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06 オッサン、一喜一憂する

 


「うが~! 一番関わりたくないところに目ぇつけられた~っ!」


『阿呆が。自業自得じゃ』


「……管理神サマ(笑)が冷たい件」


『……余裕ありそうだピョン……』




 迷えるオッサン羊のタケシです。

 ただいま不本意ながら人生相談の最中です。


 面倒事が起きていました。バルハラ神聖教国とかいう宗教国家に異端認定されているようです。

 さっきアカシックさんのお勧めのスポットに転移してみたら、怪しげなローブ集団が私を捜索していました。その会話を漏れ聞いたところその事実が発覚した、というわけです。


 発端は……発端ではなく原因というべきかね。

 発端まで追究してしまうと『地球のオタクども』という答えが返ってきてしまう。オッサンはオタクではなくただの中学教諭であるが、微妙にブーメランである。なにしろこの世界は『多数の人間の共通イメージ』から生まれたのだから。


 まあ、頭ではわかっているし、追々『設定』に慣れていけばいいと思うが、そうそう、原因の話だったな。

 オッサンが異端認定された直接の原因は、オッサンがギルドで『教国滅ぼす』発言をしてしまったせいらしい。たった一日で指名手配なんて、仕事速ぇーな、おい!


 ギルドでの発言については、ネットで体制批判しているくらいの感覚だった。思ったままを口にしただけなので、ウソとかいい加減なことを言ったつもりはない。それだけに、確かに不用意だったとは思う。計画とか自分が主導者になるつもりがなかったという点で。


 正体もバレていることだし、逃げられなくなったようだ。いや、逃げようと思えば逃げられるか。事実今いるところは無人島だ。魔物しかいない。或いは『日本』に生活拠点を移してしまえば、いくらなんでも追っては来れまい。

 あれ? そう悲観しなくてもいいのかな? 転移魔法さまさまだな。


 自己完結してしまった。


「しかし、教国の連中、どうやって俺の情報を得たんだ? こんなに早く」


 文化も文明も常識すら異なる世界。その中でこれ以上余計な面倒事を回避するべく、基本的な疑問を呈してみる。


『それは当然ニャン。どこの勢力だってスパイくらいいるだっちゃ。常識ピョン』


 うぐっ、常識って言われてしまった。悪かったな。日本人は基本危機感が足りてないんだよ!

 だが、ごもっともな意見なので平静を装いつつ質問を続ける。


「それって、シュレは知ってたってことか?」


『知ることはできるが、面倒だから知らん! だピョン』


「なんじゃそりゃ。使えねえっつーか、冷たいヤツだな。あ、そうだ」


 全知全能だが面倒くさがりの神サマ期待するのはやめて、ガラケーの画面を変える。まあ、これも神サマテクノロジーなんだけどな。


 マップの検索機能にあるキーワードを打ち込んでみる。


「あ。出た……」


『もう、ママったら甘やかしすぎ! なの』


 キーワードは『バルハラ神聖教国のスパイ』。王都の地図上にいくつか赤い点が浮かび上がる。地図をスクロールさせ北の森を見ると、やはり先ほど転移した場所に複数の光点があった。まだオッサンのこと待ってるのね。5963。


 機能のすごさは今更だ。それよりもアカシックさんの気遣いに感謝である。言葉でこそ教えてくれなかったものの、あのポールがなければ私は何も知らずにバルハラ教国でのんきに買い物をしているところを問答無用で掴まっていたかもしれない。結果は宗教裁判か、拷問か、それとも洗脳か。考えただけで恐ろしい。


「あれ? もしじゃなくても、俺があのまま歩いて旅をしていたらとっくに掴まってたんじゃ……」


 向こうは大人数で馬も使っていたらしいし、私は森にいた時点では転移魔法が使えなかったし。まず間違いない。


『うん? そ、そうでおじゃろうにゃあ』


「……もしかして、シュレも俺が捕まりそうだったから、急遽予定を変更させてここに連れて来てくれたのか?」


『そそそそ、そんなことないゼヨ?』


「うん。その態度でわかった。ホント助かったが、何で初めから言わない? 何かタブーでもあるのか? あるなら聞かないが……」


『お、女の子の秘密じゃ! 男が口出すな! っちゃ!』


「わかったわかった。まあ、いつもありがとな」


『わっ、わかればよいのじゃ。わ、我はびっ、ビデオを見るのに忙しいからな! さらばニャン!』


 何に動揺しているのか今一理解しがたいが、神サマ親娘に救われたのは確からしい。

 恩返しできることといえば、クエストを真面目にこなすしかない、かな。ま、精々ガンバルか。


 シュレとの神サマ通信も終わり、まだ、というか全く暗くならない白夜の中オッサンは眠りに付く。幸いテントの中は薄暗く快適に眠れそうだ。


「……またビデオ見るのか。次は何のネタぶち込んでくるつもりだ?」


 無人島の夜は平和でした。







 明けて異世界九日目。


 明けたといいつつ、白夜なので朝との境界がわかりません。超ウルトラアトミックケータイが使えてマジ便利。自動で現地時間がわかります。


 さて、今日こそ女神クエストを完了させてやろう。昨日の一件でやる気はバッチリある。


 ただし、先約があるのでそれを済ましてからだな。


 オッサンは軽く朝食を取ってから目的地に転移した。マップで確認した人気のない裏通りである。

 ここは地球のイギリスに当たる国、ケルト王国。ロンドンの東、テームズ川河口にある港町だ。昨日来たばかりである。


 路地から出ると、流石港町。活気があるねえ。

 人の流れに乗って、オッサンもギルドを目指した。


 すぐ到着。

 カウンターは賑わっていた。まあ、朝の依頼受付はこんなものだろう。

 買取も同じ受付だろうか?


 入り口でちょっと迷っていたオッサン。

 するとオッサンに声を掛けてくる人物がいた。


「おい! キサマがシードラゴンを持ち込んだ冒険者か?」


 誰だろう、この人。後ろに騎士みたいな人二人連れて偉そうな態度だ。文官っぽいけど貴族かな?

 私のこと知ってる? 確かにシードラゴンとやらは持ち込んだときに騒ぎになったけど、よくオッサンのことがわかったな。この国に知り合いがいるはずもない。言葉を交わしたのも買取を頼んだギルドマスター(疑惑)のオッサンくらいだ。

 それに、フードつきのマントを着てるから顔は見えにくいと思うんだが……あ、そうか、この安っぽいマントが逆に目立ってるのか。


 納得はしたが、じゃあ何の用だって話になる。


「……そうですが、どなたサマか存じませんが、先約がございます。話は後ほどお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」


「う、うむ。よかろう……」


 流石神サマのくれた『異世界言語』のスキル。過剰な敬語も翻訳されたようだ。

 文官お貴族サマは、冒険者のオッサンが丁寧な口調だったことに驚いてすんなりとコッチの要求を呑んだようだ。


 オッサンは向こうの気が変わらないうちにその場を離れる。

 カウンターの列に並ぶのも止めて、ダメ元で昨日の倉庫まで足を運んだ。


「おう! 来たか!」


 幸い昨日会ったギルドマスター(疑惑)のオッサンがそこにいた。徹夜だって言ってたしな。


「鑑定は終わったか?」


「ああ。なんとかな。ギルドカードを出せ」


 オッサンは言われたままにカードを出そうとしたが、思い直す。

 先ほど変な貴族に絡まれそうだったし、昨日は教国に正体がバレたことが発覚したので、あちこちに私の痕跡を残すのはマズイと考えたのだ。今更だが。


「……ギルドカードがないと買い取りはしてもらえないのか?」


 今更のことを聞いてみる。こう見えてオッサン、冒険者の新米だ。まだ薬草を二回しか納品していない。


 聞き方が悪かったのか、ギルマス(仮)に怪訝な顔をされた。

 仕方がないので、事情があって最近冒険者になったばかりだと言っておく。勿論事情については話さない。


「そうだったのか。いや、買取なら誰でも持ち込みは可能だ。だが、ギルドカードがあれば評価ポイントが付くぞ。これだけ大物ならかなりのポイントになる」


 ほう、それは魅力的だ。オッサンが異端認定されてなければな。


「いや、昨日も言ったが、アレは拾っただけだ。評価されても逆に困る」


「そ、そうか。それは残念だ……」


「それより、ここで金は受け取れるか? 何か妙な連中に絡まれたんだが……」


「ああ、あいつらか」


「知ってるのか?」


「ああ。領主の遣いだろう」


「領主? ここは王都じゃないのか?」


「なんだ、そんなことも知らずにこの街に来たのか? ここは王都に近いが貴族が治めている」


「その領主が俺に何の用があるんだ?」


「決まってるだろ? シードラゴンがほしいんだろう」


「……面倒は任せる。言い値でいいから引き取ってくれ」


 ギルドマスター(疑惑)は笑って引き受けてくれた。

 オッサンの手には金貨の詰まった皮袋が。これぞWIN-WINの関係。


 え? 領主?

 知らん!


 さあ、用も済んだことだし、神の国に出発だ!




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