10 オッサン、座ってただけ。
ちょっと遅れました。
ブクマありがとうございます。
神サマ会議で大まかな方針は決まった。
残るは実務に関してだ。
やること
1、洗脳の魔道具の効果書き換え。
2、創造神による全国民への神託。
3、不当な奴隷の解放。
4、バルハラ神聖教国の狙いについての把握。
まあ、こんなところだろう。しかし、神サマズがいくらリアルチートだからといって物理的な手間がかかる。はっきり言って人手が足りない。アカシックさんレベルだったら世界の設定ごと書き換えられそうだが、それでは新たな平行世界が誕生する可能性もある。地道にやらねばならない。
特に1、についてだが、魔道具がジャマーン帝国の各教会に設置されているため虱潰しに作業をこなさなければならない。帝国を名乗るだけあって貴族はいるが独立した領地はなく各街に代官みたいな役人が派遣されているという中央集権国家だ。だからなのか教会の数も多い。ホント小さな街にも必ず教会があるんだよ。大きな街には二軒以上教会があるし、あ、これって洗脳マシーンに効果範囲があってそれを基準にして教会が建てられていったんじゃね? 信仰はどこに行った……
2、については楽勝だ。一人に『神託』するのも大勢にするのも同じだろう。ただ、作戦としてバルハラの工作員たちには聞かせたくないので選り分けが必要だ。ま、オッサンのケータイでもできるんだから神サマにとっては問題ないだろう。
もう一つある懸念は、脳筋獣神が暴言気味に下した前回の『神託』についてだ。聞いているのは皇帝と側近だけなのだが、違う声で新たな神託が下されたとしてすぐに信じられるだろうか。個別に獣神の再出演も視野に入れられている。最悪神サマズが'降臨'しなければならない事態になるかも。
3、についてはオッサンの意見が通った。これには脳筋獣神も全面的に賛成。初めて意見が合った気がする。
奴隷制度が社会を成立させているとか、経済効果が、とか今回は関係ない。『ムカついたからやった、反省も後悔もない』そんな気分なのだ。文句があるなら洗脳が解けてからにしてほしい。そうすれば単なる主義主張のぶつかり合いだ。戦争でも何でもすればいい。
但し問題は山積みである。解放自体は力づくでもできるがその後が面倒なのである。受け入れ先はあるのか、食料はどうするのか、そんな政治的経済的な問題が出てくる。それに元『所持者』への保証も考えなければならない。いくら全国民が洗脳されていたからといって実際に『買い取った』のだから只で取り上げるわけにもいかない。善意の第三者というヤツで法的な問題である。『違法だから没収』というのは現代日本人の感覚で、今のジャマーン帝国では合法なのだろう。それに、もし無理に取り上げても、奴隷を捕まえて売った側の人間には痛痒を感じさせることができない。損をするのは現所持者だけなのだ。
ということで3、の問題は段階的に進めることに。
まず受け入れ先として連合国、ババロア王国、フランシスカ王国、魔族の国が候補に。『神託』しておけば少数ずつなら大丈夫だろうということだ。魔族の国は遠すぎる気もするが分散した方が各国の負担も少ない。なら帝国と教国以外で種族差別の少ない国すべてに頼めばいいじゃん、って言ったらそれが採用された。それでいいのか? 神サマズ。
で、捕まって間もない、まだ売られていない奴隷の人たちから順に解放する。解放といっても神サマズによる強制転移で、勿論奴隷商人に保証などしない。あとは既に売られた奴隷たちの中で特に待遇が悪い、虐待を受けている場合も強制解放の対象になることが話し合われた。困るのは基準だ。奴隷に対する待遇って、人種差別が蔓延っているこの国では全く期待できない。いきなり全奴隷が対象になりそうである。まあ、最初は死に掛けている人たちを中心に助けていこう。
そして、4、についてだが、私がこの世界で安心して暮らすために対決しなければならない組織である。日本にいたときには一般人中の一般人だったし、『長いものには巻かれろ』の精神で、巨悪がどうのとか必要悪がどうのだのには関わりすらなかったのだが、この世界では只でさえ『異世界人』『勇者候補』として特別視されている身だ、幸い大国の国王であるシャルさんはかなり話のわかる人だったが、甘っちょろい日本的ナアナア精神では食いものにされるのがオチである。シュレからもらったチートと現地の神サマとのコネを精一杯利用して安定した生活を手に入れなければならない。
そのために私を既に『異端』と決め付けているバルハラ教とは話を付ける必要がある。話だけで済めば御の字だが。
「さて、話もまとまったところで、早速行動してもらおうか」
「既に動いておるよ」
「へ? いや、だって……」
思わず間抜けな声が漏れたオッサンだった。神サマズ(創造神、竜神様、脳筋)はテーブルに着いたまま、チビ妖精にも目を向けてみたがセーラたちと遊んでいる。この状態で行動していると言われても意味がわからない。
「ホッホッホ、ワシらが直々に動く必要もあるまい。魔道具の書き換えなど部下に任せれば良いだけじゃ」
「部下? そんなのいたか? つーかいつ連絡したんだよ!」
「む? 何を不思議がっとる。確かに管理神様に比べれば天と地じゃろうが、これでも一応神なのじゃぞ」
「あー……これは失礼しました……」
聞いてみるとこの世界の神サマたちには、オッサンが予想したとおり、というかテンプレどおり眷属神と呼ばれる部下がいるそうだ。そういえばオッサンが事故で死なせてしまった海竜さんは竜神様の眷属だって聞いたっけ。あ、イズミちゃんが使役してた天使みたいな人形も眷属か。
そういう下級神とでも呼べる存在を爺さんたちは好きに呼び出して使役できるんだそうだ。今回みたいな物量&機械的作業にはもってこいで、念話スキルの類で指示だけ出していたということだ。
まあ、確かに脳筋とかチビ妖精とかが魔道具の書き換えなんてチマチマした仕事を大人しくこなしているイメージは少しも湧かないが。
こうなってくると俄然神サマたちの日常生活が気になってくる。
眷属の下級神って普段どこに住んでるんだ? 仕事して給料とか有るの? ご飯とか食べるの? 暇な時何してるの?
ちゃんと『設定』があるんだろうな。イメージできるのは妖精とかドラゴンみたいに野生の生活が似合う連中ぐらいだ。
さて実際はどうなのか、この機会に聞いておこうとオッサンが口を開きかけたとき、創造神の爺さんがこれまたとんでもないことを言い出した。
「お、終わったようじゃぞ」
「え? 何が……」
「魔道具の書き換えがじゃ」
「は?」
オッサンはそう反応するしかないだろう。オッサンがちょっと空想に浸っていた僅かな時間で面倒臭そうな作業その1が終わっただなんて。
「ほ、本当に終わったのか?」
「うむ。ちゃんとお主の希望通り『バルハラ教を疑え』と書き換えたぞ。ついでに『種族に優劣はない』ともな」
「じゃ、じゃあ、戦争は止まりそうか?」
「それだけでは無理じゃな。洗脳の魔道具とはいっても広く浅く思考を誘導するタイプじゃ。布教にはピッタリでも今回の場合は焼け石に水程度じゃな」
「なら、次の作戦で」
「うむ。バルハラの工作員を除き全国民に『神託』を、じゃな」
おお! ついに来た! これこそ神の御業。前回はオッサンも焦ってたからか、加えて神サマズの力を見縊っていたからか、神託の対象を各国首脳に限定しちゃったんだよな。それが今回の面倒のタネになるとは。失敗失敗。でもシュレも何も言わないし、いくら全権委任されたって只の人間には荷が重すぎるだろ。
「しかし、バルハラの人間を除外して本当に構わんのかの?」
「え? だってバレたら邪魔してくるかもしれないだろ? それに周りの雰囲気が変わっても事情を知らなければ疑心暗鬼になってボロを出すかもしれないしな」
「じゃが、洗脳効果はバルハラの人間にも与えられるのじゃぞ? こちら側に引き込めるかもしれぬではないか」
「え、そうなの? うーん、でもなあ、マジでガチの狂信者ってこともありえるからなあ……」
アレは怖い。誰が何を言っても自分が信じていること以外は受け入れない。それが狂信者のスタンダード。例え『神様』が目の前に降臨しても『悪神』『邪神』だと喚き、考えを改めないだろう。
そうなると神様パワーでマジ洗脳するしかないのだが、うーむ、神様陣営としてやっちゃいけないパターンだ。デストピア一直線。今回の作戦だってオッサン的には『神様にこんなコトさせて罰が当たらないだろうか?』とちょっと不安なのは内緒だ。
「うーん、今回は見送り、ってコトで。当初の作戦通りお願いします」
「お主がそう言うなら……」
「いやいや。今回のジャマーンの騒ぎはイレギュラーだけど、元々はイズミちゃん関連の問題の修正だったろ? それ以外は人間の王様たちに任せればいいんじゃない?」
「そうじゃったの。はぁ~。イズミは一体どこで何をしとるのか……」
「ん? わからないのか?」
「うむ。呼びかけても答えぬ。あれでも高位の神じゃからの……」
オッサンのケータイならたぶん居所ぐらいはわかるし、シュレは……知ってるけど教えないパターンだな。やめておこう。
「ま、まあ、ウチの管理神サマが大丈夫だって保障してるんだ。任せておこう」
「そ、そうじゃな。管理神様の仰せじであるからな」
「じゃ、じゃあ、『ご神託』お願いします」
「う、うむ」
シュレはよほど恐れられている。いや、『畏れられる』かな?
複雑な思いの中、オッサンには決してマネのできない、創造神によるジャマーン帝国全国民への『神託』が下される。
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