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10 オッサン、神様と交渉する

 


『――とある神サマに拾われたんです』


 そうオッサンが告げると、女神様は絶句していました。




 はい、どうも~。女神クエストを完遂するべく、目下事前交渉中のオッサンことタケシです。


 目の前の女神様、固まっちゃたよ。どうする? まだまだ爆弾はあるんだけどねえ。

 オッサンの出自も全くの予想外だったらしい。シュレとかアカシックさんと違って全知全能ではなさそうだな。


 あ、動いた。


「た、タケシ殿と言いましたね。そ、その『とある神』というのは……」


「ああ、こちらの世界の神サマではありません」


「ほっ」


 あからさまに安堵してるな。

 異世界召喚があるから異世界が存在していること自体はこの女神サマにとって既知のことである。また、この世界は唯一神というワケではないので異世界に神サマがいることも当然のことと思っているようだ。

 まあ、私が言っているのは残念ながら『地球』の神のことではないんだが。


「それで、加護のことですが、授けていただけるでしょうか?」


「えっ、それは……」


「私ももう元の世界に帰れるとは思っておりませんし、この世界で生きるなら皆と同じく『創造神の加護』があれば溶け込めると思うんですよ」


「そ、そのことですが、少しお待ちいただけませんか?」


「は? 何故です?」


「神として情けない話ですが、タケシ殿のステータスが見えません。おそらく、タケシ殿の世界の神が先に加護を与えたのでしょう。それが強すぎて私の『目』も通らないのです。これでは『創造神の加護』が付かなかったのも納得です」


 おや、あっさりと力の差を認めちゃうんだ。

 でもオッサン、追い込んじゃう。


「自動で付かなかったというのなら直接この場で付けてみるのは?」


「いっ、いえ、それだけではなくてですね、『加護』について思うところがありまして、今後は加護を万人にではなく選ばれた一部のみに授けようと……」


「えっ! それでは魔法は使えなくなるのですか!」


 私は驚いた(・・・)


「いえ、これまで通り使えます。今までが加護を薄く広く与えていたため効果も微々たるものでしたから」


「そうですか。ですが、私の場合『システム』とやらに組み込まれていないせいか、ステータス表示でレベルやスキルも確認できないんですよ。これを何とかしてほしくてここまで来たのです。一時的でもいいですので、是非『創造神の加護』を授けてもらえませんか? システムに組み込まれた後は他の人たちと同じ処遇で構いませんので」


「け、決定事項です。今後すべての加護を無効とし、改めて厳選した人間に加護を与えていく計画なのです。そのとき縁があればきっと授けましょう」


「そうですか。それなら仕方ありませんね。ところで、今になって大幅に世の中の在り方を変えるような計画ですが、一体どんな理由があるのです?」


「そ、それは……」


「人間と魔族が対立しているという話は聞いていますが何か関係があるのですか?」


「うっ」


「そういえば、どこかの、ナントカ神聖教国とかいう国がヒューマン至上主義を掲げて亜人差別をしているそうですが、まさかそれも関係があるのではないでしょうね?」


「そ、それはっ! ひ、人の身で神の領域に立ち入るとは無礼にもほどがあります!」


「ふむ。いろいろな意味で今更だとは思いますが……まあ、その件は一先ず置いておきましょう」


 女神サマは、憮然とした態度だったがそれ以上は何も言わなかった。言えなかったのだろう。

 だが、オッサンは攻める!


「ところで、その計画についてですが、他の神様たちは同意しているんですか?」


「は?」


 女神サマ、不意打ちを食らったような表情である。

 まさかそこを突っ込まれないと思っていたのか? まあ、そもそも人間に根掘り葉掘り訊かれる経験もなかっただろう。


「いえ、この計画、創造神(・・・)サマが立てたんですよね?」


「え、ええ。その通りです。何故そのような瑣末なことを?」


 全然瑣末じゃないんだが。


「実は、二つ目の用件、本来こちらがメインの用件なんですが、この世界の神サマ全員に関わる話なので、ついでに確認してみたまでです」


「ぜ、全員……」


 ありゃ? 憮然というより困惑って表情だ。


「はい。なので何人? 何柱? いるかわかりませんが、ここに全員呼んでいただけませんか?」


「…………」


「…………」


 女神サマ、無言! オッサンも付き合いましょう。




 しばらく視線を彷徨わせていたが、ようやくオッサンと眼が合った。どうやら再起動したようです。


「神を呼びつけようなどと、何たる不遜! しかし、ここまで人の身で来れたその努力に免じて見逃してあげます。神罰が下る前にお帰りなさい」


 なるほど。そう来たか。

 ここでお茶漬けを出したら少しは驚いたんだがな。シュレならやりかねない。

 あ~、思い出したら食べたくなってきた。今なら京都でお茶漬け出されても思わず口にしてしまいそうだ。


「不遜ですか。そうですね。私もそう思います」


「それならば――」


「ですが、これは私個人の要求ではありません」


「え?」


 女神サマが一瞬ほっとした表情を見せたが、すかさず攻める!


「お話した、私を拾ってくれたとある神サマからの要請です。私はその方の遣いでここに来たのです。このまま帰ったら子供のお使いです」


 オッサンはオッサンだから子供の使いじゃない。

 あれ? シュレは子供だから、子供の使いでいいのか? あれ?


「そ、そのお方の要請とはどのようなものなのですか?」


「それは皆様が揃ってからお話します」


「くっ……」


 お! 『くっ』って言った! 


 またフリーズするかと思いきや今度は立ち直りが早かった。


「こ、この世界は私たちが管理しております。他所の神の干渉など認めるわけには参りません。どうぞお引取りください」


「では、他の神サマを呼んでいただけないのですか?」


「くどいです! さあ、もう訊くべきことは訊きました。お帰りを!」


 女神サマ、オッサンを追い出しにかかっちゃった。すごい剣幕。


「わかりました」


「そう。それでよろしいので――」


「呼んでいただけないのなら、私が自分で呼ぶことにしましょう」


 安堵したかに見えた女神サマの言葉に被せて、オッサンは悠々と行動する。


「な、何を言っているのかしら?」


「何って、自分で呼べば済むことですし」


「そんな、ひ、人がそんなことできるわけ……」


 オッサンが自信ありそうだったからか、女神サマまた余裕なくしちゃったようです。


「もう見てもらったほうが早いな。『召喚(カモン)! 創造神(爺さん)!』」


 カモンじゃなくてサモンか? 

 まあ、シュレのくれたチートはどうでもいいらしい。


 女神サマが呆然としていると、広い応接室? に閃光が走った。

 そして光の中からある人物が……


 それは一人の老人だった。



「これまでじゃ、イズミ」


「……おとうさま……」


 擦れたような、そんな女神サマの声が聞こえた。

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