11 オッサン、座っていただけ2
『ジャマーンの民よ。ワシは創造神オールディン。今全ての民草の心に語りかけておる。心して聞くがよい』
創造神による宣託が始まった。
当の本人(神)はオッサンの前でのんびりと座っている。お茶でも出そうか?
神様パワーでオッサンにも『神託』が聞こえるようにしてもらっているのだが、そうだな、アカシックさんと話している感じだ。オッサンは慣れたといえば慣れたが、普通の人はビックリするんじゃないか?
『今この国が戦を始めようとしておる。本来人同士の争いなど神からすれば子供の喧嘩にすぎぬゆえ手出しすることはなかったが、此度の戦は話が違う』
一方的な語り掛けなので爺さんの念話での口調はゆっくりとしたものであった。
「神託って、もっと抽象的でわかりにくいもんだと思ってたんだが……」
「時と場合によるのじゃよ」
独り言のつもりだったが、爺さんが答えてくれた。あれ? 託宣中じゃ……『並列思考』とかのスキルかな?
その推測が正しいとでも言わんばかりに託宣は継続中である。
『数日前魔族の国を含む各国の王に神託を下した。ある理由で世界の状態が不安定になっており、混乱が起こる恐れがあったのじゃ。そこで王達に軽々しく騒ぎ立てて戦争など起こすなと伝えたのじゃが、残念ながらこの国の王、皇帝じゃったか、その者は神の言葉を信じず、あまつさえ隣国に攻め込もうとしておる』
全国民への神託だからか、爺さんはこれまでの経緯を大雑把に説明していた。確かにたった数日で戦争の情報が国民の末端にまで届くわけがない。
しかし、前回の神託が無視されたのは脳筋獣神が挑発気味だったからだと思うのだが、そのことには触れないのだろうか?
『……前回の神託はワシの部下が簡単に下しただけじゃし、その件は不問にするが……』
わお。オッサンが訝しげな目で見ていたら、爺さんが上から目線ながらも言い訳しちゃった。神託って自由だな!
『じゃ、じゃが! 二度目はない! 速やかに戦支度を解き日常の生活に戻るがよい』
念話なのに噛んだ? 逆に器用だな、おい。
「お主、ワシは託宣中なのじゃから邪魔をするではない」
「俺は何も言ってないだろ?」
創造神サマがヒドイ。濡れ衣である。ヘーへー、わかりました。黙ってます。
『……それからじゃが、見過ごせぬことがもう一つある。確かに人種にはそれぞれ違いがあるじゃろうが、ワシは神として人種に優劣を付けた覚えはないぞ。ヒューマン種だけに加護を与えているわけでないからの。誰に唆されたのかは覚えがあるじゃろうが、煽て上げられて多種族を見下しているとワシは加護を取り上げるかもしれんぞ。神罰が下ることもあるやもしれんのう』
黒い! 言い方が怖い! 同じような内容なのに脳筋獣神とは一味違う。流石年の功?
それよりも民衆の反応が気になる。実は戦争自体に関してはオッサン忌避感はない。どっちかって言うと理由や影響が問題だと思う。始まる前も終わった後もネチネチドロドロしているような関係は好きじゃない。
「爺さん、終わったのか? 反応はどうだ? 戦争は回避できそうか?」
「うむ。民衆レベルではワシの話を信じている者が多いからの。じゃが、皇帝は納得しておらぬようじゃ。今回も偽物じゃと決め付けておる。声に乗せた『神気』が足りなかったかのう」
「……じゃあ、どうする?」
「仕方あるまい。今回は特別じゃ。ワシとアニマで皇帝の前に降臨するとしようかの」
「え? マジで?」
「うむ。前回の神託がアニマで、創造神たるワシの指示だったとわかれば誤解も解けよう。なに、神気を直接ぶつければ只の人間に抵抗などできんよ」
だんだんゴリゴリの力押しにシフトしてきたな。まあ、そっちの方が楽なんだろうけど。
「……なら、少しは変装したほうがいいぞ。これからも人間界をうろつきたかったらな」
「そうじゃな。アニマは元の姿になればよいし、ワシは神気で顔を覆うし、大丈夫じゃろ」
元の姿って、ライオン丸か。じゃあ、バレないかな?
早速とばかりに爺さんと脳筋は姿を消した。竜神様は座ったままの姿勢を崩さない。
「……竜神様は行かなくていいんですか?」
「……私は近隣諸国の王に解放奴隷の保護を依頼交渉しているところだ」
おお、まさかのマルチタスクでした。まあ神様なのだから竜神様も『並列思考』のスキルは持っているのだろうケド、となると、この場で残る一柱のチビ妖精が仕事をしていないことが気になるが、竜神様は交渉と言っている。たぶんチビ妖精にはインポッシブルなミッションなのだろう。
「交渉というと?」
「基本は連合国の元いた集落に戻すことになるが、集落が壊滅していた場合などは一時的にどこかに保護してもらわなければならない。それを只で引き受けろというのはお互い角が立つ。そこで依頼者として一人保護するにつき竜の鱗何枚かで手を打ってもらうつもりだ」
「うろこ? まさか竜神様の?」
「いや、眷族たちの物だ。これまで剥がれ落ちる度に、人間の手に渡ると余計な騒ぎが起きかねんのでなるべく回収していたのだが、この際使おうと思ったのだ」
おお。竜神様のでなくてもドラゴンの鱗はファンタジー武器の定番。そりゃ喜んで引き受けるだろうな。交渉中というのは枚数の引き上げをしている王や領主などがいるということだろうか? 神様相手によくできるな。ガメツイというかしっかりしているというか、たぶんその前に疚しさがないからなんだろうか? バルハラやジャマーンの根拠のない自信に比べれば好意が持てるというものだ。
「帰ったぞ」
竜神様に交渉状況を詳しく聞こうと思ったら爺さんと脳筋が姿を現した。
「早いな! で、うまくいったのか?」
「当たり前だ。あの皇帝、地べたに這い蹲って謝ってきたぜ。根性のねえヤツだ。おかげで神罰を食らわせられなかったぜ」
そう答えたのは脳筋獣神。やめなさい、物騒なこと言うのは。それに皇帝さんとやらは洗脳されてたんだろ? 神罰はそいつが素で性悪だった時のために残しとこうぜ。
「そんなわけじゃ。で、どうじゃ? 受け入れ先との交渉は」
「もう少しお待ちを。あと一国、鱗十一枚で納得しそうです」
十一枚とか細かく刻んできたな。アレか? 神様と王様で『もう一声!』とか『持ってけ泥棒!』とか掛け合いでもしてるのか? ちょっと見てみたい。
「終わりました。バルハラとジャマーンを除く西大陸の五カ国、それから魔王にこの度の一件を簡単に説明して解放奴隷の一時保護を受け入れさせました。なお魔王は人間の暴走に備えて軍備を強調したいということなので鱗を一人に付き十一枚まで与えることになりました」
スゲー。竜神様って交渉人としてでだけでなく秘書としても一流だな。
「お主に任せる。さてタケシ殿、これで良いかな?」
「ああ。流石神サマとしか言えないな」
ホントはシュレのクエストも終わったことだし、神サマとかに関わらずに静かに暮らしたいところなんだが、前回のイズミちゃんの一件と繋がりがあるので最後まで見届けたいという気持ちもある。仕方がないので付き合おう。
「では次の仕事に移るとするかの」
「それなんだが、具体的にはどうする? いくら王様たちが受け入れを承諾したといっても今すぐ送りつけるわけにもいかないだろ?」
「ふむ。向こうの準備が整うまではワシらが預かることになるのかの……」
奴隷の皆さん、行き当たりばったりの計画ですみません。どうやらこちらも準備に時間がかかりそうです。




