02 オッサン、実験を続ける
タケシです。アラフォーのオッサンやってます。
今オッサンはイギリスの北にある、フェロー諸島というところに滞在しています。勿論異世界のです。無人島でした。貸切状態。ただし、バカンス用の施設もなし。漂流したのと変わりません。
では、バカンスでないなら一体何をしているのかと言うと、海岸でケータイいじってます。
寂しい、とか言わないでください。
大いなる実験に必要な行為なのですから。
異世界であるアーシアヌ世界。やはり球状惑星のようで北極圏に近いここは昼になっても太陽の位置がかなり低い。気温も肌寒かった。まあ、地軸もちゃんと傾いているようで、夏季である現在では過ごしやすいと言ってもいい。まあ、『適温』の付与魔法のかかったマントを着ているので関係ないが。
唐突に何の話かと思われるだろうが、これもオッサンの実験に関わることなのである。
超長距離の転移を試そうとしてふと思ったのだが、転移魔法の移動プロセスってどうなってんのだろうと。
この世界が地球と同じサイズとして、赤道面での円周距離が4万㎞あまり。つまり地球上で最も遠い移動距離は約2万㎞なのだが、ちょっと待った。これって直線距離じゃないよな。目視できる短距離ならともかく、長距離なら飛行機などでの移動でも地表に沿って弧を描く軌道になるはずだ。
あれれ~。おかしーぞ~。
そういえば、アイスランド西岸から300㎞の距離にあるはずのグリーランドが見えた。雲の上の宮殿みたいなものまで。オッサンってそんなに目がよかったか?
いやいや、きっとコッチの神サマが目立ちたがり屋で何かエフェクトがかかっているに違いない。
事実、同じような距離のはずのここフェロー諸島の海岸からアイスランドは影も形も見えない。どうやら地球と同じ物理法則が通じそうだ。
神サマエフェクトは、きっとアイスランド経由のほかの神サマたちの目印に違いない。シュレが玄関とか言ってたし、神サマも複数いるそうだしな。
それはさておき、転移魔法の話に戻ろう。
長距離転移の場合、地表を弧を描くように跳ぶと仮定すると確かに移動は距離に比例して魔力を消費すると考えた方がいい。
だが、既に実験に成功したように転移魔法は間に障害物があってもきちんと発動した。
ということは、いくら地球が丸くても地表どころかマントルすら障害物と見なして真実直線移動しているのではないか。であれば、地球の反対側までの距離は2万㎞ではなくて地球直径距離の1200㎞あまりではないだろうか。
いやいや、もうこうなると、『ワープ』の言葉どおり空間を捻じ曲げたり繋いだりしてるから実質距離なんて関係なくなくない? とも思ってしまう。
魔法。物理学者泣かせだな。オッサンは社会科教師ですけど、何か?
もしくは、私のステータス表示がまともであったら、そしてMP値が人並みであったなら転移距離と消費魔力を比較してこの問題が解決できただろうに。残念である。
そんなこんなをケータイ見ながら考えておりました。
さすがオッサンクオリティ。一人でもグダグダです。
いや、だって、専門家じゃないし、ホントに必要ならアカシックさんに聞けばわかるから。
結論は一つ!
『何とかなりそう』である。
結局、謎の魔法理論で空間が繋がる。オッサンの魔力ほぼ無限大。
わーい。これでケータイさえあれば世界中自由に移動できるぞ! マジチート。ガラケーすげえ~!
ということで、リアルタイム○ーグルマップで観光地候補をピックアップ中なのである。
どうですか? ケータイいじっているのにもちゃんと理由があったでしょう?
え? 女神クエスト?
それはそれ、これはこれです。
まだ細かい実験が残ってるんですから。
オッサンは誰かに言い訳するように他の実験を始めた。ただし、目はケータイ画面から離さず。
用意しておきたい補助魔法。
その一、飛翔? 魔法。いきなり空中に転移する可能性もないことはないので、空を飛べるに越したことはありません。『レヴィテーション』とか『フライ』とか。メジャーですから問題ないでしょう。理論は……オーソドックスに風魔法かな。ついでだ、重力魔法も組み合わせよう。大盤振る舞いだ。
念じると初っ端から無詠唱で成功しました。オッサン海岸上空でふよふよ浮いてます。
その二、結界魔法。
スーパーケータイでお世話になりっぱなしの魔法である。自分でもできたら便利かなと。
ほら、空飛ぶと向かい風が酷いじゃん。
始めは平面結界から。イメージは超透明で超防弾の硬質ガラス。
おお、海の上に立てた! 忍者だ!
と思ったら波が結界を越えてきた。足が濡れた。失敗失敗。
いや、結界魔法自体は成功だよ。
波の届かない高さに平面結界を改めて作り、それに飛び乗る。
あれ? これはもう海面を歩く、じゃなくてただのエアウォーク? いや、いいんだけど。
調子に乗ってテンプレどおり結界による階段を作成。透明だと怖いので色付きも試す。
うん、カラフルな階段が海上に伸びていった。何メートルあるのかな? キロメートルの世界だろう。
体力の心配のなくなったオッサンは軽快に登っていく。
うわー、いい眺め。
シュレに『二度落ちた者』なんて謎称号付けられたオッサンだけど、幸いトラウマにはなっていないらしく、高いところでも割と平気である。
何段登ったのだろう。海岸からかなり離れてしまった。
この階段、傾斜を45度にしておいたから、オッサンにでもわかる簡単な三角関数で海岸からの距離イコール高さである。
目算で1kmありそう。つまり、現在スカイツリーを越えた!
さて、景色を楽しむのもいいが、ここで実験の続きだ。やはり上空は風が強い。ちょうどいい環境である。
階段上部に10m四方の平面結界を張り床代わりにする。勿論不透明なヤツだ。
そこでオッサンは平面結界を応用して身体全体を包み込むような結界を張ってみる。
形状の変化は然程難しくないが、問題なのは動きである。
平面結界は空間に対して静止していたが、身体を包む結界は身体の動きに合わせて動かなければ役に立たない。
条件は……身体の表面から10cmのところに物理結界を展開。常時この設定を維持。
こんなところだろうか。あ、実験のため薄く色を付けました。
「おお。風が止んだ」
実際は止んでません。風が顔に当たらなくなっただけです。音は余計酷くなった感じ。結界ごと押される感じもする。
まあ、そこら辺は後で改良しよう。とりあえず身体を動かしてみる。
まずはゆっくりと手を上げる。
うん。結界も手の動きに合わせて動いた。
次は歩いてみる。
これも成功。二、三歩だが、結界ごと移動できた。
次は高速運動なのだが、場所的に全身移動は無理そう。ただ、手足を適当にバタバタ動かしても結界はついてくる。どうやら成功といっていいだろう。
あとは結界の強度だが、これはイメージすれば何とかなりそう、かな。
「ハア、ハア。あ、あと実験しておいたほうが、ハア、ハア、いいのは……あれ? 何で息苦しい? 疲れないはずじゃ……かっ、解除!」
オッサン、慌てて結界を解除しました。思いっきり深呼吸します。
いやー、まいった。すっかり酸素のこと忘れてた。
気付いたからよかったものの、あのまま酸欠で気を失ってたら結界を解除しないまま窒息死してたな。恐ろしい。
ああ、なるほど。これがラノベで出てくる呼吸するタイプの魔物を無双するテンプレ技か。オッサン自身が体験したからわかるが、エゲツねえー。使用は控えめにしておこう。
当たり前だが、オッサンは酸素がなければ生きていけないらしい。シュレも流石に『無呼吸』なんて人間やめているスキルはくれなかったようだ。素直に感謝しておこう。
だが、肝心の全身結界の開発が暗礁に乗り上げた。
空気穴?
却下だ。次に予定している実験では文字通り穴となってしまう。毒ガスとかにも対抗できない。
では、結界内で酸素を発生させる?
どうやって? 光合成でもするか? 植物の魔物はできそうだな。人外認定されるから却下。
光合成は冗談だが、考え方はアリだ。
例えば、『召喚魔法』。空気自体を他の場所から持ってくる。いや、別に召喚魔法でなくとも。『水魔法』は水を生み出せる。『土魔法』は石礫を生み出せたな。じゃあ、空気は?
『風魔法』か!
よし、早速実験だ。
実験だから全身ではなく頭だけ結界で覆う。フルフェイスのヘルメットだな。未来的な。
で、風魔法で空気を生み出すように念じる。酸素濃度を一定に保つようにイメージ。
数分経った。おそらく成功している。
ヘルメットサイズなら、中の空気はそんなに多くないはず。普通なら既に息苦しくなっている頃だろう。
「よっしゃあ! あ、うるせー……」
実験の成功で浮かれて大声を出したが、結界内部は音が反響して酷いことに。
オッサンはすぐさま次の実験の準備に取りかかった。
と言っても、ラノベでよくある豆知識みたいなものであっという間に終わる。
まず防音結界を張る。これは結界を二重にして間を真空にすることでクリア。もしかしたらケータイの防音結界とは仕組みが違うのかも知れない。
真空では完全防音だから、他人と意思疎通したいときは結界間の気圧を上げればいい。外音に対して自動で調節できれば完璧なのだが、それは追々研究しよう。
強度に関してはもっと単純だ。三重四重に物理・魔法攻撃結界を張ればノープロ。
よし! 準備完了!
オッサンは平面結界の端に立つ。下を覗くと海面が遥か下方に見える。
オッサン、躊躇せずにダーイブ! 通算三度目、異世界では初めてのノーロープバンジーだ!
何もトチ狂ったわけではない。初めから結界の強度テストのためにこの実験は考えていたのだ。ホントですヨ。
何でも水面に100mも落下するとコンクリート並みの衝撃を受けるそうで、魔物と直接戦うよりは穏やかに実験ができるのではないかと。
で、オッサン自由落下中。一度目と二度目の落下ではそれどころではなかったのですが、今はとても落ち着いて近づいてくる海面を見ていることができました。
あっ、もうすぐ着水です!
おっと、オッサン、華麗にターンを決めた!
ハイ。ヘタれてしまいました。『浮遊魔法』で即衝突回避しましたよ。だって、危険じゃないか!
安全係数高めなオッサンは、その後10mぐらいの高度から数メートル刻みで高飛び込みを繰り返し、最終的に最初の目標高度1kmからの着水実験に成功したのは午後になってからでした。
オッサンは叫んだ。
「次は宇宙だ!」




