03 だってハチベエだもん
バルハラ神聖教国を目指す旅、リスタートから五日目。
オッサンたちは早くもフランシスカ王国とその北側にある国・ババロア王国との国境に辿り着いていた。
ここまでの道中、特記事項はない。
移動ペースはリスタート初日より抑えたつもりだ。街道の移動中はともかく途中の宿場町ではゆっくりと町並みを見物し食事・休憩・宿泊などで時間を潰す。それでも、元々フランシスカの王都は国土の東側辺境に位置しているので北東の国境には割と近かったのだ。もしこちらの世界でも地球のように王都がパリの位置にあったならもっと遠かっただろう。
これは、シャルさんや宮廷魔術師の爺さんからちょろっと話を聞いたのだが、建国時西に版図は広がったものの、東の森を含むアルプス山脈の魔物の巣のせいで東側に国土を広げることはできなかったそうだ。当時国土中央に遷都する提案もあったそうだが、建国王はそれを良しとせず、自らが国の盾になることを望んだのだという。だから王都なのに辺境に位置しているのだ。歴代の王様はその精神を誇りとして受け継ぎ誰一人として遷都を認めていない。またそれが誇りとなるそうだ。ま、『設定』なのだが。ただ、そのおかげで国内の支持は勿論周辺国家からも感謝されているらしい。何度か大規模な魔物の氾濫、所謂スタンピードを王様自ら退けた実績もあるようだ。スゲー、シャルさんのご先祖様スゲー。
「パパ」
おっと、つい『高速思考』が発動してしまったぜ。
「なんだい? セーラ」
「どうしてセーラのめをかくしてるの?」
「あー、うん。どうしてだろうねえ?」
答えは『目の前で魔物を殺しまくっている神サマがいるから』です。私自身も目を瞑りたいぐらいだ。うわ、グロっ! スコルとハティもモコモコ巨大化して噛み付いたり爪を振るったりしている。既に返り血で染まっている。あとで念入りに浄化しなければ。こんな光景トラウマものだろ?
教師として純粋培養の教育はマズイと思うし、魔物がいて冒険者がいるファンタジー世界なのだから、こういう光景を見せることも教育なのではとも思うのだが、セーラも私もこの世界では新参者であり、もう少し慣れてからでいいのではないか、と問題を先送りにしたのである。
「ホッホッホッ。セーラちゃんや、心配せずともジイがついておるでの」
「そうよ! あんな魔物、アタシにかかれば一捻りなのよ!」
オッサンの隣にはご隠居こと創造神の爺さんとオギンさんことチビ妖精がいる。二人とも見学のようだ。特にチビ妖精、途中離脱してたくせに騒動を嗅ぎつけたらしい。お呼びでないっつうの!
先ほどフランシスカ王国建国時のことを考えていたのは目の前の状況から連想してしまったからである。
この世界、テンプレのファンタジー世界らしく地球でいう中世レベルなので、国や都市といっても広大な土地にポツリポツリと城塞都市が点在していてその周辺や街道沿いに農村があるという地理になっている。それ以外は荒野か森が広がっていて、国境といっても見渡す限りの草原である。ケータイのマップには国境線が引かれているのだが特に関所があるわけでもない。密入国し放題だ。まあ、他の国の都市に入る時には厳しい審査と入城税があるらしいので入国管理が杜撰というほどではないかもしれない。それに、オッサンがまだ行ったことのない国では違うかもしれないし。
それはともかく、オッサンたちが国境を越えようとしたところ、大量の魔物が湧いて出て来たのだ。
『スタンピード』。それは元々は牛などの家畜の群れが銃声などでパニックになり一斉に暴走を始めるという用語で、オッサンより古い人間ならアメリカの西部劇をイメージするのではないだろうか。
だが、昨今はファンタジー世界における魔物の大氾濫を指すことが主流だろう。これも時代の流れか。
そのお約束が目の前で起こっているのだ。
冒頭で特記事項はないと言ったが、別に嘘じゃない。あくまでも国境に至るまでの話だ。
「情報どおりでしたねえ、ご隠居サマ」
「うむ。通常は干渉するつもりはないが、このタイミングじゃ。娘が関わっていた可能性もある。ワシらで片付けておいた方がいいじゃろ」
そしてオッサンは見学に徹するのであった。
実はこの状況前もってわかっていたためオッサンでもこんなに落ち着いていられるのだ。グロは我慢してる。
一つ前の城塞都市、なんとかという子爵の領地で、あの王宮メイド長さんの実家なのだそうだ。紹介状をもらっているが今のオッサンはタケシ・ハンムラではなく、『○っかりハチベエ』なのだ。よって軽くスルーするつもりだったが、旅の情報は最低限仕入れねばならないということで冒険者ギルド支部と出来合いの料理を手当たり次第買い込みつつ情報を集めたのだが、しばらく前から隣国・ババロア王国との国境辺りの魔物の数が急増中なんだとか。これはスタンピードの兆候ではないかとギルドの幹部連中は上に下に大騒ぎらしい。
オッサンとしては『ふ~ん』という感想しかない。何たって同行者が神サマズである。最強の用心棒だ。オッサンなんかステータスだけ異常に上がってても魔物の群れに突っ込もうなんて気持ちは全くありません。最悪転移で飛び越えて行けばいい。
だが、念のためマップで確認したところ、この街には結構な数のバルハラ神聖教国の工作員がいた。信者というだけでない。工作員なのだ。おそらく王都北の森で私のことを待ち受けていた連中なのだろう。一人二人だったならどこの世界にもあるような互いが互いをスパイしている外交問題と割り切ることもできたのだが、王都でもない地方都市にこれだけの数、帰還途中なのか新たに派遣されて来たのかはわからないが嫌な予感がした。
「なあ、ご隠居サマ。スタンピードとかって人為的に起こせるのか?」
街で買い物しながらラノベではよく起こる問題を聞いてみた。
「む? そうじゃの、できるじゃろな。高レベルのティムスキルがあるか、或いは魔物を引き寄せる薬を使えば……」
出たよ! それって『誘引香』とか『おびき寄せ香』とか定番アイテムだよね! 魔物のいる異世界には必ずあるんだろうか? あと、『忌避剤』もかな。
「じゃあ、今回のって、原因わかるか?」
「アニマ……カクさんなら臭いでわかるじゃろう。ティムされているかどうかは『鑑定』でわかる。無論ワシらには『神の目』があるしの」
そうですか、脳筋の獣神サマは警察犬並みでしたか。すごく納得できます。
「ああ、なるほど。で、もし人為的なものだったら……」
「うむ。これはワシにも責任があるじゃろうな。『神託』が無視されたか全体にまで連絡が付いてないのじゃろう」
「そういえば街も『神託』についての噂とかはなかったな。いっそのこと全世界の人たちにお告げすればよかったんじゃないか?」
「今更そんなことを言われてものう……」
確かに今更だな。どうせ神サマが干渉するなら最大効果を狙うべきだった。
「まあ、どちらにしろ通り道だ。確認して自然災害なら無視して通り抜けよう」
「……お主、この街を見捨てるのか?」
「人聞きの悪い。俺は勇者じゃないんだぞ? ただの旅人に何ができるっていうんだ?」
「いやいや。お主、それは過小評価ではないかの?」
「その通りだ! 神である俺を殺しかけておいて、俺をバカにしてるのか!」
「……俺はこの世界に来てまだ一度も戦ったことなんてないんだがな。つーか、声でけーよ、カ・ク・さん!」
そんなこんなで路上漫才を繰り広げながらオッサンたち一行は街を出て国境に向かった。日も高かったし、第一バルハラの工作員がウロウロしているところに長居したくない。
あ、国境方面の門は厳戒態勢だったけど正式にスタンピートと確認されたわけじゃないから封鎖はされていなかった。出て行くときに引き止められたけど爺さんが一言二言話したらあっさり通してくれた。何かしたな。助かる。
で、国境に向かって進んでいたんだが、カクさんがおかしなことを言い始めた。魔物が嫌いな臭いがするだって。『忌避剤』の方? 『誘き寄せ香』とかじゃなくって?
ああ、もしかして街の人たちがスタンピート対策のために撒いたのかな?いや、もしかして……
とか考えていたらカクさんから再度報告が。今度こそ『魔物寄せの香』の臭いだと。どうでもいいけどアイテム名統一しようぜ。わかるけどさ。そして肉眼(チート無し)で見えるぐらいの距離に魔物の群れが現れた。オッサンの知識で判別できるのは有名どころのゴブリン、オーク、オーガ。それぐらいだが、
さて、効果が真逆な薬品が使われている。一体どういうことか。
オッサンの考えを言おう。
「どう考えたってバルハラの連中の仕業だな!」
「そうじゃろうなあ……」
進行方向、つまりババロア王国側に『魔物寄せ』効果。フランシスカ王国側に『忌避剤』。そしてバルハラの工作員がフランシスカ側に集まっている。そりゃ魔物を集めといて自分たちのいる街まで襲われたら適わないだろうさ。
では、奴等の目的は何だろうか?
やっぱりオッサンを狙ってのことだろうか? 自意識過剰と言う勿れ。オッサンはつい最近この耳で黒ローブたちの物騒な会話を聞いたばかりなんだよ。どういう作戦かは知らんが、オッサン捕縛計画の一部なんだろう。或いは単なる足止め目的かも。
よし。こちらも計画どおりにいこう。
オッサンは爺さんに耳打ちする。いや、何。せっかくのシチュエーションだったから……
「スケさん、カクさん。やっておしまいなさい」
「はっ!」
「おう!」
爺さんの号令で竜神様と脳筋獣神が飛び出していった。ついでにワンコたちも。
こうして蹂躙劇が始まったのである。
「はっはっはっ! これにて一件落着!」
「まだ始まったばかりではないか」
ご隠居サマのツッコミ入りました~!




