01 旅の始まりに
第二章開始です。
「知らない天井だ……」
どうも。オッサンをやってるタケシです。
異世界転移してから八日目、かな? の朝です。まだテンション高めなので寝起きは思わず定型文になってしまいます。全く困ったものです。
実際天井はありません。正確に言うとテントの中です。自分で組み立てたものですから知らないわけがありません。なのに『知らない』と言わせてしまう、これが異世界クオリティーなのか! 恐るべしファンタジー!
え? 単なる中二病?
……最近自覚はあります……
いや! リハビリ中なんです!
そう! この旅はオッサンが社会復帰? するための修行の旅! 諸国を巡って庶民の暮らしに馴染んでみよう。いつまでも『異世界』とか言っててはダメだ。これは現実なんだからオッサンもアーシアヌ世界の住人にならなければ。
よし! きれいにまとめたところでそろそろ起きるとするか。
オッサンは狭いテントの中モゾモゾと毛布を片付けると、既に日が差し込んでいる出入り口の垂れ布からそっと顔を出してみることに。
ここは王宮ではない。魔物が徘徊している可能性もあることに気付いたからだ。
幸い魔物の姿はなかった。
だが、オッサンはフリーズ状態になる。
「おはよう、タケシ君。今回の君の使命だが――」
「……」
どうやらまだ夢の中のようだ。もう一度寝直そう。
オッサンはスッとテントの中に顔を引っ込めると畳んでおいた毛布を広げ、力なく横になった。
目を瞑っても眠れない。おかしい。夢のはずなのに。
あ~。頭の中がぐるぐるしている。二日酔いなのか? 夕べは酒も飲まなかったというのに? 一昨日王様と飲んだ酒が今頃回ってきたのか?
混乱の中オッサンは考えた。
テントから顔を出した時に目に入った人物について。
ここは森の中。北に向かう道中、どうせなら王都の北の森に寄って採取しながら北上しようと思い、結果一日では踏破できずそのまま森の中で野営となった。
それでも神サマ謹製の結界を持つオッサンは楽観視していた。
だが、実際にテントの入り口まで接近されている。
そこも驚くところだが、その人物が幼児だったこともショックの一因である。
それでも、もしその人物が冒険者ルックであったなら、成人しても小柄な種族なのかも知れないという逃げ道があったかもしれない。もしくは、幼児形態をとる魔物、狐狸妖怪の類なのかもしれないと別の意味で緊張感を持てただろう。
だが、その人物は森の中では似つかわしくない純白のワンピース姿の幼女なのだ。黄金のストレートヘアが朝日に輝きウザイくらいである。
もうお分かりだろう。その人物とは、人ではない、しゅ……いや、止めよう。これは夢なのだ。言葉にすれば言霊の力によって現実になるかもしれない。かもしれないじゃないな。実際この世界はそうやって成立したのだから。
うん、考えないようにしよう。
じゃあ何を考えよう?
よし、昨日王都を出発してからのことを話そう。話そう?
王都を出た私は、何故だかわからないが(口にすると面倒な存在からもらったチート)体力・持久力が地味に増えているらしく、いくら歩いても疲れもしないことをやっと自覚できたため、ほぼ競歩のようにして街道を爆走した。
街中ならともかく、街から街への移動に時間を取られるのは日本人の気質として勘弁してほしいのである。
あ~、早く転移魔法が使いたい。報酬の前渡しで使えるようになるはずだったのだが、グダグダの交渉だったからな。しゅれ……おっと、考えちゃいかん。
ともかく、高速移動中に北の森らしき場所が目に入り、前述の通り寄って行くことにした。手持ちの現金も心許なかったという理由もある。
聞いた話では中級冒険者御用達だそうだが、東の森に比べれば大したことがないという情報もあって、初心者も初心者のオッサンは躊躇なく踏み込んだ。
そして、そこで起こった出来事というのが――
チッ、とうとうテントの中まで入ってきやがった。
謎スキル『高速思考』を使ってまで現実逃避していたのに。
結界が張られているのに何故? という疑問は『ぶっちゃけ本人が作ったものだから』という身も蓋もない理由で無効化されているのだろう。あ~あ。ホントに夢だったらよかったのに。
おそらくオッサンが再び顔を出すのを待っていたが待ちきれなくなっての行動だろう。
それにしてはオッサンが起きた時タイミングよくテント前にいたな。いつから待ってた? まさか昨日からか?
未だ寝た振りを続けるオッサン。
何か悪い予感がするのだよ。ビンビンに。せめてもの悪あがきなのだよ!
「おはよう、タケシ君。今回の君の使命だが――」
同じセリフを繰り返すところなんて、どうしてもオッサンに突っ込んでほしいのか?
流石全知全能。オッサンが寝たフリということをわかっているらしい。
え? バレバレですか?
あ、おはようございます、アカシックさん。寝たままで失礼します。
いえ、とんでもない。喜んでつき合わせてもらいます。他ならぬアカシックさんの頼みとあらばこの反村武士、火の中水の中、結界があるので安全に飛び込んで見せましょう!
そんなふうにアカシックさんと和やかに夢の中会談を行っていたが、シュレのやつ、何だか使命とやらについて得々と語っていた。
『高速思考』はあるが(未だ本物という確証はない)、『並列思考』とかのスキルはないのでほぼ聞き流している。オッサンは寝たフリで忙しいのだよ。
「――例によって君もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。
なお、このテープは自動的に消滅する――」
「おいっ! それって爆発するってことじゃねえか! そもそもテープじゃねえええ!」
穏やかならぬ展開が思い浮かび、思わず跳ね起きました。
他に色々突っ込みどころがありましたが、ネタとしてスルー推奨です。道理でシュレにしては語尾が正常だと思った。
ですが、爆発ネタは勘弁です。神サマの面白半分の爆発はビッグバンレベルかもしれません。しかも結界無効ではオッサンは第二の人生終わってしまいます。
「おお。やっと起きたか、なの」
安物テントは幼女サイズでも小さかったらしく、シュレは四つんばいになって私の方を見ていた。
くっ、今日はケモ耳バージョンではなかったか。残念……いやいや、不埒なことは考えてませんよ、ホントに!
「朝っぱらから何の冗談だ? 如何にもなネタ振りやがって……」
心の動揺を寝起きが原因のように装い、私は狭いテントの中幼女と向き合う。うむ、上手く誤魔化せたようだ。
「何を言って居るのじゃ。使命があるのを忘れたとはいわせんぞニャン」
「使命? ああ。そうだったな。ネタとしか思えなかったから気付かなかったんだぞ。忘れたわけじゃねえぞ」
何故だか言い訳がましくなっているオッサン。
「わかっておる。何、ワシも調子に乗りすぎた。昨晩ビデオを見ていたら止まらなくなってのう、全くこれだから地球の文明は……」
なるほど。ダイレクトに影響を受けてバグったって言いたいワケね。
だが、単に内容にハマっていたとしか思えんな。
昨日の夜は珍しく何の連絡もないもんだから、まだ機嫌が悪いのかと心配したのは内緒である。
なるほど、言動に表れるほど見てたのか。ひょっとして徹夜か? シリーズ多そうだからな。オッサンは触りしか見たことないけどさ。だから私の起床に合わせられたのか。ご苦労なこった。
「で? 結局使命の件はどうなってんだ? 詳しい話はアレっきりなんだが」
そうなのである。
済し崩しに受けさせられた『女神クエスト:アーシアヌ世界の神サマたちと交渉しよう!』なのだが、報酬の『転移魔法』は魅力的なのだ。
何より、私は未だにこの世界ではイレギュラーな存在らしく、ステータス表示も含めて、アカシックさんのサポートやシュレの気まぐれがなければ魔法をまともに使えない状態なのである。
無論その調整もシュレがその気になればあっという間なのだが、気まぐれにも程がある。
結果、自分でアーシアヌの神サマに会って住人と認めてもらい『本物』の加護を授けてもらわないと第二の人生が始まったことにはならない。
めんどくせーっ!
ということで、一応は前向きなのだが、シュレと会話しているとどうしても話が脱線する。仕様なのか! と突っ込みたくなるほどグダグダになってしまうのだ。
こっちの神サマがどこに住んでいるのか、どうやって生身の人間サマがそこまで到達できるのか、結局転移魔法はどうなったのか、とまあ色々問題がある。
やっぱりお前が一人で行ったほうが早いんじゃね? と言いたいところを我慢してとりあえず詳細を聞こうではないか。
「寝惚けておるのかニャン? 先ほど説明したであろう、ピョン」
「……ああ、寝てたから聞いてなかった……」
しれっとウソをつくオッサン。いや、横になってたから『寝てた』は正しい。聞いてなかったと正直に答えたから気分はジョージだ!
どうやら先ほどのネタは中身がネタではなかったようである。紛らわしいな、おい!
「……では、もう一度だけ聞かせてやろう、なの。次はないっちゃ!」
「ハイ。耳かっぽじって聞きマス」
シュレも、どうやら私たちが脱線しやすい性質だと言うことに気が付いたようで、普通に説明が始まる。
オッサンも真剣になろうではないか。
で、わかったこと。
神サマの住居は、地球の北欧とされていて、こちらの世界では人跡未踏の土地なのだそうだ。まあ、神話になってる場所だし、何より寒そうだしね。
なるほど。神聖教国とやらがあの場所にあるのは伊達ではないのだな。
と思ったら、そこはフェイクで、実はグリーンランドにあたる場所に結界を張って神域にしているんだって。教国ざまあ!
更に寒そうだ。しかも大西洋で隔てられている。まさかアトランティスではないだろうな。なんだがゴチャゴチャしてきたな。
しかし、どちらにしろ神域に入るにはシュレの力が必要だ。海も転移魔法があればなんとでもなるだろう。この期に及んでオッサンに人力で渡海しろ、などと鬼畜なことは言わないだろう。言わないでください管理神サマ! オッサン、バイキング志望ではありません!
で、恐る恐る神域突入法と転移魔法について御伺いを立ててみたところ、
「は? 何を言っておる。お主は『魔道の極み』を持っているジャロ?」
というありがたいお言葉をいただきました。
「そ、そうか。あ、ありがたい。これで旅も楽になる……」
旅も始まったばかり。
精神的に大怪我した気分だが、差し当たって不都合はないので何とか言葉を搾り出した。
「そうじゃろうとも。感謝せよ、なの!」
ウゼー。
だが、実際旅が楽になるのも、危険な目に遭った時緊急離脱できるのもいいことである。感謝はしておこう。
おっと、お約束のスキルにはお約束の制約があるはずだ。聞いておかないと。
「感謝はするが、使い方は? 一度行ったところでないと跳べないとかだと、結局歩いていかなきゃならんのだが」
「ふん。応用を利かせぬか。オタクであろうニャン」
思いっきりバカにされたが、黙って説明を聞くオッサン。耐えるのだ!
なるほど。目視転移はできる。超ケータイのリアルタイムグー○ルマップで現地を確認して転移か。
ああ、よくある『千里眼』プラス『転移』ね。マジチートじゃん!
わかった。
「よし、じゃあ、さっさと神聖教国とやらに行って、買い物が終わったら神サマんとこ行ってみるか」
だが、無情なるなる爆弾発言が。やはり爆発ネタを引っ張る気か! (混乱状態:小)
「それなんじゃが、お主の買い物に付き合うのは面倒……時間の無駄じゃ。玄関まで送ってやろう、だっちゃ。ほれ、着いたぞよ」」
言った! 面倒って言った! しかも言い直しても更にヒドイ!
「って、着いたってどこに……」
シュレがズリズリと後ろ向きに這って外に出て行ったため、私も外に出ることに。
ツンと漂ってくるのは、潮の香り? ここ森の中だったはず……
「なんじゃこりゃ……」
眩しい朝日の中、オッサンの目に飛び込んできたのは、紺碧の大海原でした。(混乱状態:大)
「ほれ、遠くに見えるジャロ? アレがこの世界の神の土地、なの」
旅立って二日目の朝、唐突にオッサンの旅路は終わってしまいました。いいのか、これで!
すみません。第二章終わりました。




