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06 爺さん、合流。

 


「残念ですが、お断りします」


 フランシスカ王国とババロア王国その国境付近の草原でスタンピード級の魔物の群れに襲われていた馬車が一台。見つけてしまった以上見捨てることができなかった日本人気質のオッサン。

 犠牲はあったようだが介入後の人死にが出なかったことにホッとするも、ここでトラブルフラグが立った。


 馬車の中にいたのはこれから通過する予定のババロア王国の姫様。これだけでも面倒な相手だというのに更に護衛の仕事まで頼まれた。どうする、オッサン?


 どうするも何も、断った。


「キサマ! 姫様が頭を下げて頼んでいるにもかかわらず断るというのか!」


 オルコット君、回復したからなのかいきり立っています。てゆうか、頭は下げてなかったと思うぞ。


「まあ、落ち着け。言っているように俺には旅の連れがいる。俺が勝手に予定を変えるわけにはいかんだろ。この通り子連れでもあるしな。ほら、セーラ、お姫様にご挨拶」


「セーラです。パパのむすめです」


「おー、よくできました。えらいぞ、セーラ」


「うん! セーラいいこ!」


 オッサンは、抱えられたままの状態でお姫様に向かってペコリとお辞儀した愛娘にホッコリした気分になり、手放しで(比喩的)褒めた。

 その気分は周りにも伝わったようで、オルコット君もテンプレ的暴言は続かなかった。


「え、ええ。いい子ですね。セーラさん、私はエミリアと申します。よろしくね」


「うん! エミリアおねえちゃん!」


「お、おねえちゃん? ……なんでしょう……新鮮な響きでドキドキしてしまいますわ」


 おお、流石私の愛娘。この可愛さには王女サマも叶うまい。そりゃ神サマだって陥落したんだからな。


「ひ、姫様、如何いたしますか?」


「あ、そ、そうね」


 如何って、まさかオッサンを無礼討ち? そんなわけないと思いたいが……


「ハチベエさん。どうしても警護の件は引き受けてもらえませんか?」


 あ、そっちね。


「無理。というか面倒は御免ですね。そもそもそちらも旅を続けるのは無理でしょう。一度お国に戻って準備し直した方が良いのでは? あ、ババロア方面に戻るのでしたら警護は引き受けても構いませんよ?」


「だ、ダメですわ! 一刻を争う事情があるのです! なんとしてもフランシスカの王都に赴かわなくては」


「そうは言ってもですねえ、こちらにも予定というものがありましてねえ」


「そうですわ! お連れの方がいると仰いましたね? その方にもお願いしますので!」


 必死だなあ。これってアレか? 『神託』関連かな? なら判断は神サマズに任せるか。


「……確かに。連れがいいと言えば構いませんが……」


「そうですか! あ、でも、ここを乗り切らないと……」


 姫様、一気にトーンダウン。結界の方に目を向けて青い顔をしている。そりゃそうだ。魔物たちが引っ切り無しに結界を壊そうとしているからな。うわー、後ろから押されて潰れてるのもいる。ゴブリンかな? グロッ!


 あ、魔物が打ちあがった? あれは『汚え花火だな』ってやつか?


「お、噂をすれば……」


 オッサンが呟いたとたん目の前が真っ白になった。


「目がー! 目がー!」


 お姫様たち、フランシスカ方面に目を向けていた連中は大概そんなリアクションだった。


 結界内部には音も衝撃も伝わらないが、光だけは別なのだ。クソ! もっと結界の色を濃くしておくべきだったか! それにしても脳筋のヤロウ! ドラゴンでもないのにブレスの使用頻度高すぎる! ここに要救助者がいるってわかってんのか? 


「あ、安心してください! この結界は丈夫ですから! 今のは仲間の攻撃です! もうすぐこの辺の魔物は一掃されますから!」


 ようやく視界が正常になると、今まで結界の回りに集まっていた魔物たちの姿が消えていた。ついでに草原も荒地に変わっている。


「ほ、本当にキサマの仲間なんだろうな? ドラゴンでも現れたのでは……」


 あー、竜神様もいるから半分正解かな。魔物枠ではないが。


「大丈夫、大丈夫! ほら!」


 焼け野原になり視界が開けた彼方に三人の人影が見える。本当はもう一人チビ妖精がいるはずだが。お、竜神様と脳筋はまだ残りの魔物を片付けるようで右に左に走り回っている。爺さんはゆっくりと、そう見える動きでどんどんこちらに近づいてきている。


 幼女に老人。これが旅の連れだと言えばお姫様たちも無理な要求はしてこないだろう。


「そろそろ結界を解くぞ。一応周りには気を付けておけよ」


 爺さんの顔が判別できる距離になったところでオッサンはケータイを操作して馬車周りの結界を解除した。当然自分とセーラの分は張ったままであるが。騎士さんたちは緊張した面持ちで馬車の周りを固めた。


「うわーっ! 狼が!」


「あ! それは大丈夫だ! ウチの家族だ!」


 スコルとハティのこと忘れていたぜ。ゴメンゴメン。ま、もう少し魔物退治をがんばってもらおう。セーラを見つけ飛び掛ってきた二匹の頭を撫でて再び送り出した。こら、セーラはまだ撫でちゃダメ! あとで『浄化』魔法をかけてからな。


 しばらくして爺さんが馬車の近くまでやってくる。おや? チビ妖精がいない。獣神のところかな?


「おお、ハチベエ、間に合ったようじゃな」


「ああ、ご隠居さん。何とかここにいる人たちはな」


「……そうか。もう少し早く気付いておればのう……」


「……ご隠居サマのせいじゃないだろ」


 うーむ。先ほどと言ってることが違う。演技か? 乗っておくか。


「ハチベエさん。こちらの方がお仲間さんですか?」


 また馬車の中からお姫様が顔を覗かせる。


「ええ。とある商会のご隠居さんです。バルハラまで行くというので同行させてもらってます」


「バルハラ……確かに引き返させてしまうのも申し訳ありませんが……コホン。馬車の中から失礼いたしますわ。私はババロア王国第四王女・エミリアと申します。ハチベエさんには危ないところを助けていただき感謝しております」


「フォッフォッフォ。ワシは見ていただけのただの年寄りですぞ。礼を述べられることなどありませんぞ。おお、名乗りもせず申し訳ない。ワシはミツザエモン。小さな商会の隠居ジジイですじゃ」


「まあ、ご謙遜を。あれほど大量の魔物をいとも簡単に倒してしまうなんてよほど高名な冒険者を雇っていらっしゃるのですね。そんなご隠居サマに折り入ってお願いがあるのですが」


「何ですかのう?」


「はい。是非ともフランシスカ王国の王都まで私たちの護衛についていただきたいのです。勿論ご隠居サマは馬車に同乗されても構いませんわ」


「なるほどのう……」


 爺さんはオッサンに目を向ける。


「一応断ってはあるんだが……」


 オッサンはこれまでお姫様とした会話の内容を簡単に説明する。

 爺さんが旅しているのは、娘の『知性の神・イズミ』が引き起こした混乱がどんなものか自分の目で確かめるという目的もある。まあ、人間の振りをしているのは単純に興味からだろうが、どちらにしても明確な目的地などない。一応バルハラがイズミちゃんの暴走の影響が大きそうだというのとオッサンの買いタバコに付き合ってのことで、今引き返しても特に不利益はないはずだ。


 それに、オッサンの勘が当たっていれば、このお姫様、『神託』がらみの行動だ。爺さんだって気になるだろう。


「ふむ。王女殿、話によっては付き合ってやっても良いと思うのじゃが……」


「本当ですの?」


「大打撃を受けたにも関わらず城に引き返さず旅を続けようなどとよほどの事情があるのじゃろう。その事情、聞かせてもらえぬかの?」


 あ、姫様が固まった。オルコット君も剣を向けてくる。

 さて、どうなる?









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