13 ようこそ! 国境の街(仮)へ!
「あれ? な、なあ爺さん、ここに木なんて生えてたっけ?」
オッサンはまだ老化しきっていない脳みそをフル回転させて記憶を探った。
確か、この国境付近は荒地と草原が混在していて、樹木は、有っても精々1メートル以下の藪くらいだったはず。
しかし、一仕事終わって、ふと周りを見渡してみるとアパート群が緑で囲まれていたのだ。石造りの建物よりは低く、2,3メートルほどの木がそこら中に生えている。森というには規則正しすぎる。どれもアパートの入り口や採光の邪魔にならない程度に距離を取っているのだ。
「なによ~? 異世界人が食べ物を何とかしてって言うからがんばったのに~」
オッサンの疑問に答えたのは創造神の爺さんではなく、セーラと魔物を回収に出かけていたチビ妖精であった。
つまり、
「パパ、ただいま! あのね、あのね! セーラい~っぱい、まものさんもってきたの!」
巨大モフモフに跨った愛娘が両手を広げて成果をアピールしている。そのゼスチャーのせいで体勢が崩れ落ちそうになっているのがまた堪らん。決して下卑た劣情ではない! 庇護欲だ! 父の愛なのだ!
「そうか~。偉いぞ、セーラ」
「フォッフォッフォ。セーラちゃんや、持ってきた魔物はジイの創った保管庫に入れておこうかの」
「うん! わかった!」
「フォッフォッフォ。セーラちゃんはいい子じゃのう」
「えへへへ。パパ! セーラ、おじいちゃんがいいこだって!」
「ちょっと~。アタシが魔法教えたんですけど~」
セーラの師匠を自称するチビ妖精が不満顔である。ちっ、どいつもこいつも父娘の触れ合いの邪魔をしやがって。
「どうでもいいが、この森みたいなのは何だ?」
「は? だから、食べ物だって言ったじゃない」
「食べ物……あ、そうか、果樹園みたいなもんか」
「そうよ~。明日には実が成るわよ~」
違法奴隷を助け出した後、各国に預かってもらうまでオッサンたちで保護するつもりなのだが、寝泊りするところと食料が問題になる。そこで創造神の爺さんがアパート群を創り出し、獣神が魔物を食料とすることを提案したのだが、肉だけでは栄養が偏るかと心配したのか、チビ妖精が魔法で果樹園を創りだした、ということらしい。
後で聞いたのだが、当然創造神の爺さんも果樹園くらい創り出せるのだが、チビ妖精はこのナリでも『森の神』であり、『森魔法』とかいう如何にもエルフが得意そうな魔法を使えるのだそうだ。流石ファンタジー。この世界では砂漠化や自然破壊などの問題は起きなさそうだ。逆に『魔物の巣』など人間の生存圏が脅かされている問題が大きそうである。
「そりゃ助かる。あ、ところで爺さん、保管庫ってのは?」
「あの建物じゃ。いちいちワシらが手渡しするわけにもいかんじゃろ? あそこに入れておけば腐ることはないからの、解体は各自でしてもらおうかの」
ほ~。オッサンのアイテムボックスと同じ時間停止か状態維持の魔法かな? 至れり尽くせりだな。
あ、爺さんの話で一つ思いついたことがある。
同じく魔物回収から戻ってきた竜神様や獣神たちとともにアパート群の近くに建てられた外観も倉庫そのものの保管庫とやらで荷降ろしをしながら聞いてみた。ドサドサ。
「なあ、爺さん。違法奴隷の人たちを助ける時って姿隠したままでできるかな?」
日本からやってきた異世界人ゆえ、テンプレである違法奴隷、しかも亜人を標的にしたものなんて見過ごすことはできない。だから奴隷解放は決定事項だ。シュレのお墨付きとこちらの神サマの了解もある。
しかし、オッサン自身が目立ってしまうのは勘弁してほしい。勿論オッサンの我が侭で贅沢なことを言っているのは自覚している。もしオッサンが学生でクラス集団召喚されていたとしたら、きっと勘違い勇者候補の同級生に『偽善者め!』とか『最後まで責任を取るべきだ!』とか言われているかもしれない。
だが、それも含めてアカシックさんに自由に生きてよいと言われているのだ。オッサンは勝手にやらせてもらおう。
と言うことで、違法奴隷の救出作戦は完全に正体を現さないことにしたい。
「お主の好きにしたらいい。管理神様からもそのように言われておるのじゃろ?」
創造神サマからも許可が出ました。
早速打ち合わせです。三度テーブルの出番。
参加者は今回は漫遊記メンバー全員。流石に対象者の数が多すぎる。洗脳の魔道具は精々数十個だったが奴隷は万を越えるのだ。
助け出す奴隷は違法に奴隷された者のみ。オッサンはこちらの世界に来てまだ二週間というところだ。何が『違法』で何が『合法』かなどわからない。奴隷制度自体は地球にもあったし、刑罰として『犯罪奴隷』や『借金奴隷』の制度があるとしたらその制度まで声高に批判するつもりはない。しかし、人種差別を理由に奴隷狩りをしたり、濡れ衣を着せて犯罪奴隷に仕立て上げたり、罠に嵌めて借金塗れにして奴隷にしたりするやり方は単純に腹が立つ。
なので、神サマチートで選別してもらうことにした。オッサンのスーパーケータイのマップでもできそうだが、言ったように数が多すぎる。ここは素直に任せよう。
そして、夕飯を食べた後なのだが、まだ明るいので今日中に第一陣を攫って……助け出す予定だ。対象は奴隷商人のところからまだ売り払われていない人たち。それから命の危機に陥っている奴隷たちだ。最優先事項である。
神サマズが瞑想みたいなことをすると、あっという間に情報が集まった。オッサンも数件の奴隷商の位置を教えてもらう。
「さて、行くか」
「パパ! セーラも!」
「う~ん、そうだな、セーラはスコルと待っててほしいんだけどなあ」
娘の教育に悪影響が出そうなミッションその2だ。しかも魔物退治とはベクトルが違う。人間の闇の部分に触れることになる。無いとは思うが、セーラが人間に絶望して『邪神』として復活してしまうなんてイベント発生は勘弁してほしいし。
「タケシよ。連れて行ってやればよい。人間には闇の部分があることも学べ、そしてそれを救おうとする父の姿も見ることになろう。絶望などするわけあるまいよ」
何だよ、人の心を覗いたような的確なアドバイスは。思わず感動しそうになったじゃないかよ。
「……わかった。セーラ、これから行くところは可愛そうなヒトがたくさんいるから、セーラが助けてやろうな」
「うん! セーラたすける!」
オッサンは健気な愛娘を抱き上げ、マップに従い転移した。無論『結界』と『隠微』は忘れていない。ちなみにスコルとハティは、爺さんが創った神殿(隠微結界付き)で留守番である。
「ここか……セーラ、これからはできるだけ声を出さないようにな。怖くなったらスコルたちのところで待ってていいから」
「セーラ、だいじょうぶだもん」
「よし、わかった」
オッサンたちは今ジャマーン帝国の都にある奴隷商の館の屋根の上にいる。
スーパーケータイのマップだが、ストリー○ビューは公共の場所かオッサンが行ったことのある場所しか映らない仕様だ。オッサンは聖人君子じゃないのでブレーキとして好ましい機能なのだが、実は抜け穴がある。
「結界!」
そう、自分ごと結界で建物を一瞬でも包み込むと、オッサン自身が行ったことがあると判定され、ストリー○ビューで建物内部も確認できるのだ。アカシックさんが教えてくれたので間違いないし、緊急時は遠慮なく使えるぜ。
「奴隷の数は……よし、情報どおり。セーラ、また転移するぞ」
「うん!」
オッサンが担当したのは奴隷商でまだ売られていないヒトたち。それも亜人の違法奴隷しか扱っていない商人のところをピックアップしてもらった。数が数なのでその場で選別の必要が無く、全員攫って来ればいいだけのお仕事である。しかも、おそらく捕まったばかりなので被害者の疲弊度も少ないだろうということも加味されている。
オッサンが転移した先には牢があった。創造神の爺さんがイズミちゃんに閉じ込められてた豪華な座敷牢などではなく、刑事ドラマに出てきそうな犯罪者を詰め込んでおくためのザ・牢屋、である。
オッサンはまず牢屋全体に『防音』の結界を張った。見張り役はいなかったが、いてもどうにでもなる。
次はテンプレである『奴隷の首輪』の処理である。複雑な付与魔術が施されているが、今日の午後習得した『物質転送』を使えば、はい、あっさりとアイテムボックスに回収できました。奴隷の、いや、元奴隷のエルフさんもまだ気付いていない手際である。
この奴隷商には獣人、エルフなど二十八人が捕まっていたが、一人一人首輪を回収していくうち彼らも異変に気が付いたようだ。オッサンの姿は見えてないので大騒ぎになることはなかったが、防音結界が無かったら店の人間にバレていたかもしれない。まあ、それでも構わないが。
最後に回復魔法を掛ける。
重傷者はいないようだが、捕まった時に抵抗してできたのだろうか、ほとんどの被害者がどこかしら怪我をしている。それに数日こんなところに閉じ込められて不調にならないわけが無い。
首輪が外れた上、突然怪我が治ったことで元奴隷たちは戸惑っていた。中には『神の奇跡だ』と核心を突いて歓喜の涙を流す者もいたが、惜しい、それは他所の奴隷商で起こってることだ。ここは只のオッサンの我が侭なだけだよ。
後は、脱出するのみ。これも今日習得した『結界転移』が早速役に立った。
「外だ! 自由になれたぞ!」
「神様! ありがとう!」
アパート群保管庫前に転移すると、既に神サマズが何十人か助け出してきていたようだ。流石本職、仕事が速い。
元奴隷たち、多くは若い女性だったが、獣人同士、エルフ同士、或いは異種族同士で抱き合って涙を流していた。
「パパ。おねえちゃんたち、たすかってよかったね」
「ああ、そうだな」
ウチのセーラちゃんはどうやら暗黒面に堕ちることはなさそうです。
「ようこそ、自由の世界へ」
オッサンは思わず口にしてしまったが、結界があるため姿も見えず、声も聞こえていない。
祝福してやるのは神様の仕事だろう。




