19 オッサン、インベーダーになる
「使者殿。聞きたいことがあるのじゃが、よろしいかの?」
獣神の襲撃事件? があったものの、何とかうやむやにして会議を再開させたはいいものの、空気が悪い。最初から悪かったのだが、輪をかけて悪くなった。オッサンの心の癒しは膝の上で無言でビスケットを頬張る邪神幼女だ。時折口の中が乾いてジュースを要求してくるところが和む。
そんな中、創造神の爺さんから発言があった。
「タケシで結構です。なんでしょう?」
オッサン、会議モード継続中。勤続二十年の教師ですから。
「先ほどの三つの要求じゃが、すべて拒否したらどうなるのじゃ?」
「さあ?」
オッサン、ノータイムで返答する。会場がざわめいた。
「……タケシよ。それはあまりに無責任じゃないかの。それとも、脅しのつもりなのか?」
あ、そういう捉え方もあるのね?
「いやいや、脅しとかではなくってですね、単に、本当に知らないだけです。ウチの神サマに言われたのはメッセージを届けて来いと言うことだけで、私にそれ以上の裁量権はありません……あ、ちょ、ちょっと待ってください」
会議中に電話が来た。通常ならマナーモードで無視なのだが、相手が誰かわかっている上その相手が悪い。
邪神幼女を下ろそうとしたらしがみつかれたので、仕方なくそのまま抱きかかえ一時円卓から離れる。
「はいはい。タケシです。ただいま会議中です。またおかけ直しください」
『そなたに裁量権をやろう、だっちゃ』
「は?」
どうせ自宅から覗いていて状況をお見通しなのだろうと会議モードのまま電話に出たのだが、向こうも然る者、あっさりスルーして用件だけ伝えてきやがった。更に、その用件が意味不明。
『全権委任じゃ。お主がこの交渉をまとめよ、なの』
「いや、確かに交渉を任されていた自覚はあるが、全権って何だよ。物理的に無理だろ」
『何が物理的ポヨ?』
「言葉の綾だ。細かいところまで突っ込まれたら俺じゃ答えられないだろ。神サマの問題なんだから」
『そこをそなたの裁量で何とかしてみせい、だニャン』
「それは裁量の意味が違うだろ!」
「パパ、こわい……」
「あっ、おじさん、怒ってないよ~」
つい邪神幼女を抱えていることを忘れて大声を出してしまった。
『ほれほれ、娘にいいところを見せるチャンスじゃろ』
「やっぱりこの子はお前の仕込みか」
『失礼な。保護と言え保護と。それに、ウチもお主の活躍が見たいっちゃ』
「は?」
『い、いや、それは冗談としてもな、ワシにも考えがあるピョン。ここは黙って引き受けるのじゃ!』
くそ。仮にも神サマに『考えがある』なんて言われると、断りづらい。
『安心せい、なの。今回はママも手を貸す、だっちゃ』
なんだと! そんなことが。じゃあ、オッサンはアカシックさんの言葉を伝えればいいだけか。ベリーイージーモードだな。ただ、オッサンがイタコっぽくて締まらないし、宗教家みたいなのが嫌なんだよなあ、まあ、今更なんだが。
「わかった。だが、一つハッキリさせるぞ。俺が交渉をまとめるって言っても、あいつらに自由に選ばせるってことでいいんだな。あと、期限も俺が決めるぞ。で、一応結論が出たところでお前を呼ぶからな。それでいいな」
『構わぬ、ピョン』
「あと、さっきも爺さんに聞かれたが、三つすべて拒否した場合どうすんだ?」
『世界の滅亡』
「おい!」
『と言いたいところじゃが、洗脳で済ましてやろうかのう、みたいな』
「……本気か?」
どちらもシュレにとっては大した手間ではないのだろう。それだけに判断に困る。何せ通告するのは私なのだから。
『なら、お主が決めればよい、っちゃ』
「いいのか? それで」
『構わん構わん、なの。では、がんばるのじゃぞ』
あ、切れた。
くそ、丸投げするつもりが丸投げされたぜ。ただの一教師に何させようってんだ。
オッサンは幼女を抱えとぼとぼと円卓の席に戻る。
「えー、ただいまご神託がありまして、恐れ多いことに私にある程度裁量権が与えられました。そういうわけで、先ほどの創造神様のご質問に答えさせていただきます」
アカシックさん! 早速ヘルプミー!
え? ホントにいいんですね?
爺さんをはじめ、神サマズがごくりと固唾を呑んだ。オッサンだって同じ気持ちだよ!
「答えは、現状維持。特にペナルティーはありません」
「なんじゃと? で、ではこの交渉は一体なんなのじゃ!」
「落ち着いてください。詳しく説明します。
確かにそれだけを見ればこの交渉は茶番でしょう。ですが、こう考えてください。これは、敗戦処理を前倒ししているだけです。既に管理神サマがこの世界の支配権を握っている状態です。
その支配者は融通が利きますから特に反抗したり統治の邪魔をしたりしなければ見逃すと言っているのです。
先ほど脅しじゃないと言いましたが、言い直します。
これは警告です」
ははは。とうとう言ってしまった。これは演習ではない。実際の侵略なのだ。
いくら全権委任だと言われても、オッサンが勝手に何かを決めることなどできない。小市民のサガだ。だから、日本人らしく思わせぶりな発言で、誤解でも何でも向こうに判断させよう。そのために少しくらい悪役っぽくなっても構わないだろう。
「ご理解いただけましたか?」
「……わかった。ワシは、神をやめよう」
「おとうさま!?」
「「「「創造神様!!」」」」
決断早いな!
あ、しかし、それはマズイ。
創造神がいなくなったら、誰がオッサンに『創造神の加護』を与えてくれんの?
オッサンの華麗な第二の人生のために翻意させよう。或いは、裁量権を行使して神をやめる時期を100年後ぐらいに設定するか。
あー、何か、全権委任、便利かも。




