07 お願い! 神サマ!
「キサマ! 姫様に無礼であろう! 年寄りとて容赦はせんぞ!」
「オルコット、やめなさい!」
「姫様! しかしっ!」
「私はやめなさいと言ったのです」
「はっ!」
よくある、但し小説でしか見たことのない遣り取りだった。オッサンも読んでるときは『こういう騎士って忠誠心が足りないんじゃないの?』とか、『指示も受けずに勝手に行動するヤツを雇うんじゃねえよ!』とか思ってたんだが、実際に目にしてみると自然に思えた。そうだよねえ、人間、ロボットじゃないんだから、思わず感情に従うこともあるよねえ。
そう思い至って生暖かい目でオルコット君を見ていたら、また剣を突きつけられそうになった。失敗失敗。
「おっとっと。姫様、如何ですか? ウチのご隠居サマもこう申してますし、お聞かせ願えませんか?」
おら! キリキリ吐きやがれ! オッサンも気になってくるだろ!
「ですが……」
「遊びに行きたいとか買い物をしたいとか、どうでもいい理由じゃなくて、本当に一刻も争うような事情だって納得できたら万難を排して付き合いますよ?」
タバコを買いたいからという理由でバルハラ目指しているオッサンが偉そうなことを、というクレームは無視します。
「ご隠居様。ただいま戻りました」
お姫様が言うか言うまいか悩んでいると、突然現れた人物が。
なんちゃって。竜神様、魔物退治ご苦労様です。
「ガッハッハッ! いい運動になったぜ。おっ、異世界じ――」
脳筋獣神も戻ってきたが、オッサンを見たとたんNGワードを炸裂しようとしやがった。さっきの『口からカメハメ○』もそうだが、周りに人間がいることに気付いてないのか? どこまで脳筋なんだ! 首輪付けて奴隷にしてやろうか!
黒い思考に陥りそうなオッサンだが、とっさに防音結界を脳筋の周りに張って最後までは言わせなかった。オッサンが肉体派なら顔面パンチで口止めするのがセオリーなのだろうが、魔法の方が早くて効果的、その上発覚されづらいと来てる。ついでに空気も抜いてやれ。おお、ぶっ倒れた。神サマも肺呼吸なのか?
「えっ! ちょっ、アニ――」
予想通り獣神と一緒にいたチビ妖精が驚いて脳筋の名前を言いそうになったのでこちらも隔離。空気は……勘弁してやろう。妖精だから大丈夫かも知れんが何となく。
「じゅ、獣人……それに妖精? ご、ご隠居サマ、あなた方は一体……」
突然現れた、見た目ライオンの獣人と竜人族の二人。プラス(結界の中を)飛び回っている妖精。しかも数百か数千かの魔物を短時間で排除する力量の持ち主。怪しむなと言う方がおかしい。
姫様は、騎士たちもだが、警戒するような眼つきになった。おいおい、今更だなあ。
おっと、スコルとハティも戻ってきて一層警戒が強まった気がする。こんなに可愛いのにねえ。浄化、浄化っと。よし、これでモフモフも復活だ。ほら、セーラちゃん、しばらく三人で遊んでなさい。パパたちはムツカシイお話があるから。
「フォッフォッフォ。ただの隠居ジジイとその道楽に付き合ってもらっとる雇い人じゃよ。腕っ節は強いがの」
爺さん、その設定気に入ったのか? いいけど。
爺さんと竜神様は酸欠で伸びている脳筋のことを自業自得とばかりに見ていた。特にオッサンに対してのクレームはないようだな。
「奴隷……ではなさそうですわね。しかし、それが逆にバルハラ、いえ、その手前のジャマーン帝国では面倒なことになりますわよ」
お? 何か情報が。脳筋獣神の登場がフラグになった?
「『亜人差別』の話ですか? 聞いてます。しかし、この面子なら大丈夫だと思いますがね。それより、肝心なことは教えてもらっていませんが? それともなんですか? 獣人に警護はさせられない、とでも仰いますか? それなら話は早いんですが……」
オッサン、ちょっと意地悪だったかな?
「そ、そんな非道なこと言いませんわ! 少なくとも我が国では!」
姫様必死で訴えてくる。おーおー、オルコット君、睨まないで。剣もオッサンに向けないで!
「では、どうします? 教えてもらえなければここでお別れですね。連れも無事合流できましたし、魔物も片付きましたから」
「わ、わかりました! お、お教えします!」
「姫様! いけません!」
「オルコット、いいのです」
「しかし!」
「私がいいと言っているのです! オルコットの心配はわかりますが、もはやババロア一国の話ではないのです!」
「はっ! 申し訳ありません!」
どうしてもテンプレしなければ話が進まないようだ。これも『設定』さんの効果なのだろう。
「では、お聞きしましょう。ご隠居サマ、これでいいか?」
「うむ。王女殿、話が長くなりそうじゃな。座って話そうかの。ハチベエや、頼む」
「わかった」
オッサンはアイテムボックスから一畳くらいのサイズの、(爺さんにしては)趣味のいいテーブルセットを取り出す。旅の途中爺さんが片手間に『創り』出したものだが、これはこれで重宝している。旅が終わったあとでオッサンがもらう約束もした。家具は一揃い、足りないのは家そのものぐらいだ。そのうち『創って』もらおう。
「さあ、お姫様、どうぞ。あ、オルコット君も座るか? 結界張りなおすから安全だぞ」
テーブルセットを取り出して着席を促すと姫様が目を丸くしていた。あれ? アイテムボックスって珍しい? そんなはずはないと思うが……あとで確認しとこう。
姫様はオルコット君や侍女さんと話し合って、ついに馬車から地上に降り立った! お、中にいた侍女さんも出てきた。ああ、やっぱりメイドさんだ。『設定』さんめ、GJ!
オルコット君や、そんなに椅子やテーブルを調べたって何もないよ? あ、お姫様が座った。オルコット君は……ああ、メイドさんと一緒に姫様の後ろに立つのね。
オッサン? 気にしないで座るよ。何を今更。
そんなわけで爺さん、姫様、オッサンの三人がテーブルに着く。姫様と向かい合わせだ。竜神様? 護衛だから後ろに立ってるって。獣神? まだ伸びてる。チビ妖精? あ、忘れてた。結界を解除したらすごい勢いで文句を言ってきた。うるさい。
お話し合いがイヤならセーラちゃんと遊んでなさい。
「……では聞きましょうか。姫様、よろしいですね?」
「……ええ」
姫様の話はこうだった。
数日前『神託』が降りた。うん、知ってる。指示したのオッサンだから。言わないけど。
受けたのは姫様の父親である国王と宰相だったそうで、その内容は簡単に言うと『これから世界が混乱するが決して戦争を始めるな』というものだそうだ。うん、それも知ってる。
それだけなら話は簡単だ。元々戦争を起こしたいなんて思ってもないらしいし。魔族との戦争も距離的に直接参加しているわけではなく、義理で部隊を少数派遣しているだけなので引き上げさせれば問題ない。
困った問題が起きたのは三日後だという。突如隣国が、件のジャマーン帝国が宣戦布告したそうだ。相手はババロアでなく二国の東隣にある別の国・ユーグラシ連合国。この国、連合国とはいっても、獣人、エルフ、ドワーフなど『亜人』と呼ばれている人族が部族単位で暮らしている地域のことで、オッサンからしてみれば『へー、知らなかった。流石ファンタジー』という感想しかない。しかし、バルハラ神聖教国やジャマーン帝国は奴隷にするため度々襲撃しているとのこと。ムカッ! どうやら潰さなければならないのはバルハラだけではなかったようだ。
「一体何故このタイミングでこのような暴挙に出たのかわかりませんが、連合国から救援を求められましても『ご神託』のため私たちは『戦争』ができません。ですので『ご神託』の報告も合わせてフランシスカ王国に調停を願おうとしているのです。早くしなければ無用な犠牲が出ます。連合国からの恨みが増せば報復の戦争が起こるかもしれません。それでは『ご神託』に反することになります!」
オッサンたちが暢気に旅をしている間に色々と面倒なことが起こっているようだった。
「話はわかりました。前向きに検討しますので、席を外しても構いませんか?」
「どうぞ。期待していますわ」
「ありがとうございます。ご隠居サマ、来てくれ」
「ふむ。これもワシのせいかのう……」
オッサンたちはテーブルを離れ、脳筋獣神の倒れているところまで移動した。お姫様たちに話を聞かれないように再び結界を張る。そして回復魔法。
「おい、起きろ」
「ムガッ? あ、あっ! てめーっ! 何しやがる! ギャン! そ、創造神様?」
「いい加減黙りなさい」
目を覚ましたとたん、獣神はオッサンに噛み付いてきた(比喩)。そこを爺さんが世界樹の杖とやらで脳天を強打。痛そー。
「確かジャマーン帝国への『神託』はお前が担当したな」
『神託』の指示はオッサンがしたが、誰がどの国に、という割り振りまではしていない。幸い竜神様が覚えていた。感謝。なので竜神様が尋問担当に。怖そー。
「あ? いきなり何のことだ?」
「いいから『神託』で何と告げたか言え」
「何だってんだ。俺は言われたとおり『これから世界が混乱するが絶対戦争するんじゃねえ』って言ったぜ」
「ふむ……おかしいところはないようじゃのう」
そうだな。伝言ゲームのように捻じ曲がって伝えた、って可能性を考えたのだが……
「あ、そういや……」
なに? 脳筋の口から不吉な言葉が。
「何だ? 言え」
「あの国、獣人を舐めてるからよ、ついでに『今後獣人に手を出したらどうなるかわかってんだろうな』って釘刺しといたぜ。へっ!」
「……それだな……」
「ああ、そうじゃのう……」
「あ? どうかしましたかい? 創造神様」
「……おい、脳筋。それは『神託』じゃなくて、『挑発』って言うんだ。このアホっ!」
とある神サマが脳筋で困っています。誰か助けてください。




