどん回収してやろう!
帝都には大きいのから小さいのまで、何と20軒余りの奴隷商があった。とんでもない国だ。国公認だから堂々と営業してやがる。
今夜は帝都内の奴隷商を回るだけで精一杯だった。今にも死にそうな奴隷たちは神サマズが助け出したはずだから、これ以上焦る必要はないだろう。のんびりとはしていられないが。続きは明日にしよう。
「戻ったか、タケシ」
国境の仮神殿に転移で戻ると創造神の爺さんが出迎えてくれた。
「ああ、奴隷だった人たちの様子はどうだ?」
気になっていることを聞いてみる。
「皆寝ておる。『精神安定』の魔法を掛けておるから魘されることもあるまい」
「そうか、よかった」
「お主も休むが良い。あとはワシらが見ていてやろう」
「ああ、頼む。何だか悪いな、神サマにそんなマネさせて……」
「フォッフォッフォ。何を今更」
「ハハ。そうだな。確かに今更だな」
奴隷という存在を実際に目にして、ラノベがどうのとかファンタジーがどうのとか気楽でいられなくなったせいかもしれない。
私も『精神安定』の魔法がほしいところだ。
今日は神サマの言うとおりもう休んだ方が良い。
家主(創造神サマ)に就寝することを伝え、与えられていた部屋に向かった。
セーラは……よかった。ちゃんと寝ている。起こしてしまうこともなかった。両脇で寝ていたスコルとハティが一瞬こっちを見たが、侵入者が私だとわかっているようですぐに眠りに付いたようだ。流石はボディーガード兼抱き枕。ちょっとセーラが羨ましくなったのは秘密である。
私もセーラの横で眠りに付く(超キングサイズだ)。明日も色々しなければならないことがあるだろう。夢の中でくらいはのんびりしたいものだ。
一夜明けて。
結局夢も見ないほどぐっすり眠れた。おかげで頭もスッキリ。
「すげーな、おい」
毎朝恒例のシュレ神社詣でを済ませた後、元奴隷たちの様子を見ようとしてビックリ。アパート群周りのチビ妖精謹製果樹園がとんでもないことになっていた。話には聞いていたが本当に一晩で大豊作だ。
「ふふ~ん! どう? これがアタシの実力よ!」
空中で踏ん反りかえるチビ妖精。はいはい、すごいすごい。
ただ、起き出してきた元奴隷たちも大半は呆然としているようだ。昨日ここに連れてこられた時は周りに気を配るどころではなかっただろうが、監禁されていた間にまともな食事ができるわけがない彼らがたわわに実る果実に気付かないはずがない。一晩でできた奇跡だとでも思っているのだろう。『神託』で説明があったはずだからな。
しかし、誰も食べようとしないな……
「もう、しょうがないわね~」
オッサンの心を読んだわけでもなかろうが、そんな発言の後チビ妖精が姿を消した。
と思ったら果実がひとつフワリフワリと果樹の枝から浮かび上がった。そして元奴隷さんの一人の手元にゆっくりと移動していく。チビ妖精が抱えて飛んでるのか? それともテレキネシス的なスキルか?
あ、元奴隷さん、果実受け取って跪いちゃった。チビ妖精の『神託』でも聞いたのかな。ま、これで皆も安心? して食べられるようになるだろ。
オッサンたちも朝飯にするか。
セーラも起きてきて仮神殿の食堂みたいなところで朝食にする。メニューは、セーラには悪いが昨日と同じ、町で仕入れた出来合いのスープとパンだ。チビ妖精からフルーツのお裾分けがあったから少しは豪華になっただろう。
「今日はどうするのじゃ?」
食べ終わってからは神サマ会議。
「うん、昨日の今日じゃどこの国も受け入れ態勢は整ってないだろうから、とりあえず国境の街に少しずつ被害者たちを集めておこうか。平行作業でメンタルケアと被害者たちの聞き取り調査を神サマたちにお願いしたいんだ。俺は引き続き奴隷商の資金を回収してくる」
「聞き取り調査とは、何をじゃ?」
「大まかに三つだな。帰る場所があるかどうか。中には村ごと襲われたなんて場合もあるだろうけど、もし帰る場所があるんなら早く返した方がいいんじゃないか? ああ、その場所が現時点でちゃんと機能しているかも神サマの力で調べてくれたらなおいい。自分が捕まった後滅びてた、なんてこともあるかもだし。そん時のメンタルケアもよろしくな。
二つ目は、これから各国に預かってもらうとして、どうしても『ヒューマン』のいる国はイヤだって言う子もいるかもしれない。その確認だな。
それから、これはできればでいいんだが、精神的に安定している人たちにこれから新たに助け出してくる奴隷たちの世話を頼めないかね? 俺も神サマたちも顔を出すわけには行かないし、一々『神託』で指示するのも大袈裟すぎるだろ?」
「なるほど、わかった」
オッサンの我が侭で始めたことだ。神サマズには悪いが好きにやらせてもらうし、手伝ってももらう。
幸い創造神の爺さんは承諾してくれた。脳筋の獣神もバトルではないのに付き合ってくれる。ありがたいが、報酬としてオッサンとのタイマンを申し込むのはやめてほしい。
あと細かいことでは、現在もジャマーン帝国内で奴隷となっている『亜人』たちの中で体調の悪い順に救い出すことも頼んだ。その判断は神サマズに任せることに。一応奴隷の購入者は『善意の第三者』ということで対価は払う(そのための奴隷商からの資金回収)つもりだが、奴隷に対する待遇で金額を調整してもらうことも頼む。爺さんによると『神の目』で元の購入金額と使用期間もわかるということなので簡単だそうだ。やっぱりすごいな、そのスキル。
セーラはお留守番。
仮神殿の結界内でスコルとハティと遊びながらチビ妖精に魔法を教えてもらう。オッサンは頑張ってお願いしたよ。
さて、涙目の娘の姿には後ろ髪引かれるが、お仕事に行って来ますか!




