18 やっとこさ交渉
すみません。遅くなってしまいました。
気を取り直して……
「それでは、今度こそ交渉を始めさせていただきます!」
実は、先ほどオッサンに対する誤解を解くために色々とこちらの事情を説明したのだが、まだ話していないことが二つほどある。
一つは交渉内容。もう一つは世界が誕生するプロセスである。
前者は単なる形式だ。これからすぐに話すことになるので、言い訳話の中でポロっと出てくるよりはちゃんと聞く耳を持っている時に伝えてやりたかったのだ。
後者に関しては、そうだな、オッサンの時もそうだったが、ただの人間の口から聞いたのでは信憑性に欠けると思う。アレは偉い神サマから直に聞いたから何とか納得できたのであって、それ以外なら面白いとは思っても塵ほども信じなかっただろう。地球人ならどこかで聞いた話だと一笑に付す。
だから、オッサンの口から説明することはない。この後登場するシュレに丸投げだ。
「疑問、納得がいかないことあるかもしれませんが、まずは私の話を最後まで聞いてください。よろしいですね?」
オッサンは円卓のメンバーを見渡す。
「タケシよ。口調が変わりすぎではないか?」
「社会人として会議には会議の話し方があるのです。創造神サマ、よろしいですか?」
「う、うむ。ワシは望むところじゃ」
「わ、私もです!」
爺さんに続きイズミちゃんが応じる。
以下全員の了承を得ることができた。チビ妖精と魔神サマは興味深げに、竜神様はクールに、雷神様と海神様はおおらかに。そして脳筋の獣神サマも暴れるだけでは話が進まないことぐらいはわかるのか渋々と応じてきたのだ。
残る邪神サマは引き続きオッサンの膝の上。携帯食料の中でも味がマシなほうのビスケットもどきを与えてあるので大人しくしている。
「それでは、すべての宇宙、すべての世界を司る管理神サマのお言葉を伝えます」
ウゲ~。自分で言っててキモチワルイ。
「選択肢が三つありますので、いちいち反応しないでください。何度も言いますが話が進みません。
それでは一つ目。管理神の支配下に入って、このアーシアヌ世界を管理神の指示通り委託管理する。というものです」
場がざわめく。ライオン丸なんか立ち上がったぞ。
だが、オッサンを睨むだけで物理攻撃も口からの攻撃もなかった。
たぶん、侵略を警戒していたからこの要求は想像の範疇だったのだろう。オッサンの発言どおりすべての要求を聞いてから行動を起こそうという腹積もりなのか。
少しみんなが落ち着くのを待って、オッサンは話を続ける。
「次ですが、アーシアヌ世界の神すべてがこの世界を放棄して、別次元で独自に神族のみの社会を作る。というものです」
また場がざわめく。
見方によれば、追放のようなものだ。侵略して旧支配者を追放か。鬼だな。
あ、ライオン丸、すごい表情。見えないはずの青筋がピクピクしている。
だが、実際に戦争が起こって敗者が勝者の理不尽な要求を呑まなければ皆殺しか追放かってのはよくある話だ。言葉だけなら理解はできるのだろう。
さて、最後の三つ目なのだが、コレ言ってしまっていいのかね? 神サマとしてのプライドに関わってくるんじゃない? オッサンにはわからないけどさ。オッサンから見れば人間やめて虫になれ、って言われているようなもの? いやいや! ないわー。
せめてもの救いは人間なら文化文明があるってことぐらいだ。それが救いになるかどうかは正に神のみぞ知る、だがな。
よし、落ち着け私、私はただのメッセンジャー。最後の選択肢を伝えれば晴れてお役御免だ。神サマズには申し訳ないが、苦情はシュレに処理してもらおう。うん、そうしよう。
「えー。最後になりますが、落ち着いて聞いてください。コホン……アーシアヌ世界の神すべてが人間種に生まれ変わり、人として一生を終える。というもの――」
「ふざけるなーっ!」
わ、とうとうライオン丸が飛び掛ってきた。
オッサンの近くに座るのは嫌だったらしく一番遠い、対面に座っていたのだが、いきなりテーブルに飛び乗っての凶行だった。
え? のんき?
だって、一応チート持ちだし、昨日今日で随分慣れた感じがする。結界には絶対的な信用があるし、お馴染み『高速思考』とたまに力を発揮する『動体視力』で焦ることもなくなった。
オッサンがやったことと言えば、膝の上の幼女の目を塞ぐことと『防音』の効果を上げたことぐらいだ。
「ぐっ! キサマ! 結界なんぞに篭りやがって! 出て来い、おらあっ!」
ライオン丸、オッサンに殴りかかる前に結界に阻まれてテーブル上で立ち往生しちゃった。手足を振り回しているけど結界にも届いていない。実はライオン丸だけでなく神サマズ全員に張ってある結界は本人を基点に2メートル前後(体格によって増減・アカシックさん仕様のためテーブル、椅子などには作用しない不思議)に設定してあるんだよね。だから今は結界と結界がぶつかっているだけ。それでもかなりの衝撃のはずだ。
あっ、やべっ!
「ガオオオオンッ!! グアーッ!」
ライオン丸、また口からカメハ○波出しちゃったよ。懲りないな。
なんて、流石にのんきに構えていられない。今回は結界内での攻撃だ。ほぼずべてのエネルギーが跳ね返る。
「「「アニマ!」」」
円卓上に大の字で倒れた獣神は黒焦げでした。
「待ってて、今回復を! え! 近づけない! 何で!」
『森の神』にして『慈愛の神』であるチビ妖精が獣神に近づこうとしたが、当然お互いの結界に阻まれる。
「異世界人クン!」
「今外します!」
『魔法の神』が真っ先にその事実に気が付いたらしく、オッサンを呼ぶ。呼んだだけなのは焦っていただけなのか、それともすべて任せるという思いなのか。
だが、まだ交渉中の相手を死なせるわけにはいかない。オッサンはすぐに全員の結界を解除した。
「ぐっ、うぐっ」
「しっかり!」
獣神、生きてはいるようだ。流石神サマというべきか、攻撃に手心を加えていたからなのか。だが、これでチビ妖精の回復魔法があれば復活するだろう。
だが、一応オッサンが原因でこうなったので、黙って見ているのは居心地が悪い。拒絶されるかもしれないが、あくまでオッサンの精神衛生上の問題なので勝手に参加させてもらおう。
あ、幼女の目隠しは継続中、グロ注意だよ。
「俺も手伝おう。『回復しろ~』」
「何その呪文! ふざけないで! って、治ってる! なんで!」
なんでも何も、アカシックさん由来のチート魔法だ。原理は知らん。
チビ妖精だけでなくその場の神サマたちが驚いたのも無理はない。オッサンも驚いているのだから。オッサンが手を翳して『なんちゃって呪文』を唱えたらライオン丸の体が『ぺカー』って輝いてあっという間に元の状態に戻ったのだ。
いや、元よりも毛艶が良くなってる気がする。くそ、これがオスじゃなくて性格も良かったならモフモフを堪能したいところなのだが……
「き、キサマ、何故助けた……」
お、意識が戻ったのか? いや、最初から意識はあったみたいだな。
ここはカッコつけよう。そう、竜神様みたいに。
「いえ。私は『森の神』フリッカ様を手伝っただけです。それよりも申し訳ありませんでした。結界のことを初めから説明していればこんなことには……」
「うそつきやがれ……くそ……」
がーん! キャラ作りってバレてる。
「アニマよ。もう認めるのじゃ」
「そ、創造神様……」
オッサンが密かに落ち込み、諦めるか、なおキャラ作りに邁進するかで葛藤していると爺さんが重々しく語り始めた。
「ワシらは真剣に考えねばならぬようじゃ。これまでは『管理神』、『宇宙の意思』などと聞かされていても、どこか信じられない、信じたくないという思いがあったのかもしれぬ。同じ神なら話し合いの余地がある。或いは力には力で対抗すればよいとな。
じゃが、ただの人間を名乗る使者殿の御力。ワシらに『神』を名乗る資格があるのかのう……」
いやいや、そんな重い話じゃないはずですよ。
「す、すまん、創造神様。俺が弱かったばかりに」
いやいや、だから、バトルで決着付けようなんて一言も言ってないし!
「えー、ご歓談中申し訳ありませんが、ご着席ください。交渉をまとめてしまいたいと思います」
「……わかった……従おう……」
あれ? ライオン丸、素直? あれあれ? 神サマズも何も言わずに着席したよ。
これが圧力外交というものなのか!




