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23 オッサン、残業中?

 


 会議の場はザワザワし始めた。

『管理神』サマの御前だ、ということで厳粛な雰囲気だったのだが、シュレが『神気』を抑えている状態でとんでもない事実が判明したのだからしょうがないのだろう。


 そんな神サマズの様子をオッサンは眺めていた。

 説明を聞くためにここに座っているのに何一つ説明を受けていないのだがな、という思いとともに。


 ま、漏れ聞こえてくる神サマズの話からすると、圧縮ファイルでの説明はオッサンがコッチの世界に来る前にシュレとアカシックさんから聞いた内容だろう。『洗脳』の危険まで冒してもう一度聞きたい話でもないな。


 しかし、神サマズ、驚いてはいるようだが、疑ってかかる様子がない。人間界なら誰かしら頑なに疑うヤツがいるものだが、これも圧縮ファイルとやらの洗脳効果なのか。恐ろしい。単純にシュレの『神気』のせいだと思いたい。

 あれ? そういえばオッサンも結構あっさりと信じたような……うん、怖いからこれ以上考えないようにしよう。


 さて、私が聞きたいのは、膝の上の幼女のことだ。

『鑑定』スキルはオッサン自身は持ってないが、召喚の事実といい、神サマズの反応といい、この子が『邪神』であることはまず間違いないだろう。


 チラリと幼女を見る。目が合った。


 うわー。なんて純真そうな瞳! 『邪神』のじゃの字も感じられない。正に無邪気な瞳だ。これで『邪神』ってどういうこと?


「……な、なんだい? どうしたのかな?」


 純真さいっぱいの幼女に見つめられて動揺しないヤツがいるものか! オッサンは決してアレじゃないぞ!


「パパ。なんのおはなししてるの?」


 そうだよね、子供にはこんな会議みたいな空気、つまらないよね。

 って、あれ?


「もしかして、あの白いおねーさんのお話、聞こえなかった?」


「?」


 何のことだかわからない。あどけない顔にそんな感情が宿っていた。


 シュレの圧縮ファイルによる説明はこの幼女には届いていないのかな? それとも『結界』で弾かれたとか? 


 あー、これからの説明でわかるんですね。ありがとうございます、アカシックさん。


「皆さん、もうよろしいですか?」


 オッサンと同じく神サマズの混乱振りを眺めていたシュレだったが、流石に埒が明かないと考えたのか口を差し挟んできた。

 オッサンにとっては『キモい』としかいえない口調なのだが、神サマズにとっては天の声、神託同然なのだろう、ぴたりと静かになった。


「では、今後のことについてお話しします」


 ゴクリ。実際は聞こえないのだが、そんな雰囲気が漂う。


「これからは皆さんの自由にしてください」


 はあ?

 何言ってんの?


 神サマズ、ポカンとしてるじゃないか。


「あの~。どういう意味でしょうか~?」


 メンタルが強そうな森の神・フリッカが小さな手を上げて疑問を呈する。


「そ、そうだぞ! 今さら自由なんて言われても、じゃあ、今までの騒ぎは一体何なんだ!」


 脳筋代表の獣神が吼えた。口調もあまり変わらず、流石脳筋。


「指揮下に入れとの仰せでしたが……」


 竜神さんも困惑気味に確認してきた。そうだよね、困っちゃうよね。


「言葉どおりです。神界を切り離し神のいない世界にするも自由。人類を神の名の下に滅ぼすのも自由です。指揮下というのも便宜上に過ぎません。ここはあなたたちの管理する世界ですから」


 うわ、神サマズが『見捨てられた!』とか言い出しそうな顔してる。

 あんまりに不憫なので、神でもないオッサンが助け舟を出してやろう。シュレのことだからどうせ深い意味はないのだろうし。


「あの、管理神サマ。皆さんが混乱しているようですが、もう少しやさしく説明して差し上げていただけませんか?」


 言外に『アカシックさんを見習え』と言ったつもりだが、果たして通じたか。


「……わかりました。他ならぬタケシさん(・・)からの申し出です。善処しましょう」


 ゾワっと来た! その姿と口調がニセモノだとわかっているだけにオッサンだけがダメージを喰う。


 それはともかく、シュレは再び圧縮ファイルを使用したようだ。

 今回もオッサンと幼女には無し。というかやられなくて良かった。


 だが、ちょっと内容を知りたいところだ。あ、アカシックさんが教えてくれます? いつもすまないねえ。


 それは言わない約束でしょ、おとっつぁん。などとアカシックさんがボケてくれるわけもなかったが、フツーに説明はしてもらった。といっても大したことではなく、『世界の誕生』関連、つまり『オタクの妄想の具現化』に端を発する問題のみシュレが口を出す。というものだった。


 なんとも大雑把だが、神サマだからこんなものだろう。圧縮ファイルの内容はもっと細かいかもしれないが。


 神サマズは納得したようであった。いや、一人そうでないものがいた。


「あの、管理神様、お聞きしたいことが」


 創造神の爺さんがおずおずと手を挙げる。


「なんでしょう?」


「娘は、イズミはどうなるのでしょうか?」


 ああ、そういえば。


「安心してください。治療は済みました。ただ、色々とショックだったようで落ち着くまで休ませています」


「そうですか……神を辞める前に会いたかったのですがのう……」


 ん~? 神を辞める? あ、そういえば爺さんがそんな選択してたっけ。あ、マズイ。そもそもオッサンがこのクエスト引き受けたのは『創造神の加護』がほしかったからだった。邪神幼女にパパ呼ばわりとかシュレの大人バージョンとかインパクトが大きすぎてコロッと忘れてた。


「その報告も受けていますが、本当にいいのですか? 人間界が混乱しますよ?」


 シュレがこちらをチラッと見て『引き止めはしませんが』などと言っている。そこは引き止めるのがスジだろ!


「創造神などと偉そうにしていた己が恥ずかしいですわい。管理神様とタケシ殿には、この老いぼれの身と引き換えにイズミのことをよろしくお願いしますじゃ」


「あなたが悪いわけではありません」

「爺さんが悪いわけじゃねえだろ!」


 お? シュレ(大人バージョン)と被っちまった。思わず見詰め合ってしまったけど、シュレ、顔が赤いぞ? そんなにオッサンとタイミングが被るのが恥ずかしいのか?


「……ありがたいことですがの、娘がこれだけの騒ぎを起こしたのですじゃ、仮にも創造神として、親として責任を取らねばなりませんじゃろ? まあ、『仮にも』どころかすべてが『造られた』ものじゃったが……」


 うわ、爺さん自虐的。流石イズミちゃんの親だけはある。


「確かに『世界の発生』についてその秘密を教えましたが、発生した時点でそれは現実となる、と言いたかったのですが。伝わっていませんか?」


 いや、シュレよ。伝わっていると思うぞ。それでも尚割り切れないってところじゃないか? 世代交代を頻繁にする人間と違って過去の記憶とやらを持っている存在なんだし。

 ここはフォローしとくか。『加護』の件もあることだし。


「まあ、爺さんの気持ちもわかるけど、焦ることはないんじゃない? 娘さんが帰ってきたら二人で話し合ってさ、ほら、人間と違って時間はたっぷりあるんだし、ゆっくり考えればいいんじゃないか?」


「……タケシ殿の気持ちはうれしいのじゃが……おお、タケシ殿は件の『ちきゅう』の人間じゃったな。ならばタケシ殿がこの世界を『創造』したといっても過言ではなかろう。どうじゃな、ワシの代わりに『創造神』を務めてはくれぬかのう?」


「「「なにーっ!」」」


 オッサンを含めて神サマズの何人かが反応した。


 いや、だってそうでしょ。オッサンが『創造神』? 何の冗談だよ。ほしかったのは『創造神の加護』であって、『創造神の地位』とかじゃないんだよ!


「……それは面白そうな提案ですね」


 うわ! シュレも反応した。それも『面白ければ構わない』という方向に。

 くそ、オッサンにしかわからないとは思うが、ニヤニヤしやがって。


 どうする?

 こうなったら、アカシックさんに直訴だ! たすけて~ 







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