01 初めての家族旅行?
第四章開始です。
ストック尽きそう……
やあ、オッサンだよ。
異世界転移してから十日目の朝です!
うん? まだそれだけだって? うん、浦島さんの気分だけど、きっと『設定』さんが時空魔法でも使ったんでしょう。
一応ね、私も神サマの国の結界を越えてキャンプ地のテント前に戻った時ケータイの時計を確認してみたんだよ? 結界の外では二、三ヶ月ぐらい経過してるんじゃないかって心配になってさ。
一緒に外に出てきた神サマズにも聞いたし、ミニ神社で朝のお勤めをしながらシュレにも確認したんだけど、答えは『寝惚けてるのか?』だった。うん、オッサンは正常だよ。だから今は異世界転移十日目。
ところで、昨日は神サマの家に泊めてもらった。
朝から始めた会議がなんだかんだで長引いて午後になってたからねえ。精神的にかなり疲れてたし。旅に出ることが決まってすぐにでも飛び出しそうなのも若干名いたけどオッサンの意志は固かったよ。
創造神の爺さんにおねだりして風呂とベッドを創ってもらった。浄化魔法を覚えてから風呂には入ってなかったからこのチャンスに是非と思って。
風呂は、よかった。大満足。もう大浴場って感じ。温泉かどうかは知らんが、地上一万メートルの神の湯、効果ありそう。人間界で温泉宿でも開けばウハウハじゃね?
え? そりゃ親子で入りましたが、何か?
勿論子犬付き。だって家族だもん。
ジジイがしつこく一緒に入りたがってたが一喝した。HENTAIめ! 年を考えろ! 崩れ落ちていたが無視。いや、弱ったところで服の注文。ウチのセーラのために寝巻き代わりのジャージを創らせてやった。オッサンとおそろい。パジャマにしなかったのはオッサンが爺さんに説明するのが嫌だっただけなのだが、ジジイめ、女児下着まで創り出しやがった。まあ、物には罪はないからもらってやるが、これからはなるべく人間界で調達しよう。
そして創造神の創造したベッド。100点やろう。日本にいた時も使ったことのないフカフカで天蓋付きの最高級品。材質は何だろう? ファンタジー物質に違いない。そのベッドでセーラと二匹のモフモフ、一緒に朝までぐっすり。
あ、今はそのベッド、オッサンのアイテムボックスの中です。ありがとう、神サマ。
「タケシよ。これからどこへ向かうのじゃ?」
爺さんが聞いてくる。
ここは地球でいうアイスランド。そこの西海岸だ。ここがこちらの世界の神の国の玄関口に当たる。西の海の上に薄っすらと神殿が見える演出がニクイ。
オッサンは目印にしていた一人用テントを畳みながら答えるのだった。
「ご隠居、俺のことは“ハチベエ”と呼んでくれって言っただろ?」
「お? うむ。そうじゃったな。ワシがさる商会のご隠居さんで竜神と獣神が従業員であったな」
はい、そうなんです。オッサン悪乗りしてます。
というのも、この世界、普段は『~の神』で済むんだが、神サマの数が多くないので神サマの名前を知っている人は結構いるらしい。一人二人なら『神様に肖った名前』で誤魔化せるだろうが、三人も四人も一緒にいたら目立ってしまう。逆に『神の名を騙っている』と難癖を付けられる恐れもある。
オッサンがそう言って、同行する条件として偽名を使うことを承諾させたのだ。
爺さんは『エチゴヤ商会のご隠居・ミツザエモン』、竜神様は『スケさん』、脳筋が『カクさん』、チビ妖精が当然? 『オギン』だ。爺さんとチビ妖精は面白がって、竜神様はクールに快諾。脳筋の獣神はごねたが、オッサンが『格闘の達人だからカクさんだ』と言ったら満足げに承諾しやがった。本当に脳筋だな。
で、オッサンも折角だから……いやいや、遊びじゃなかった。目的地のバルハラだっけ? ナントカ教国にはオッサンの情報が流れている。一昨日の時点で異端者扱いされていたから名前を出すのはマズイ。
一応昨日の会議で『戦争中止』の神託が各地に流れただろうケド、人間のやることだ。どう捻じ曲がって伝わっているかわかったモンじゃない。
だからハッキリするまでは偽名でいこうと思っている。『ヤシチ』と最後まで迷ったが、それは偶に顔を出すという魔神様に譲ってやろう。どうせオッサンは庶民なのだし、選択肢はないか。
え? トビザル? だってもっと出番が少ないじゃん。
まあ、この世界に他に日本出身の異世界人でもいなければ本当にただの偽名で終わるはずだ。勇者君は17歳だそうなのでひょっとしたら知らないかもしれないし。う~む、恐るべしジェネレーションギャップ。
「とりあえずの目的地はバルハラ教国だ。俺の買い物もあるし、何より戦争が回避されたか知りたい」
「うむ。今回のヒトの争いは少なからずイズミが関わっている。ワシにも責任がある。否やはない」
爺さん、堅いよ。折角の旅なんだからのんびりやってくれよ。
「じゃあ、皆はもう少し庶民らしい格好してくれ、スケさんとカクさんは冒険者風でな」
流石神サマ。あっという間に換装した。着替えはどこに持ってたの?
爺さんは商人風の豪華なローブ姿。竜神様はオッサンとほぼ変わらない麻の服に皮鎧。脳筋は……上半身裸にスパルタカスな肩当のみ。似合うけど目立つな~。
「アタシはどんなのがいい?」
「……お前はそのままでいいんじゃね? ニンゲンに見えるわけがねえし」
「ぶーっ」
見た目だけなら、爺さんはヒューマン、竜神様は竜人(頭にツノが付いている)、脳筋はそのままライオンの獣人だ。それに妖精が一匹。ヒューマンの俺とセーラを合わせてどんな集団なんだろう? 子犬もいるし。
「あ、そういえば、バルハラに近づくほど亜人差別が酷いって聞いてる。特にスケさんとカクさんは気を付けてくれよ」
「承知した」
「思い上がったニンゲンめが! 返り討ちにしてくれる!」
「おい! 相手はただのニンゲンだ! 気を付けろってのは騒ぎを起こすなってことだ! わかったな!」
「キサマ! 神が見下されて黙っていろだと!」
「おーい、爺さん、コイツ駄目だ。わかってねえ」
脳筋を司る神なのか? こいつ。気は優しくて力持ち、というカクさんのイメージに合わねえ。どっちかっていうと山賊だな。
「うむ。アニマよ、いや、カクさんや。ワシらがこの旅に同行するのは戯れ事ではない。神としての責任を果たすためじゃ。そのためにニンゲンに成りすますことも必要なことじゃ。お主がタケシ殿、いや、ハチベエに勝負を挑みたい気持ちはわからんでもないが、それだけが理由なら同行は認めぬぞ」
「ううっ、わ、わかってるよ、創造神様……」
「ご隠居じゃ!」
「ご、ご隠居様」
流石は創造神。他の神サマズに対する権威はハンパねえ。
「じゃあ、着替えも話も済んだところで出発するか」
「このままバルハラに向かうのか?」
「いや、俺がフランシスカの王都を出てまだ三日目だ。いきなりバルハラに到着したら不自然だし、途中の町の様子も見てみたい。フランシスカの近くからだな」
「わかった。お主に任せよう」
「ああ」
ということで、私はスーパーガラケーを取り出す。
グーグ○マップとストリート○ューで確認。うん、北の森にいたバルハラの連中の姿はない。そりゃ二日もオッサンの姿が確認できないんだ、森の中でくたばったとでも思ったのかもしれない。加えて『神託』まであったんだ。連中も大騒ぎだろうよ。
よし、リスタートは北の森、その出口に決定!
「まず俺がセーラを抱えて跳ぶ。付いてきてくれ。セーラ、おいで」
「うん!」
天使が二匹の子犬を抱えてオッサンに飛びついてくる。
昨日はオッサンにべったりだったが、子犬たちが家族に加わって少しはオッサンから離れることができるようになった。今もテントの撤去作業中は子犬たちと遊んでいたのだ。
うん、うん。これだけでも異世界転移した甲斐があるというものだ。
しかし、異世界ねえ。他にもまだたくさんあるらしいが、どこもドロドロした社会なのかねえ? オタクどもの価値観は計り知れん。もっとこう、のんびりとして平和な異世界はないもんか。あるなら娘を連れて転居願いを出したい。
ああ、シュレが許さんだろうな。主に『それではつまらんじゃろ』とかいう理由で。もっと酷いところに飛ばされるかもしれないし、現状で満足しておくか。娘が立派なレディーに成長できるよう邪魔な存在は(神サマズを扱き使って)排除する方向でいくか。
「パパ? どうしたの?」
おっと、天使ちゃんと子犬たちを抱えたまま、あまりの可愛さにフリーズしてしまったぜ。
「いやいや。何でもないよ。さあ、出発だ!」
「しゅっぱつ~!」
「「キャン、キャン!」」
天使たちのエールをもらってオッサンは意気揚々と転移魔法を発動させた。
あっという間に北の森出口。人の姿はない。
すぐに神サマズが転移してくる。流石は神サマ、といったところか。オッサンでは多人数の転移はまだできなかった。イメージが確定しないのだ。まあ、手を繋いだりすればできるのだろうが、むさい爺さんたちとは御免である。娘一人が精一杯だ。
それはともかく、
「じゃあ、ここから旅を始めるぞ。改めてしゅっぱーつ!」
「しゅっぱ~つ!」
オッサンは愛娘を抱えたまま新たな旅路の一歩を踏み出した。
神サマズは無言のままオッサンの後に従う。
アレ? オッサンの立ち位置って……




