04 オッサン、参戦?
「ギョガーッ!」
グシャッ。
「ブギーッ!」
ザシュッ。
「グモーンッ」
ブシュッ。
飛び交う咆哮、それに紛れ聞こえてくる謎のオノマトペ。そして飛び散る血飛沫。
私は愛娘・セーラを抱えたまま呆然とその光景を眺めていた。勿論、セーラの目はしっかりと隠している。ここはどこの地獄だ。
「どうしたどうした! 温すぎるぞおっ!」
「アニマよ。口を開く暇があれば手を動かせ」
「はんっ! 口からでも攻撃できらあっ! くらいやがれっ! 極大獣咆哮っ! ガオオオオンンンッ!!」
スケさんカクさんこと竜神様と獣神サマ、ノリノリで魔物を蹂躙してます。あ、竜神様は上司の指示に従ってるだけっぽいな。ところで獣神サマよ、そこは『薙ぎ払え!』がお約束でしょうが。今度指導してみよう。
しかし、嗾けたオッサンが言うのも何だが、神サマが地上の生物を殺しまくっていいんですかね? この一帯でプチ神の裁きが起こってるってことですか?
オッサンは特に魔物愛護精神があるわけではないのだが、食物連鎖のバランスだとか、一種族側に肩入れしすぎではないかとか、早い話オッサンがゲームバランスを崩させているような気がしてならない。
あ、アカシックさん。お久しぶりです。え? 気にしなくていい? その世界の神だから? 何をしようと自由? 自己責任でやれと。はあはあ、わかりました。すぐには無理でしょうが、なるべく気にしないようにします。
ところでアカシックさん、神サマのこととは関係ないかも知れませんがもう一つ気になることがあるんですが……あ、ありがとうございます。いえね、地球の、現代日本に生まれた、ただのフツーの教師だった私がですね、こんなグロ過ぎる場面に出くわして、単に『うわ、グロっ!』と思うだけで、それ以上はないんですよねえ。考えてみたら、フツーの日本人だったらリバースものなんですけど、私、ショックで逆におかしくなってるんでしょうか? しばらくしたら反動でトラウマになったりしませんか?
あ、アカシックさんが目をそらした。見えないけど、そんな感じ。
は? 『精神異常状態耐性』? 何ですか、その取って付けたような耐性スキルは? 大体私にそんなスキルはなかったでしょう?
は? サービス? 地球と価値観がかなり違うから耐性レベルを現地人並みに上げておいた? 平均だからステータスに特に反映しない? ……ホントですか?
いやいや、わかりましたよ。アカシックさんのことは信じてますって、ホントに。
じゃあ、ウチの子もこれくらいのグロ耐性はあるんですね? いいのか悪いのかわかりませんが……
「ハチベエよ。どうした、ぼうっとして」
「え? ああ、何でもない」
アカシックさんと念話? で話してたら爺さんにも気にされた。この世界じゃこんな場面はよくある光景なのだろう。だが私はもう少し踏み込んで聞いてみたくなった。今後も旅に同行するというのならばニンゲンの常識だけでなく神サマの考え方も知っておきたいと思ったからである。
「なあ、爺さん、魔物っていっても『創造神』が創ったんだろ? それを殺すってのは爺さん的にどう感じるんだ?」
「む? ……ふむ。人間から見るとそう感じるのかの。どうということはありゃせん。魔物は魔素から生まれる。死んでも魔素に戻りそのうちどこかでまた生まれるだけじゃ。そういう風に創ったのじゃ。
……と思っておったが、管理神様やお主の話からしてそういう『設定』なのじゃろう。ワシの心が痛まんのもそういうことではないかの。
ワシも『創られた』存在であると知らされた時は驚いたがのう」
「……」
ちょっとムツカシイお話になってませんか? これは聞いたオッサンが悪かった。
「そ、そうだ! もうかなり魔物は減っただろ? もう進めるんじゃないか?」
遣る瀬無い雰囲気に耐えられず話題を変える。
「あっ!」
「どうしたのじゃ?」
戦況を確認するためマップ機能で戦場を俯瞰していたら想定外のモノを発見した。馬車である。いや、何もない草原といっても国と国を結ぶ街道はあるので旅人が通るのは当然なのだが、何故選りにも選ってこのタイミングで?
「爺さん、この先に馬車が……」
「どれ? ふむ。襲われておるのう」
ご隠居サマ、ちょっと街道の先に目を向けるとポツリと実況報告する。神の目は千里眼でもあるようだ。
「……爺さん、落ち着いてるな……」
「神とは本来そういう存在なのじゃ。お主も創造神を継ぐのじゃから慣れたほうがよいぞ」
「……そういう話ではなくてな、どうしたらいい?」
「助けたければ助ければよい。見捨てるならそれでも構わん。どちらを選んでも、誰もお主を責める者はおらんぞ」
ドライっ! 創造神の爺さんってこんなキャラだっけ? いや、そんな感想は後回しだ!
「じゃあ、助けてやってくれよ」
「ワシが? やってもよいが、ワシは今人間の振りをしとるんじゃぞ? 年寄りのご隠居さんが魔物を薙ぎ倒すというのか?」
「それは……」
オッサンがネタとして出した設定が仇となってしまった!
「異世界人が行けばいいの! 強いんだから!」
ブンブン飛び回ってスケさんカクさんの無双振りを見物していたチビ妖精が口を挟む。
おい! 人がせっかく戦わなくていいように立ち回ってたのに、ズバッと核心突くんじゃねえよ!
……そうなんだよな、結局自分でやればいいんだよな。自己責任の世界なんだし。ただ、戦いなんてしたくないだけだ。やっぱりオッサンだからなのだろうか。『冒険』には憧れるが『バトル』展開は御免蒙るお年頃である。きっと勇者君の年代なら『ヒャッハー』するんだろうな。
おっと、『高速思考』での現実逃避はいかん。人が襲われているんだった。この状況、私に責任など欠片もないと断言できるが、バルハラの連中の仕業だとしたらオッサンが騒動のきっかけになったのは否めないこともないかもしれない、と思わざるを得ないこともなきにしもあらず……
要するにアレだ。巻き込んでスマン!
「……わかったよ。行って来る。そうだ。セーラ、パパはお仕事なんだけど、ここでお爺ちゃんと待っててくれるかな?」
目隠ししたまま抱えているセーラに聞いてみた。
「いやっ! パパといっしょ!」
今まで目隠しされたままでも大人しくしていたのはオッサンが抱っこしていたかららしい。父親冥利に尽きる話だが、さてどうしよう? 預かる気満々だった爺さんがセーラの発言を聞いて愕然としているけど、さっきの神サマとしての威厳はどこに行った?
あ、どうせ結界張ってあるし抱えたままでも大丈夫か。将来はセーラも親離れして『オヤジと一緒なんてダッセー』とか言うようになるんだろうか? 覚悟はしているけど今はなるべく一緒にいてやろう。なんて、にわかパパの癖に偉そうなこと考えてしまいました。
「よし! じゃあ、一緒に行くか。しっかり掴まってろよ」
「うん!」
「せ、セーラちゃんや、爺も一緒に行くから、爺に抱っこさせてくれんかのう?」
「いや! パパがいい!」
おい、結局爺さんも行くのかよ。まあ、いい。これで安全間違いなしになった。
「行くぞ!」
オッサンは転移する。戦乱の真っ只中へ。




